フィギュア「ロシアの女帝」がプーチンに反旗を翻した意外な背景

「優雅さ、優しさ、力強さ、美しさ……。すべてのパフォーマンスで、彼女はスポーツを芸術の域にまで高めてくれた」

北京五輪女子フィギュアスケート団体で４回転ジャンプを成功させ、ロシアを金メダルに導いたカミラ・ワリエワの演技をプーチン大統領は絶賛した。４月26日にモスクワのクレムリンで行われた、北京五輪メダリストの表彰式でのことだ。

だが、会場には彼女を指導した名コーチの姿はなかった。フィギュア界で絶対的な力を持ち、「ロシアの女帝」と呼ばれるエテリ・トゥトベリーゼ氏（48）である。

「トゥトベリーゼ氏を世界的に有名にしたのが、北京五輪女子シングルのプログラム終了直後の出来事でしょう。ジャンプで転倒するなど４位と低迷したワリエワを、大勢の人々がいる中でこう叱責したんです。『なぜ諦めたの？　なぜ戦いをやめたの？　納得するように説明してちょうだい』と。

ドーピング疑惑がかけられ、当時のワリエワは相当ストレスが溜まっていました。その上、コーチからの激しい叱責。ワリエワは、直後に泣き崩れてしまったんです」（スケート協会関係者）

トゥトベリーゼ氏は選手を「材料」と呼び、失敗すると「今すぐ故郷に帰りなさい！」と怒鳴るなど厳しい指導で知られる。一方で多くのメダリストを育て、国内での評価は高い。プーチン大統領からも勲章を渡され、蜜月の関係にあると思われてきた。ところが……。

「どうやら最近、プーチン大統領と距離を置いているようです。北京五輪メダリスト表彰式を、欠席しただけではありません。現地メディア『DNI24』によると、４月26日に行われた自身が主催するアイスショーで、ロシア軍の象徴である『Z』のバナーを撤去するように指示。自分のインスタグラムからは、プーチン大統領との画像を削除しているんです。

いくらトゥトベリーゼ氏が名コーチでも、国のバックアップがなければ資金を調達できず、選手を指導できません。プーチン大統領へ反旗を翻したともともとれるトゥトベリーゼ氏の行動に、ロシア国内では波紋が広がっています」（同前）

北京五輪だけで報酬3000万円

なぜトゥトベリーゼ氏は、プーチン大統領と距離を置くようになったのだろうか。背景には、ロシアを排除しようという国際スポーツ界の動きがあるようだ。

「国際パラリンピック委員会は、北京大会からロシアや同盟国ベラルーシを除外することを一時検討しました。国際サッカー連盟も独自のペナルティを発表している。フュギュアも他人事ではありません。このままでは、ロシア人選手が演技する場所は無くなってしまう。トゥトベリーゼ氏は多くの有能な選手を引き連れ、亡命するのではないかと言われているんです」（スポーツ紙担当記者）

一方で、選手のためではなく保身が目的だろうという見方もある。

「トゥトベリーゼ氏は、莫大な資産を所有しています。ロシア政府はトゥトベリーゼ氏にメダルの色に合わせ報奨金を出したと、現地メディア『kinoafisha』が報じている。金で400万ルーブル（約600万円）、銀で250万ルーブル（約375万円）、銀で170万ルーブル（約255万円）です。金銀合わせ４つのメダルと特別ボーナスを合わせ、トゥトベリーゼ氏は北京五輪だけで3000万円近いカネを手にしたと言われます。

国際社会から『プーチンに近い女性』と見れられては、自身の資産を守るために都合が悪いでしょう。経済制裁の対象になりかねません。制裁を逃れるために、急にプーチン大統領と距離を置き始めたのではないか、という意見もあるんです」（別のスポーツ紙記者）

したたかな動きを見せる「ロシアの女帝」。彼女の言動に、選手たちは今後も振り回されそうだ。