抗がん剤に殺されかけて…「クワマン」桑野信義が乗り越えた地獄 | FRIDAYデジタル

抗がん剤に殺されかけて…「クワマン」桑野信義が乗り越えた地獄

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別人のようにほっそりした

日本のR&Bシンガーの草分け的存在、『ラッツ&スター』のトランペッターとして活躍し続ける桑野信義(65)。デビュー当時から、ライブが終わると毎回のように大酒を飲んでいた。

「刺激物や脂っこいものもよく食べた。生活リズムは乱れに乱れていましたね。あんまり酷い飲み方をしているもんだから、見かねた人から『飲み過ぎですよ…』なんて注意されることもありました。だけど俺は、『うるせえよ! 俺の人生なんだから、俺が責任取れんだからいいんだよ!』なんてイキがってました。たくさん飲んだ翌日はよく下痢をしたし、便秘になることもあった。でも、まさか病気だとは全く考えていませんでした」

大腸がんが発覚する2~3年ほど前から、ライブ会場に着くと真っ先に楽屋に一番近いトイレの場所を確認するようになっていた。

「便意をもよおしてトイレに行ったのに、コロコロとしたウサギの糞みたいな便が少ししか出ない。かと思えば急に下痢をしたりする。トイレに行くのが間に合わないくらい便意が切迫することもあったから、最初にトイレの場所を確認しないと落ち着かなくなっていたんです」

それでも、便の不調は『酒のせい』と誤魔化していた。ある日、血便が出た。

「もともと俺は病院嫌いで、健康診断も渋々受けるという感じだったから、血便が出ても『痔だ』と思い込むようにしていました。だけど、そんな日は長くは続かなかった。フラフラするようになって、さすがに『これはおかしい』と思った。家族も『お願いだから病院へ行って!』と言うので、ようやく病院へ行きました」

家族に後押しされ、63歳にして初めて大腸の内視鏡検査を受けた。

「内視鏡検査を受けて驚いたのは、あっという間に終わるし、全然痛くないってこと。こんなことなら、もっと早くやっておけばよかったと思いました。そのときにポリープが2つ、見つかりました。主治医は『次回、ポリープを取ります。内視鏡では取れないポリープがひとつあります』と説明しました。大腸がんだと告知されました。

先生は大腸の画像を俺に見せながら『ステージ3bの大腸がん(直腸がん)で手術が必要です』と言いました。直腸は肛門に近い大腸の一部で、腫瘍が便の通り道を塞いでいたから、ウサギの糞のようなコロコロとした便が出ていたというわけです。手術をすると聞いて『大丈夫ですよね、いまなら間に合いますよね?』と聞いても、主治医は首を縦に振らない。代わりに『頑張ります』って。それで初めて深刻さを察しました」

大腸がんの告知は家族も一緒に受けた。医師の言葉を聞いてショックを隠しきれない桑野に家族は笑顔でこう言った。「ここまできたからには戦うしかないでしょう! 医学が進歩しているし、大丈夫よ!

「俺を元気づけるために家族はあえて笑ってくれたんでしょうね。そのおかげで、がんに負けないぞって闘う覚悟ができたと思います」

 

何度も挫けそうになったが、家族の愛と持ち前の明るさで乗り越えた

がん細胞が筋層より深く浸潤し、リンパ節転移もある状態をステージ3bと言う。手術の前にできる限り腫瘍を小さくするため、術前に抗がん剤を投与した。

「抗がん剤を4クール投与しました。1回目の抗がん剤では、全くというほど副作用がなかったんです。抗がん剤を投与した後にカツ丼を平らげたくらい。ところが、その翌日にぶっ倒れてしまって、抗がん剤の怖さを思い知らされました。それでもなんとか4クールを終えることができて腫瘍が小さくなり、『ダヴィンチ』というロボット手術を受けました」

14時間に及ぶ手術は無事、成功した。だが、術後には多くの試練が待ち受けていた。手術で腫瘍部位を切除し、腸を縫い合わせたあとに縫合不全を引き起こす危険があるため、数ヵ月の間、ストーマ(人工肛門)を作った。縫合不全がないことが確認されれば、ストーマを外して本来の肛門からの排泄ができるような手術を行うのだが、腫瘍の場所によっては術後、一生ストーマをつけるケースもある。桑野の場合、術前にはどちらになるか分からなかった。

「主治医から『一生ストーマになるかどうか、手術してみなければ、分かりません。術後に左にストーマがあれば一生、右なら仮設です』と言われていたので、麻酔から目覚めたとき、真っ先に確かめました。そしたらストーマが右にあって『やった! よかった!』と思いました」

ストーマが仮設だったことに喜んだのも束の間、術後2週間は、それまで味わったことがない苦しみが待っていた。点滴以外に、身体は何本もの管に繋がれており、まったく身動きが取れないのだ。桑野は「生き地獄」だったと振り返るが、同時に「生き地獄を味わうから、命だけは助けてください!」と神に祈ったという。

「祈りが通じたのか、2週間半で退院できました。術後、ストーマが仮設でよかったと思ったけど、ストーマをつけた日々を3ヵ月過ごしてみて一生ストーマだったとしても問題ないと思うようになりました。一度も漏らしたことがなかったし、優等生でしたよ。ストーマにはカバーをつけられてね、いろいろなデザインがあるんです。マンガの『鬼滅の刃』のカバーにしょうかなとか、楽しんでいるうちにストーマに愛着を感じるようになりました」

退院後、『ラッツ&スター』のツアーに参加することを目標に、再発防止のための抗がん剤治療が始まった。

「術前の抗がん剤治療にはなんとか耐えられたから、術後も大丈夫だろうと思っていました。ところが……副作用が酷かった。身体が動かない。吐き気もすごい。トイレを抱えて、夜の間じゅう呻(うめ)いているような状態で、精神的にも参ってしまった。『このままじゃ、抗がん剤に殺される』と思いました」

あまりの副作用の酷さに一時は、ブログも休止した。主治医に「抗がん剤をやめたい」と相談すると、「抗がん剤を投与したからといって、絶対に再発しないという保証はありません。決めるのは桑野さんです。ただ、抗がん剤の終了とともにストーマを外すことになります」と言われた。

「抗がん剤の投与を中止し、ストーマを外すと排便障害になりました。あらかじめ主治医から聞かされていたので、俺は『1週間で元に戻す!』と意気込んでいましたが……1日に60回も排便があるんです。しかも便意がなくても出てしまう。トイレに間に合わないから、大人用オムツを履くようになりました。自尊心が傷つきましたし、オムツをしているとはいえ便が出てしまうことに不安を感じました。便の匂いがするんじゃないか? と心配で、人と会うことを避けるようになった時期もありました」

 

がんをキッカケに生活改善。「本来の体型に戻っただけ(笑)」

どんな現場でもスタッフや共演者たちとワイワイ賑やかに過ごしていた桑野が、楽屋に引き籠るようになった。だが、それも持ち前の明るさで克服した。

「ブログやライブでオムツの話をするようになってから、少しずつ抵抗がなくなっていきました。いろんなオムツを試してお気に入りのブランドを見つけ、いまでは自分で薬局に買いに行っていますよ。排便障害はすぐ治る人もいれば、長く続く人もいて、俺の場合もこの先、どうなるか分からない。それでもね、最近は排便障害に慣れてきて、コントロールできるようになってきました。ステージとか仕事がある日は、前日から食事を取らない。すると出るものがないから、排便障害もおきないんです!」

大腸がんをきっかけに生きることに向き合う気持ちが大きく変わった。4月28日には『がんばろうとしない生き方 大腸がんになって見つけた笑顔でいる秘訣』(KADOKAWA)を上梓。大腸がんと闘う中で感じた正直な気持ちや詳しい治療の内容を綴っている。

「生かされたことに感謝し、応援してくれた人に恩返ししたいと思っています。大腸がんと診断されてしばらく、俺は病気を認めたくなくって敢えて大腸がんについての情報をスルーしていました。だけど、途中から、いろんな人のがんの体験記やブログを読むようになった。いまではもう検索マニア。すぐに調べて参考にしています。不安を感じた時、他の人の体験がとっても参考になった。助けになった。俺の体験も誰かの参考になればいいなと思っています」

昨年2月に手術を受けた際は、同年4月からのツアーに参加することを励みにしていた。だが、ツアーに参加できるまでの体力が回復せず、一度は気持ちが落ち込んだ。しかし、リーダーの鈴木雅之(65)から「先にツアーを始めてるから、7月のステージから復帰できるよう、じっくり治せばいいよ」と声をかけられ、「よし! 絶対、7月にステージに立つぞ!」と闘志に火がついた。その言葉通り、デビュー40周年記念ツアーの大阪公演に立つことができた。

「大腸がんになったおかげで、酒もタバコもやめられました。自分の免疫力を高めて再発を防ごうと、食生活も見直しました。腸活にも目覚めました。身体を温めることで免疫が活発になるから、朝起きたらまず白湯を飲んで、次に黒酢と赤酢、黒ニンニクを食べるのが習慣。朝ごはんはスムージー、玄米フレークと豆乳。おかげでコレステロール値も正常になり、糖尿病も良くなりました。久しぶりに会った人からは『痩せたねー!』と言われるけど、そうじゃない、本来の健康な体に戻っただけ。手術から1年が経過した今思うことは、寛解(5年間再発しないこと)を迎えられるよう、毎日を楽しく笑って生きて行きたいということですね」

40周年ライブで見事に復帰をはたす
  • 取材・文吉澤恵理

    薬剤師/医療ジャーナリスト

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