地雷撤去が進むキーウ近郊の村についた「?」マークの哀しい意味 | FRIDAYデジタル

地雷撤去が進むキーウ近郊の村についた「?」マークの哀しい意味

ノンフィクションライター・水谷竹秀の「ウクライナ戦争」現地ルポ

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キーウ近郊の村に住むヴァシルさん夫婦。家の門には「・」がついている。地雷がなく安全という意味だ
「?」がついた家。地雷が残されている危険性があることを示している

立ち並ぶ民家のゲートには、黄色いペンキで「?」や「・」と印されている。何だろうと思って、車を運転している取材協力者のウクライナ人男性に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「地雷撤去チームによる調査が済んで、問題ない民家は『・』で、まだ何らかの問題がありそうな民家は『?』の印をつけられると聞きました」

私たちが走っていたのは首都キーウから西に約40キロの「アンドリブカ」という小さな村だ。ここはロシア軍に1ヵ月間占拠され、激しい戦闘が繰り広げられた。この村を含むキーウの西側では現在、ウクライナ軍による地雷撤去や不発弾を処理する作業が進められている。

ゲートの前のベンチに座っていた夫婦に声をかけてみると、親切にも家に招いてくれた。地雷調査の結果は「・」だ。この夫婦は、ヴァシル・マリュハさん(65)と妻のナタリアさん(63)。

「地雷撤去チームが家を1軒1軒調査していました。でも全てを調べるに十分な時間がなさそうです。ワイヤーを使った仕掛け爆弾も探していました」

取材中にも「ドーン」という鈍い爆発音が遠くで鳴ったのが聞こえた。不発弾を処理した際の爆発音と見られる。

地雷撤去の話から始めたヴァシルさんだが、実は3月3日からの2日間、ロシア軍に監禁されていたと打ち明けた。場所は隣の家の敷地にあるヤギの小屋だった。

「左手を別の住民の右手と一緒に手錠を掛けられました」

そう言ってヴァシルさんが左腕をまくると、その痣がまだくっきりと残っていた。

「2日後に解放されましたが、それからもロシア軍が何度も家に来て、テレビやパソコン、衣類、食料品などを略奪していきました」

その時の恐怖が蘇ったのか、ヴァシルさんは途中で何度も嗚咽を漏らした。見かねたナタリアさんがそばにくっついてなだめる。

村を占拠したロシア軍は戦車や装甲車を周辺に配備し、キーウのほうに向かって攻撃をしていたという。

解放されたヴァシルさんは、ナタリアさん、飼っている犬1匹と猫2匹を連れ、自宅敷地内にある小屋の地下壕に隠れた。電気も水もガスもないため、小屋の前で薪をくべ、火を起こした。

「気温は3℃ぐらいです。小屋の前で玉ねぎやじゃがいも、にんじんなどを入れたスープを作り、地下壕に持って行って食べていました。マットレスも持ち込んで寝ていました。ミサイルが発射される時に『シュー!』っと鳴る音も聞こえました。直接撃ち込まれやしないかと不安でした」

ヴァシルさんに地下壕を案内してもらった。

小屋の扉を開け、コンクリートの急な階段を降りると、そこは高さ2メートル弱、6畳ほどの部屋だ。床にはじゃがいもやキャベツなどの野菜が入った容器が、頭の高さに取り付けられた棚には、自家製のジャムや野菜を乳酸発酵漬けにした瓶がそれぞれ並んでいた。その部屋で服を重ね着し、体をできるだけ温めて過ごした。略奪のために入れ替わりでやってくるロシア軍からは、時に意外なことを尋ねられた。

「なぜ家の中にトイレがあるのか?」

「DVDを持っているか?」

「この村はアスファルトで舗装されている。大きな町なのか?」

テレビを持っていかれた際には、オーディオの部分だけがなぜか残されていた。ヴァシルさんが語る。

「その兵士は家の中にトイレがないんだと思います。それに私たちはDVDで映画を観ません。ネットで観ます。テレビのオーディオを残すということは、その機能もよくわかっていないんでしょう。ここはウクライナでは生活水準は普通の村です。ですが占拠したロシア軍の兵士たちは、私たちの生活が豊かで、羨ましく思っていたのではないでしょうか」

ウクライナへ派兵されたロシア軍の中には、厳しい生活環境で育った兵士もいるのかもしれない。

占拠されている間には、知人の若い青年が射殺体で見つかった現場も目撃した。

「家の裏庭の奥で見つけました。こめかみに銃弾を撃ち込まれていたので、ロシア軍による処刑ではないかと思います」

ヴァシルさん宅の両隣は、いずれも砲撃を受けて焼け焦げ、破壊された。その時の爆風で、ヴァシルさん宅の壁の一部ははがれてしまった。隣家との仕切りのフェンスは銃撃で穴だらけ。それでもヴァシルさん夫婦は地下壕にいて無事だった。

「ロシア軍が撤退した今は、ボランティアの人から配給される食料などで生活をしています。本当に感謝しています」

その日の夕方、ヴァシルさん夫婦はゲートの前でベンチに座り、犬と猫も一緒に身を寄せ合うようにして日向ぼっこしていた。

戦火を逃れた後の、ホッとしたような表情だった。

ロシア兵によってテレビは略奪された
自宅の敷地内にある地下壕。寒さに耐え、妻と身を寄せ合いながら隠れた
  • 取材・写真・文水谷竹秀(ノンフィクションライター)

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