世界で電気料金高騰中のなか「日本が考えるべき次の一手」 | FRIDAYデジタル

世界で電気料金高騰中のなか「日本が考えるべき次の一手」

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今後1~2年は電力料金が上がり続ける…?

ウクライナ侵攻をしたロシアへの経済制裁のためにLNG(液化天然ガス)や原油などのエネルギー価格が値上がりし、日本の電気料金もジワジワと上がっている。いったいいつごろ落ち着くのだろう。

「今の電気料金の値上がりは、ウクライナの問題もありますが、コロナで規制されていた行動が徐々に緩和して、消費が拡大し、需要が増える時期とも重なった。 このエネルギー価格の上昇は、1~2年続く可能性がありますし、ウクライナ問題はこれからどうなるかわかりません。楽観視はできないと思います」

こう言うのは京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座の特任教授・安田陽氏。

LNGや石油など、化石燃料に頼っている限り、これからも値上がりを覚悟しないといけないということか。だったら、やっぱり原子力発電? 

「そういう声があることは認識しています。けれど、それが本当に解決策になるのか、多角的に検討しなければなりません。 

たとえば、ウクライナ問題を受けて、国際エネルギー機関(IEA)は、原子力発電もできるだけ稼働させようと言っているという報道もありますが、IEAはそれ以上にバイオマスをもっと活用すべきだとも言っています。 

日本では、より数値の大きいバイオマスについて言及せずに2番目の原子力発電だけを取り上げて声高に主張するものが多く、短絡的で公平な議論とは言えません」(安田陽氏 以下同) 

岸田首相は26日、物価の高騰に対する緊急対策として、ガソリン補助金や低所得世帯への給付金などの政策を発表(写真:アフロ)
岸田首相は26日、物価の高騰に対する緊急対策として、ガソリン補助金や低所得世帯への給付金などの政策を発表(写真:アフロ)

けれど、フランスはこれから原子力発電所を14基も増設すると言っている。これは……?

「確かにマクロン氏はそう公約しています。けれど、同時に2020年現在発電電力量に占める比率が66%の原子力を2035年までに50%に低減するという前政権の計画は今のところ方針転換されておらず、どれだけ実現可能なのか今後の議論の推移を見守る必要があります。 

フランスは、現在欧州で電力卸価格が最も上昇している国のひとつですが、これはコロナ、ウクライナ問題に加えて、原子力発電所の故障が続発しているから。大規模発電所がトラブルを抱えてしまうと、国全体が電力不足に陥ってしまう。原子力発電所に依存していると、そういうリスクもあります」 

日本国内に眠る電気のポテンシャル

では、日本はどうすればいいのだろう。

「世界共通の認識として、まず再生可能エネルギーです。IEAは2050年までに電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を90%にすることを目標にしています。原子力発電もゼロではありませんが、まず再生可能エネルギーなんです。 

再生可能エネルギーなら、今回のウクライナ問題のように、海外の情勢の影響を受けない。ほとんど国産で作ることができます。再生可能エネルギーの導入を進めることが、国際的に合意されています。けれど、なぜか日本では議論が少ない。できない理由ばかり数え上げている」

できない理由の一つが、コストがかかるのではないかということ。

「再生可能エネルギーのコストは急激に下がってきているので、世界ではすでに化石燃料と同じくらいに到達しているものもあります。しかも、化石燃料はこれから価格が上昇していくと考えられる。化石燃料を使い続けるほうが電気料金を押し上げるリスクがあると考えるほうが自然でしょう」 

もう一つは、天候に左右されるので不安定だということ。政府は蓄電池の生産を2030年までに20倍にすると決めたようだが……。

「日本の今の再エネ導入レベルの見通しでは、実は蓄電池はほとんど必要ありません。 再エネの変動に対応する方法は他にもさまざまあるのです。

また、一口にエネルギー貯蔵といっても蓄電池だけではありません。その一つが温水貯蔵。冷水や温水を一か所でまとめて作り、それをパイプを通して建物や地域に供給する。風が吹きすぎて風力発電で余った電気でお湯をわかし、それを貯めて風の少ない時に利用するなど、ドイツや北欧では、すでに実用化されています。お湯を貯めるという超ローテクなシステムで、蓄電池より何倍も安くできるんです」

3月16日に発生した地震の影響で火力発電所が停止し、そこに寒波が襲い、東京電力管内で3月22日に需給ひっ迫となった。このとき活躍したのが揚水発電。上流と下流にダムを設け、電力が不足しそうになったら、下流のダムから上流のダムに水をくみ上げ、上から水を落とすことで発電するシステムだ。

「これも再生可能エネルギーの一つ。それが活躍したのは素晴らしいことです。 温水貯蔵や揚水発電のように、ローテクで確立された技術もたくさん存在します。これらを適切に組み合わせれば、再生可能エネルギーで安定して電力を供給することも可能です」 

しかし、再生可能エネルギーだけで必要な電力を賄うことは可能なのだろうか。

環境省は、航路や漁場などさまざまな制約要因を除いた、設置可能な洋上に風力発電の風車を立てた場合、1年間で約3200 TWhの電力量が得られるという試算を出しています。 日本で1年間に使う電力量は約1000 TWh。洋上風力発電だけで3倍以上の電力が賄える計算で、それだけの資源が日本に眠っていることになります」

太陽光や地熱、小さな河川を利用した中小水力などを含めると、約7300 TWhもの潜在量(ポテンシャル)があると言う。やる気になれば2050年までに再生可能エネルギーで90%を賄うというIEAの目標は、決して夢物語ではない、ということか…。

フランスが原子力発電所を増設すると言っているのに対し、年内に原子力発電所をゼロにすると打ち出したのがドイツだ。 

「ドイツでは、これまでの政策は間違っていたんじゃないかという議論がありました。一つは天然ガスをロシアに頼ったこと、再生可能エネルギーをもっと進めておくべきだったとも言われています」

再生可能エネルギー先進国になれば、その技術を他国に売ることができる。世界が再生可能エネルギーに向かっている今、このままでは日本は技術的にも取り残されてしまう。

天然ガスをロシアに頼ったことで窮地に陥っているドイツでは、再生可能エネルギーをもっと進めておくべきだったという意見も多い。写真は、ドイツのメルケル元首相の訪露時の会見でのシーン。日付は、2021年8月20日、まだ1年も経っていない…(写真:アフロ)
天然ガスをロシアに頼ったことで窮地に陥っているドイツでは、再生可能エネルギーをもっと進めておくべきだったという意見も多い。写真は、ドイツのメルケル元首相の訪露時の会見でのシーン。日付は、2021年8月20日、まだ1年も経っていない…(写真:アフロ)

発電所を増やすより、使わないことを考える。それが21世紀 

日本がやらなければならないことは再生可能エネルギーの開発だけではないと安田氏は言う。

「電気が足りないから発電所を建てましょうというのは、昭和時代の発想。我々はもしかしたら使いすぎかもしれない。あるいは、使えば使うほど環境に悪影響を与えているのかもしれない。 

だったら、発電所を建てるだけではなく、使う量を減らしたほうがコストはかからないし、早い。そのように考え方を変えなくてはいけません」

使う量を減らす一つが断熱。

「日本の家の断熱レベルは、先進国にあるまじき粗悪なもので、結露するなどという生命、健康に害を与える建物は海外では人権問題で訴えられるくらいです。 断熱がしっかりしていれば、冷暖房に使うエネルギーも少なくてすむ。粗悪な家を建てたら、20年30年エネルギーの無駄遣いになってしまう。 

日本では“省エネ”というと、消費を減らして、売り上げも減るというイメージですが、エネルギー効率の高い新しい製品、新しいサービスに投資する、イノベーションを起こすというのが本来の目的。大量消費の時代は終わっています。付加価値の高い新しい技術で、未来に贈り物をしましょうというのが、21世紀の考え方です」 

やるべきことはいろいろあるが、電気料金の値上げは避けられないようだ。経済産業省によると、大手電力会社より安いことを売りにしてきた新電力は、すでに約20社が事業を停止したという。なんとか上がらないようにならないものかと思うが、

「原材料が上がったら、売価が上がるのは当然のこと。無理して安く売れば、売るだけ赤字になって行き着くところは倒産しかない。 

ガソリン代の値上げに対して、ユーザーの負担を軽くするため減税や補助金を出したほうがいいという声もありますが、それは見た目だけ安く見せかけ、問題を将来に先送りするだけ。ガソリン代が高いなら電気自動車の導入を急ぐ、電気は再エネで作るなど、化石燃料に頼っている現状から、もっともっと再エネへの移行を早めていくべきです。 

資源高で物価が高くなるのであれば、賃金を上げるのが順当です」

でも、電気料金が上がったら困る生活弱者もいるのでは?

「以前、それと同じ質問を私も欧州の政策関係者にしたことがあります。 そうしたら、『それは福祉政策の問題。福祉政策の不作為をエネルギー問題に押しつけてはいけない』と言われました。 

確かにその通りです。電気料金が払えず、生命や健康に支障を来す人がいるなら、生活保護の受給率を高めるなど、現状の法制度でもできることはある。それをやらずして、経済弱者が困るからエネルギー価格を見せかけだけ下げましょうというのは、根本問題を将来に先送りするだけで本末転倒です」 

物価が上昇したら、それを補う制度が充実すること――それが現実になることを願うばかりだ。

安田陽 京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。博士(工学)。専門は風力発電の耐雷設計と系統連系問題。技術と経済・政策の間を繋ぐ仕事を担っている。

また、エネルギー関連の書籍も多数執筆。著書に『世界の再生可能エネルギーと電力システム全集』(インプレスR&D)など。小中学生向けの『再生可能エネルギーをもっと知ろう』シリーズ全3巻(岩崎書店)を監修。

帝国データバンクの調査・分析によると、みなし小売電気事業者(旧・一般電気事業者)を除く「新電力会社」(登録小売電気事業者)の倒産は、2021年度(2021年4月~22年3月)に14件発生したという
帝国データバンクの調査・分析によると、みなし小売電気事業者(旧・一般電気事業者)を除く「新電力会社」(登録小売電気事業者)の倒産は、2021年度(2021年4月~22年3月)に14件発生したという
  • 取材・文中川いづみ

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