38歳で5年契約の長谷部誠「日本への還元は期待しないで」の真意 | FRIDAYデジタル

38歳で5年契約の長谷部誠「日本への還元は期待しないで」の真意

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ヨーロッパリーグ準々決勝、バルサ戦でピッチに立ったフランクフルトの長谷部誠(写真:アフロ)

まさかの勝利だった。現地時間4月14日、ヨーロッパリーグ準々決勝でフランクフルトが あのバルセロナを破ったのだ。チーム最年長の長谷部誠は約11分あった後半追加タイムにわずか2分程度の出場にとどまったが、功労者をわずかでもピッチに立たせたい、という指揮官、クラブの思いが透けて見えるような交代だった。

後半45分も経過し、追加タイムが1分経過した91分、投入されるためにピッチ脇に立ったところで相手が得点したため、グラスナー監督は一旦長谷部らをベンチに下げ、終了が見えてきた99分になってようやく投入した。試合後の長谷部は仲間達と心から勝利を喜んでいるように見えた。

フランクフルトは今年2月、長谷部誠との5年間の契約延長を発表した。長谷部は2014年夏にフランクフルトに加入した時のみ2年契約を結び、2018年以降は全て1年契約を結んできた。この単年契約はベテラン選手にとっては珍しいことではなく、長い契約を結ぶよりもお互いにどこまでできるか様子を見ながらやっていこうというようなこと。

ところが今回は5年契約。この1月に38歳となった長谷部は5年後には43歳だ。なぜクラブはそこまで長い契約を結ぶことにしたのか。マルクス・クレシェスポーツディレクターは高い評価を口にする。

「長谷部誠は、プロのクラブなら誰もが望む選手。年齢を重ねても、ピッチ上での能力はブンデスリーガの高い水準に達している。人格者として、特に若い選手にとっては重要なファクターである。また、戦略家であり、落ち着きのある人物で、非の打ち所がない。

彼が長期的にロールモデル、重要な人物としてクラブに残ることと、彼にとってのコーチングスタッフとしての最初の経験を提供できることは、我々にとって重要なことです」

現在フランクフルトの選手として259試合に出場しており、これは現役最多。2014年からの8シーズンでは、15/16シーズンには1部残留争い、16/17シーズンはドイツ杯準優勝、17/18シーズンでドイツ杯での優勝、18/19シーズンのヨーロッパリーグ準決勝進出とクラブの成長を共にしてきた選手だ。活躍して移籍することもなく、安定してクラブに貢献してきた点は高く評価されているのだろう。

長谷部本人は自身への評価をこう見ている。

「自分で言うのもなんなんですけど、人間性というか……。僕がクラブに対して貢献してきたものっていうのはもちろん、選手として貢献してきたものだけでなく、人間性の部分だと監督とかスポーツディレクターが言ってくれています。まああと、彼らはおそらく僕が指導者という道を選んでいくことに関してもポテンシャルを感じてくれているのかもしれないですね」

ここで言う人間性というのは、日本語でのニュアンスよりももう少し広く、長谷部の場合、練習に対する真面目な態度、勤勉さなども含んだ性格、人柄と受け取った方がよさそうだ。

2018年、日本代表の主将としてのぞんだロシアW杯後、帰国した際に、空港は多くのサポーターでごった返した(写真:アフロ)

長谷部自身があげている、指導者へのポテンシャルという意味では昨年秋から、ドイツサッカー協会が試験的に始めたトップ選手向けのコーチングライセンス講習を受講し始めている。サミ・ケディラやイルカイ・ギュンドアンら著名な代表選手が受講しており、忙しい代表活動の間を縫って現役選手でもコーチングライセンスを取得できるよう考えられているこのコースに通えているということ自体が、クラブから指導者としての今後を考えられていることと見るのが自然だ。

「クラブも指導者としてのところを考えてくれていて、長い契約、長い目で見てくれていると思う。選手からの次のステップが指導者だと考えたときに、これだけクラブが評価してチャンスを与えてくれているのであればそれを逃す手はないなと」

2月に締結した5年契約は選手としてだけでなく、指導者への移行も含まれていることが前提となっている。もちろん5年間選手として全うする可能性も、また他のクラブに選手として移籍する可能性も、年齢的にもゼロではないが限りなく低いと長谷部は認めている。

とはいえ、長谷部は引退後を指導者の道一本と決めている訳ではなく、現段階では難しさも感じていると明かす。

「指導する選手たちや親御さんたちとのコミュニケーションをとりパーソナルな部分に踏み込むことを考えると、正直、それをドイツ語でやるということに難しさを感じているというのがあります。やっぱりこの語学力で勝負……、というのは非常に難しいなと感じています。

あとは今はB級というライセンス講習を受けているけれど、Aを経てトップのランクのコースを受講するにはかなりの審査もあります。難しさは感じていますけど、チャンスがあればトライしてみたいなとは思っています」

ここ10年強で日本人の海外組の選手は増え続けたが、海外でライセンスを取得したトップレベルの監督はまだいない。日本サッカー界は選手たちの海外での経験値が上がる一方で、指導者の経験値を上げる難しさに直面しているところだ。ただ、長谷部はこう言う。

「(日本サッカーへの還元は)あまり期待しないでほしいというのが正直なところです。日本サッカー界のことを考えればたしかにもちろん時代の流れで選手がどんどん海外にでてきて、指導者もヨーロッパで指導できる人材が増えてくればいいかなと、それも自然な流れかなと思います」

欧州での指導の先に、日本での指導を。元代表主将の長谷部であれは日本代表監督も……などとどうしても勝手な絵を描いてしまう。

「でも、期待を背負ってるという感覚は特になくて、僕自身もほんとに指導者に100パーセント進むかと言われたらイエスと言えない部分も正直ある。チャンスが与えられるのであればチャレンジしたいな、という感覚です。

語弊があって日本サッカーファンをイヤな気持ちにさせたいわけではないのですけれど、日本サッカーのためという考え方を前提にやるよりは、自分が高いレベルで高いサッカーのレベルの中にいられたら、それはすごく学ぶことが多い、という考え方です。

最終的に日本サッカーのためになれば嬉しいんですけど、日本サッカーのためにこっちで指導者をやろうという前提があるわけではないんです」

来季からの5シーズンの中で、どこまで選手として戦い、どこから指導者に移行するかは未定だ。日本人選手としては前代未聞のチャレンジ、注目したい。

名門バルセロナに勝った後、チームメートと喜ぶ長谷部(写真:アフロ)
2019年、ヨーロッパリーグでイタリアの名門インテルと対戦したとき。所属クラブでも主将を任された長谷部はクラブから全幅の信頼を置かれている(写真:アフロ)
  • 取材・文了戒美子

    1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U-20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住

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