WBO王者・谷口将隆が明かす「絶望の初防衛戦」の舞台裏 | FRIDAYデジタル

WBO王者・谷口将隆が明かす「絶望の初防衛戦」の舞台裏

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第11ラウンド残り34秒。WBOミニマム級チャンピオン、谷口将隆の左ショートストレートが石澤開の顔面を捉える。挑戦者がよろめくと、レフェリーが試合を止めた。

次の瞬間、谷口はニュートラルコーナーのポストによじ登り、客席に向かってガッツポーズを繰り返す。そしてキャンバスに足を付けた後、まず同僚のWBAライトフライ級スーパー王者、京口紘人とグローブでタッチを交わした。

谷口の左ボディーが冴えわたった試合だった

4月22日、谷口は同タイトルの初防衛に成功した。

「ホッとしたという気持ちしかありません」

試合の翌日、谷口の口調はいつも通りハキハキとしていた。挑戦者、石澤が計量で2.5キロものオーバー。2時間後の再計量でも200グラムしか落とさず、それでいて万が一試合に負ければベルトを失うという状況に置かれた。

谷口陣営の一員として計量会場にいた京口は振り返る。彼らは同じ年であり、アマチュア時代に6度対戦し、京口の4勝2敗。谷口は龍谷大学、京口は大阪商業大学で共にキャプテンを務め、卒業と同時にワタナベジムの寮に入って切磋琢磨してきた親友同士だ。

「谷口は極限まで絞り切った状態でしたが、石澤くんの体は大きかったです。減量も体力を奪われますから、ダメージは谷口のほうが大きそうでした。

谷口って本来、ネガティブな事を言わない男ですが、試合前には『負けたらどうなるんですか?』なんて言葉も発していましたから、心配しました。石澤くんも再計量で200グラムしか落とさず、何が何でもリミットまでもっていこうという気持ちが見えなかったですよね。

健康面を考慮してなんでしょうが、再計量前にやったのは唾吐きだけ。それで2.5キロも落ちるはずがないし、サウナスーツを着て動くということもしないので、体力温存しているのか、これも戦略なのかと感じました」

石澤が200グラムしか落とさなかったことを耳にした私は、2005年10月8日にラスベガス、トーマス&マックセンターで催されたディエゴ・コラレスvs.ホセ・ルイス・カスティーリョ戦を思い出した。その5カ月前、WBOライト級タイトルを保持していたコラレスと、WBC同級王者だったカスティーリョとの統一戦は、激しい打ち合いとなり、ダウンを奪い合いながらコラレスが勝利を掴む。雪辱を期したカスティーリョだったが、リターンマッチ前日の計量で2パウンド(約0.91キロ)の超過。2時間後の再計量では、さらに1.2パウンド膨らみ、計1.45キログラムオーバーで、タイトルマッチとしての開催はキャンセルされた。

カスティーリョは、ファイトマネーの10%にあたる12万ドルの罰金を払ってリングに上がり、ノンタイトル戦ながら4ラウンドでコラレスを沈めて勝者としてリングを降りた。

終わってみれば自身の「ベストバウト」とも評される激闘に。本当に、勝ってよかった…

谷口と石澤は2019年9月21日に日本ミニマム級タイトル挑戦者決定戦で拳を交え、谷口が判定勝ちしている。リミットオーバーとなりながらも、試合にだけは勝ちたいと、石澤は余力を残したのかもしれなかった。

谷口もその時の気持ちを語った。

「現実として受け入れられなかったです。僕も減量がきつかったので、正直なところ頭が正常に動いていませんでした。ただ、再計量で1キロは落としてきてくれるだろうと勝手に思っていたんですよ。2.5kgオーバーって、1階級上のライトフライ級のリミットにも達していないじゃないですか。漠然とライトフライがボーダーラインかなと思っていたんです。51.1kgから無条件に戻すのと47.6kgから制限なしで戻すのでは圧倒的な差がありますよね。2時間後に200グラムしか落ちていないと聞いて、もうちょっと頑張ってくれよと感じました」

日本ボクシングコミッションと両陣営の話し合いにより、試合当日の17時半に石澤がミニマム級リミットプラス3キロ以内の体を作る条件で、タイトルマッチを決行する方向で動き出す。WBA、WBC、IBFで挑戦者が体重超過した場合、試合が行われてもベルトの移動はないが、WBOは王者が黒星を喫した際にタイトルを失い、空位となる。谷口にとっては、リスクばかりの試合となった。

「当初はやりたくないと言ったんですが、3キロプラスで試合成立と決まったからには、『やってやる』と切り替えました。石澤選手の人間性は知っていたので、彼がわざと体重を作ってこなかったはずはないな、と。何かアクシデントがあって、限界だったんだろうという気持ちでした。これが海外の適当な選手だったら『絶対に落としてください』となっていたでしょうが。

勝てば防衛。負けたらベルトを失うのは普通のことだな、勝てばいいんだと。『やる!』と決めた後に、ネガティブな思いは無かったですね。逆に計量オーバーで注目度が増したくらいに考えていました(笑)」(谷口)

試合のおよそ1カ月前、谷口は「石澤に全てを出させたうえで、自分の方が数段上であること示したいです。リング内で、『もう、どうしようもない』と困惑し、『届かなかった』と感じさせる内容で勝ちますよ」と言ったが、言葉通りの展開となる。

「石澤選手が出てきてくれるので、<脱力してはぐらかす>をテーマとしました。彼の動きは予想範囲内でした。コンディションが仕上がっていなかったというのはありますが、どうすることも出来ないというところまでは、追い込めたかな」

セコンドに付いていた京口も想起する。

「谷口は細かく打つ左、色んな角度からのアッパー、ボディの真ん中を狙うパンチなどを織り交ぜていて、ポジション取りも良かったですね。膝を折り曲げてボディワークで躱すシーンなんて、パーネル・ウィティカーみたいで高度なディフェンスでした。柔軟性のある日本人離れした動きでしたよ。見栄えが良く、ポイントも稼いでいましたね。

石澤くんが打ってきても、外してリターンでカウンターを返したり、ロングアッパーで棒立ちにさせたりとか、谷口はやりたいようにやりました。僕の中では今回の試合が、谷口のベストバウトです」

谷口は、昨年12月14日にウィルフレド・メンデスを11ラウンドTKOで下し、世界王座に就いてから間違いなく一皮剥けた。本人も「世界チャンピオンとなって視野が広くなったし、余裕が生まれたと思います」と話すが、ボクサーとしてだけでなく、人間としての奥ゆかしさも見せた。試合後の勝利者インタビューでも、記者会見でも、石澤を慮る発言を繰り返した。

「戦ってみて石澤選手の成長を感じました。1ラウンドから11ラウンドまで、パンチは生きていましたよ。本人が決めることですが、これでやめるのはもったいないと思います。人間って、反省から多くを学ぶじゃないですか。

僕自身、世界タイトル初挑戦でビック・サルダールに負けたことが、物事を考えるきっかけとなりました。あれが分岐点でしたし、サルダール戦の敗北があるからこそ、世界チャンピオンになれたのです。ボクシングを勢いでやる、ただハードな練習をこなすのではなく、一つ一つの練習の意味、テーマを考えてやるように変わりました」

そんな谷口の姿を目にした京口も語る。

「大人だなと思いますけれど、結果が伴ったからこその台詞だとも感じました。勝ったからこその言葉ですよね。結果が違っていたら、とてもああは言えないでしょう。仮に谷口が負けていたら、問題になっていたと思いますよ。僕が谷口の立場だったら、あんなことを言えるかどうかは想像もつかないです。数百グラムだったら、同じような感情になったかもしれませんが、2.3キロもオーバーした相手に対して、谷口のような発言ってなかなか出来ないですね。ただ単に凄いなぁという印象です」

そして今、京口は6月10日に内定したWBAレギュラー王者、エステバン・ベルムデス戦を見据える。

「谷口にいい刺激を受けました。次は俺だな、という思いです。エステバン・ベルムデスは、色んなボクシングを器用に出来るようですね。中間距離からロングのビッグパンチを持っていて、当て勘もいい。独特のリズムで打ってきます。14勝(10KO)3敗2分けという戦績以上に強い選手かなと思います。今回は、敵地であるメキシコシティーでの戦いです。そんななかで、きちんと仕事してきたいです。

高地対策もあるので、3週間前に現地に入る予定です。去年の3月から試合が出来ていないなかで、楽しみにしていたファンの方に納得して頂ける内容で防衛したいですね。メキシコでもファンを掴んで、更にパワーアップしますよ。そして、年内に(WBCライトフライ級王者の)寺地拳四朗と統一戦をやりたいです。僕は今、WBAから指名されたベルムデス戦を優先しなければいけないのに、彼から逃げているなんて言う人がいるんですよね。拳四朗と戦う気持ちは十分にありますよ」

谷口と京口の強力なツーショット。ワタナベ黄金時代の到来を思わせる

2016年、大学卒業と同時にワタナベジムの門を叩いた2人は、それぞれ世界チャンピオンとなった。良き友でもある彼らのライバル物語は現在進行形だ。次は、どんな姿を見せてくれるか。

  • 取材・文林壮一写真山口裕朗

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