米軍はウクライナにどこまで情報を渡したのか…軍事専門家の分析 | FRIDAYデジタル

米軍はウクライナにどこまで情報を渡したのか…軍事専門家の分析

軍事ジャーナリスト・黒井文太郎レポート

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

<「キエフは数日で陥ちる」といわれていた。が、開戦から2か月を過ぎ、情勢は拮抗しているようにすらみえる。ウクライナ善戦の背景には…。軍事ジャーナリスト・黒井文太郎が分析する>

この戦争は、地上と、水面下の両面で戦われている。あらゆる情報に意味があり、意図がある。ゼレンスキーとプーチン。2人のリーダーが見ているものは… 写真:AFP/アフロ

ウクライナに侵攻したロシア軍が苦戦した背後に、米国がウクライナ軍を情報面で強力に支援していたのではないかとの指摘はあったが、その実情は厳重に秘匿され、具体的なことは不明だった。ところが4月27日の米NBCテレビが、米国当局の現職と元職の高官からの情報として、その一端を伝えた。

ロシア軍は、空っぽの施設を攻撃していた

そもそもロシア軍の苦戦の最大の要因は、開戦直後からウクライナ軍の防空システムや航空機を破壊できず、航空優勢の確保に失敗したことで、空軍機による大規模な空爆ができなかったことだ。NBCによるとそれは、米軍がロシア軍のミサイルや空爆がいつどこを狙ってくるのかを前もって察知し、ウクライナ軍に教えたため、ウクライナ軍は防空システムや航空機を隠すことができたからだという。

ウクライナ軍は米国の情報機関の支援により、ほぼ毎日、防空システムや航空機を移動し続けており、ロシア軍はしばしば移転後の空っぽの施設を攻撃していたとのことだ。

同報道によると、米国とウクライナの軍事・情報協力は2014年のクリミア侵攻以来続いてきたが、2022年2月24日の今回のロシア軍侵攻の数週間前に、米軍の担当班がウクライナ軍の防空体制を調査し、効果的な攻撃回避策を助言したという。

他方、米軍はロシア軍のリアルタイムな位置情報もウクライナ軍に提供。それによってウクライナ軍はロシア軍を効果的に攻撃できた。当初、米軍当局は「一般的なロシア軍に関する認識のために情報はウクライナ軍に提供しているが、直接的なターゲティング(標的照準)情報は提供していない」と米メディア各社に説明してきたが、やはりターゲティング情報まで提供していたのだ。

ウクライナ軍の安全をサポート

さらに、CIAはゼレンスキー大統領をロシアから保護するために多大な協力をしているとのこと。安全な移動方法の指導などをしているようだ。

米国がウクライナ側に提供している最重要な情報は、ロシア軍の作戦に関するリアルタイムな情報らしい。もちろんどのようにそれを入手しているかは軍事機密だ。

現在進行形の水面下の秘密活動については、米当局も詳細をメディアにリークはしない。そこで、ではどのような具体的な協力が行われているか、筆者なりの推測を交えて紹介してみよう。

①詳細な画像データからのロシア軍の位置情報の提供

米軍は、世界一高性能の偵察衛星を数多く飛ばしている。これらは上空を90秒程度で通り過ぎるため、動画撮影で継続的な偵察はできないが、各衛星の軌道を調整することで、数時間毎に画像撮影することができる。その解像度は数センチという高精度のもので、そこからロシア軍の展開を分析し、おそらく生データではなく加工したデータにしてウクライナ軍に提供している。

また、米軍はグローバルホークなどの無人偵察機でもおそらくかなり広範囲に偵察を行っており、そちらからの情報も提供している。

4月25日、米軍の情報機関「国家地理空間情報局」(NGA)のシャープ長官はデンバーの関係会議で「われわれは、ウクライナがキーウを守るための西側の支援の主要部分を担った」と発言した。彼によると、NGAはウクライナがさまざまな商業衛星画像を入手・利用することを助けたとしているが、おそらく商業衛星に限らない。

そしてこれらの画像情報は、米欧州軍欧州統合情報作戦センター分析センター(イギリスのモールズワース基地)で統合分析され、同センターを統括する米国防情報局(DIA)を通じて、米軍ルートもしくはCIAルートでウクライナ当局に提供されたと思われる。

②高性能偵察用無人機システムの提供?

前述のシャープNGA長官は、ウクライナ支援の文脈でひとつ興味深いことを語った。彼はウクライナとは明言しなかったが、3月に要員を米欧州軍に派遣し、“軍事パートナー“に対して、高性能小型無人機を使う「航空偵察戦術的エッジマッピング画像システム」(ARTEMIS)の訓練を施したという。これがウクライナ軍の作戦に活かされたとすれば、効果は大きかったと思われる。

③ロシア空軍の動きを捕捉するレーダー情報

前述したように、ウクライナ軍は米軍の情報提供により、ロシア軍の敵防空網制圧(SEAD)を回避して生き残った。そのロシア軍に関する情報だが、ロシア空軍機に関しては、おそらくNATOの早期警戒管制機(AWACS)による情報が重要だ。

NATOはドイツ西部のガイレンキルヒェン基地で14機のE-3早期警戒管制機を運用しており、常態的にポーランド上空を飛行してロシア軍機の動きを監視している。

④電波傍受・通信解読

米軍は前述の早期警戒管制機、無人偵察機、各種偵察機、それに高高度の静止軌道上に配置された監視衛星などで、ロシア軍の各種電波を傍受している。そして、軍事電波の解析でロシア軍の活動を探るとともに、通信の解読でロシア軍の内部情報を探っている。

そうした信号情報収集・分析を統括するのが国防総省の「国家安全保障局」(NSA)だ。NSAは地球規模の通信傍受を行っており、ウクライナの戦場だけでなく、モスクワの通信傍受も行っている。そうした情報からロシア軍の作戦内容を掴んだ可能性もある。

⑤ハッキング

NSAは世界最高レベルのハッカー集団でもある。ロシア政府あるいはロシア軍の内部に極秘にアクセスできれば、それこそ敵の手の内をまるごと知ることができる。筆者は、今回、米国がロシアの行動をかなり詳細に把握できていたのは、このハッキングによる可能性がきわめて高いと推測している。ただし、それを匂わせる情報はまったくない。前述したように米当局からウクライナへの情報協力のネタがいくつかリークされている一方、こちらの情報が“まったくない”ということ自体が、逆に怪しい。

⑥サイバー攻撃の回避

今回、ロシア軍のサイバー戦と電子戦がきわめて脆弱だったことも、ロシア軍の苦戦の大きな原因だが、それは米国が妨害したからではないかと筆者は推測している。たとえば『ニューヨークタイムズ』4月6日付によると、米国はロシアがネットワーク上に仕込んでいた無数のマルウェアを、開戦と同時に密かに削除していたという。

その削除したマルウェアの具体的な内容については不明だが、おそらくウクライナに対して仕掛けた「ロジック・ボム」(前もって仕込んでおき、有事に起動するマルウェア)も相当数が含まれているものと思われる。つまり、米国がロシアのサイバー攻撃を防いだ可能性がきわめて高いのだ。

こうした工作を担うのもNSAだが、NSAは逆にウクライナ軍のふりをして、あるいはウクライナ軍を指導して、ロシア軍の側に密かにサイバー攻撃を仕掛け、ロシア軍のネットワークにダメージを与えた可能性も高い。

⑦スターリンク工作の支援

今回、ウクライナ側は早い段階から民生用ドローンの偵察部隊を組織し、実際にロシア軍の位置情報把握に多大な効果を上げた。しかし、民生用ドローンがロシア軍相手に使えると最初からわかっていたのかどうかは不明だ。もしかすると、米国からロシア軍の電子戦を妨害する旨を事前に知らされていたのではないか。

また、ドローンによる情報をウクライナ軍が安定的に共有するのに、開戦後にスペースX社から提供されたスターリンクの衛星インターネット回線が決定的な役割を果たした。この導入に際しては、スペースXのイーロン・マスク氏とウクライナのミハイロ・フェドロフ第一副首相兼デジタル改革担当相のやりとりばかりクローズアップされているが、短期間で多数の衛星通信送受信機が配布されるなど、おそらく米国情報機関が裏で支援していたものと推測される。

このように、米国は裏でかなりの支援をしていたものと思われる。ただし、その詳細はまだ軍事機密であり、全体像が判明するのは“戦後”ということになりそうだ。

  • 取材・文黒井文太郎写真AFP/アフロ

Photo Gallery1

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事