プーチンの式典に出席メダリスト「素の顔」ににじむ壮絶な絶望感
ウクライナ侵攻のさなか、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が4月26日、北京五輪のメダリストなどを招待して慰労パーティーを開催した。ロシアメディア『RBCスポーツ』などによると、アスリートには高級シャンパンなどが振る舞われたという。
参加者の中にはフィギュアスケート女子のカミラ・ワリエワの姿も。ロシアメディアは盛大なパーティーを速報で伝え、メダリストたちがそれぞれプーチン大統領に“忠誠”を誓う様子を報じた。
プーチン大統領に最も近い“お気に入り席”に座ったのは、‘16年のジュニアファイナル(ペア)で優勝したアナスタシヤ・ミーシナ。彼女は
「ワリエワが私の席に座ると思っていたので驚きました。大統領を誰よりも近くで見ることができて嬉しいです」
と感謝した。北京五輪アイスダンス銀メダリストのビクトリア・シニツィナもプーチン大統領とのツーショットに大喜び。自身のテレグラムで
「本日メダリストとして、国家の賞を授与されました。大統領と目と目を合わせて話すことができるなんて…。とてもエキサイティング!」
と興奮した。
表向きはメダリストを慰労するための催しだが、実際は“プーチンによるプーチンのため”のもの。国民から尊敬される偉大な男を演出したに過ぎない。
その証拠に、テレビカメラが回っていない場所ではメダリストの表情は180度違った。スポーツ紙五輪担当記者の話。
「SNS上に未公開写真が流出し、話題となっています。そこには式典中にうつむりたり、うつろな目でたたずむメダリストの姿がバッチリ映っています。プーチン大統領やテレビカメラの前とは全く違います。これが現実の姿なのでしょう」
メダリストの中には欠席する者もいた。北京五輪女子フィギュアで金メダルを獲得したアンナ・シェルバコワは、同日行われたエテリ・トゥトベリーゼコーチのショーを優先。ノルディックスキー距離で3冠のアレクサンドル・ボルシュノフも手術を理由に欠席した。
「パーティー出席者は今後、国際的な批判を受ける可能性がある。欠席はそうした批判を回避する狙いがあるのでは?という見立てもあります」(同・スポーツ紙記者)
事実、ロシアをめぐるスポーツ界の包囲網は確たるものになっている。中でも驚きを持って伝えられたのは国際スケート連盟(ISU)の制裁強化だ。
フィギュアスケートでは男女ともに世界トップクラスのロシア選手の参加は商業的にも必要不可欠に思われた。ところが、ISUはそうした予想を覆し、これまで行ってきたロシアとベラルーシの選手の国際大会への出場禁止に加えて、グランプリシリーズの開催権はく奪、理事の追放などを発表。無期限追放の厳罰を下した。
ロシアメディア『マッチTV』によると、制裁強化に賛成したのは米国、カナダ、フランス、イタリア、スロバキア、チェコ、スペイン、スイス、オーストリア、ノルウェー、フィンランド、ラトビア、リトアニア、エストニアの14か国だという。日本の態度は明らかになっていない。
これを受け、フィギュア選手の中には国籍変更に動く者も出てきている。‘18年の世界ジュニア選手権ペアで銀メダルを獲得したポリーナ・コスティコビッチは露メディアの取材に
「海外に行きたいのです。私は別の連盟を考えています。今のロシアでプレーするのは難しいでしょう」
「国際的な舞台でスケートをしたい。動かないという選択肢には自分にはない。自分が何を望んでいるのか、理解しなければならない」
などとコメント。ロシアフィギュア界の重鎮タチアナ・タラソワ氏は
「国籍を変更しても裏切りとは言えない」
と、現役選手の心情をおもんぱかっているが、今後彼女に続く選手が続出することも考えられる。
「プーチン氏はロシア制裁に参加していない友好国を集めた国際大会を開催しようと目論んでいますが、そこに何の意味があるのでしょうか。このまま侵攻が続けば、自国のアスリートも“犠牲”になります」(フィギュア関係者)
国力を誇示するプーチン大統領だが、その求心力は着実に弱まっている――。
- 写真:ロイター/アフロ