「N-BOXが販売首位奪還」報道に隠されたランキングのカラクリ | FRIDAYデジタル

「N-BOXが販売首位奪還」報道に隠されたランキングのカラクリ

トヨタ・ヤリスに抜かれていたのはナゼ?

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2017年に2代目が誕生したN-BOX。23年にフルモデルチェンジが予定されている/photo by アフロ

「ヤリスが1位」になったのはなぜ?

2021年度(2021年4月から2022年3月)の国内における新車販売台数を振り返ると、1位はホンダN-BOX(19万1534台)、2位はトヨタヤリス(19万1414台)とされる。わずか120台の差で、2021年度はN-BOXが国内新車販売の1位になった。

今までの流れを年度別の販売統計で振り返ると、N-BOXが現行型にフルモデルチェンジされた2017年度から2019年度までは、N-BOXが1位だった。

ところが2020年度のN-BOX(19万7900台)は、ヤリス(20万2652台)に1位を奪われてしまう。それが2021年度は、N-BOXが再び1位に返り咲いた。

これが一連の流れで、広く報道もされているが、大きな見落としがある。それは日本自動車販売協会連合会の公表するヤリスの登録台数が、コンパクトカーのヤリス+SUVのヤリスクロス+スポーツモデルのGRヤリスを合計した数字になることだ。

クルマを買う時の認識では、ヤリスとヤリスクロスは別の車種だ。ヤリスのライバルは、コンパクトカーのホンダフィットや日産ノートで、ヤリスクロスのライバルは、コンパクトSUVのホンダヴェゼルや日産キックスになる。

つまりコンパクトカーのヤリスとコンパクトSUVのヤリスクロスを合わせて「ヤリス」と算出するのは、ユーザーから見ると、ホンダのフィットとヴェゼルを合計するようなものだ。販売統計は「通称名別」で公表されるから、ヤリスシリーズとして合計され、ユーザーには違和感の伴う数字も見られる。

ほかの車種では、カローラが挙げられる。3ナンバーサイズのカローラセダン+ワゴンのカローラツーリング+5ドアハッチバックのカローラスポーツ+継続生産される5ナンバー車のカローラアクシオとカローラフィールダーまで加えた台数だ。ノートの登録台数にも、上級のノートオーラが含まれる。

「届出台数」は参考にならない

全国軽自動車協会連合会が公表する軽自動車の届け出台数も同様だ。ダイハツムーヴにはムーヴキャンバス、スズキワゴンRにはワゴンRスマイル、スズキアルトにはアルトラパンも含まれる。

このほかスバルXVの登録台数は、インプレッサに含まれる。以前の車名はインプレッサXVで、今でもXVのボディはインプレッサスポーツと共通化しているからだ。「インプレッサ」の登録台数は、ハッチバックのインプレッサスポーツ+セダンのG4+SUVのXVになる。

以上のように小型/普通車の登録台数や軽自動車の届け出台数は、クルマを選ぶ時の参考にならない場合もあるから注意したい。

話をヤリスに戻すと「ヤリス」としてシリーズ化された登録台数のうち、コンパクトカーのヤリスは全体の約45%を占めた。コンパクトSUVのヤリスクロスも45%前後で、残りの10%がスポーツモデルのGRヤリスだ。

そうなると2020年度にはヤリスシリーズが20万2652台を登録して、19万7900台を届け出たN-BOXから国内販売1位を奪ったが、ヤリスとヤリスクロスを分割すればN-BOXが圧倒的に多かった。

2021年度も同様だ。ヤリス、N-BOXともに19万台少々の僅差でN-BOXが上まわったが、ヤリスとヤリスクロスを分割すれば、それぞれ8万5000台前後に下がる。以上のように近年では、年度を問わず、N-BOXが国内販売の実質的な1位になる。

N-BOXがトップであり続ける理由

それならなぜ、N-BOXは国内販売の実質トップを長く保てるのか。この背景には複数の理由がある。

まずは2011年に登場した先代(初代)N-BOXが、好調に売られたことだ。年度別に振り返ると、発売の翌年に当たる2012年度以降、先代N-BOXは、ほぼ一貫して軽自動車の販売1位をキープしている。2014年度は先代タントが軽自動車販売の1位になったが、ほかの年度はすべてN-BOXだ。

先代N-BOXの売れ行きが好調だったから、2017年に登場した現行型も、先代型の路線を踏襲しながら開発と製造に費やすコストをさらに高められた。

その結果、現行N-BOXは内外装が一層上質になり、エンジンやタイヤが発するノイズを小さく抑えられた。乗り心地も上質で、軽自動車の枠を超える質感を備える。
現行N-BOXの全高は、前輪駆動の2WDでも1790mmと高く、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2520mmだから、N-WGNなどと並んで軽自動車では最長だ。これらの相乗効果により、N-BOXの車内は軽乗用車では最も広く、なおかつ外観も立派に見せている。

後席をワンタッチで格納すると、自転車を積める大容量の荷室に変わり、2列シートの軽自動車ながらもミニバンのような使い方が可能だ。子育て世代から中高年齢層まで、幅広いユーザーが安全かつ快適に活用できるため、N-BOXは2代目の現行型になって売れ行きを一層伸ばした。

特に先代N-BOXのユーザーが現行型を試乗すると、質感や装備の進化が明らかに分かる。しかもN-BOXは、中古車市場での人気も高いから、先代型も高値で売却できる。そうなると現行型への乗り替えもしやすい。

この点について、ホンダの販売店は次のように説明した。「今は軽自動車の人気が高い(2022年1〜3月は国内新車販売台数の38%が軽自動車だった)。そのために他社のお客様がN-BOXを購入することも多い。先代N-BOXからの乗り替えもあるから、販売がN-BOXに集中している。先代N-BOXも高値で売れるから、新型への乗り替えも提案しやすい」。

直近の状況では、納期の違いもあり、この点も販売店に尋ねた。

「今は車種によって納期が異なる。ヴェゼルはe:HEV・Zなどが約1年を要しており、e:HEV・PLaYはさらに延びたから受注を中止した。フィットの納期も4ヵ月から半年と長い。その点で軽自動車は比較的短く、N-BOXも3ヵ月以内に購入できる。今はあまり待たずに買えることも、人気の一因になっている」

これらの事情により、直近の2022年3月は、国内で新車販売されたホンダ車の35%をN-BOXが占めた。N-WGNなども含めた軽自動車全体になると53%に達する。

「コンパクトなホンダ」のイメージ

N-BOXをはじめとするホンダの軽自動車がここまで好調に売られると、ホンダのブランドイメージもコンパクトな方向へ進む。軽自動車の売れ行きに、コンパクトなフィット+フリード+ヴェゼルを加えると、2022年3月には、国内で新車として売られたホンダ車の約90%に達した。アコード、シビック、CR-Vといったほかのホンダ車は、すべてを合計しても、残りの10%に片付けられてしまうのだ。

ホンダの販売店では「オデッセイのお客様は、ステップワゴン、さらに小さなフリードへと乗り替えていく。フィットやフリードから、N-BOXに乗り替えるお客様も見られる」という。N-BOXが好調に売られた影響もあり、ホンダ車の小型化が急速に進んだ。

加えてホンダの最近の車種構成も、この販売傾向を加速させている。上級ミニバンのオデッセイは、国内仕様の生産を終了しており、SUVのCR-Vも2022年末で販売を終える。インサイトはシビックe:HEV(ハイブリッド)に切り替わり、ホンダの国内ラインナップは従来以上にコンパクトな車種に偏る。

このホンダの品ぞろえとブランドイメージのダウンサイジングは、ホンダがスズキやダイハツに近付くことも示している。コンパクトな車種を多く売るには好都合だが、ユーザーの受けるメリットはどうなるのか。

かつてのホンダは運転の楽しいスポーツモデルを豊富に用意したが、今後はシビックとシビックタイプRに集約される。シビックの価格は1.5Lターボでも300万円を上まわり、タイプRになると次期型は500万円に達する。S660も終了しており、手頃に購入できる運転の楽しいホンダ車を選びにくくなった。

そうなると全長が4400mmを超えるホンダ車で堅調に販売されそうなのは、ステップワゴンに限られる。国内で購入できるホンダ車のカテゴリーは、以前に比べて幅が狭まった。

ホンダの「スズキ・ダイハツ化」が進んでいる

ホンダの車種構成とブランドイメージが小さな方向へ進むのは、ホンダにとっても嬉しい話ではない。1台当たりの粗利も少ないからだ。

スズキやダイハツは長年にわたって軽自動車を中心に扱ってきたから、車両の開発、製造、販売促進などの営業関連まで、すべてが低コストで成り立つ。しかしホンダは違う。軽自動車比率が50%を大幅に超えるのは行き過ぎで、小型/普通車を伸ばすことにより、軽自動車は35%以下に抑えたい。

小型/普通車については、限られた売れ筋車種を有効活用することも考えたい。新型ステップワゴンはリラックスできる柔和な雰囲気を特徴とするが、この持ち味を反映させたエアには、安全性を高めるブラインドスポットモニターや2列目シートの快適性を向上させるオットマンを装着できない。エアこそがステップワゴンの本命グレードと位置づけて、パッケージオプションなどにより上級装備も用意すべきだ。

またステップワゴンは、ほかのバリエーションも充実させたい。スパーダ以上に運転の楽しいモデューロX、荷室に撥水処理などを施したSUV感覚のクロスターも、早い段階で追加する。

シビックタイプRは価格が際立って高いので、フィットにRSやタイプRのような分かりやすいスポーティグレードを設定したい。ちなみにスズキスイフトスポーツは、1.4Lターボエンジンとモンローのサスペンションなどを装着して、価格は200万円前後だ。そのために人気を高め、スイフト全体の約50%をスポーツが占める。フィットにも、スイフトスポーツのライバルになるような運転が楽しく価格の割安なスポーティグレードが不可欠だ。

N-BOXは実質的に国内販売のナンバーワンだから、その影響力も、良し悪しに関わらず大きい。N-BOXはフィットやフリードといった自社の小型車ユーザーを奪うことから、ホンダ社内からは「N-BOXはモンスター」という評価も聞かれる。

いかにしてモンスターに引っ張られず、手なずけられるのか、N-BOXの一番の課題はそこにある。

  • 取材・文渡辺陽一郎

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がける。執筆の対象も、試乗記や車両の紹介、メカニズム解説だけでなく、価格設定やグレード構成、リセールバリュー、さらに値引き、保険、税金など、カーライフに関する事柄全般。ヒストリー関連の執筆も行っている。

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