激戦地ヘルソンを取材する現地記者が明かす「占領地の本当の惨劇」
ウクライナ南部ヘルソン――。
ロシア軍が今年2月24日の侵攻直後から猛攻を加え、制圧を宣言した街だ。5月6日にはプーチン大統領の側近アンドレイ・トゥルチャク上院第1副議長が同市を訪れ、「ロシアは永遠にとどまる」と発表。食料や医薬品などを人道的に供給し、地元の人々から支持を得ているとした。だが真実は違うようだ。
「ヘルソンではロシアの国旗が掲げられた場所もあります。しかし(ロシアの傀儡政権となる)『ヘルソン人民共和国』建国のために、住民投票が準備されているようには見えません。ロシア軍は、歓迎されていないんです」
こう語るのはヘルソン在住の国際ジャーナリスト連盟会員、コンスタンティン・リジェンコ氏だ。リジェンコ氏はロシア軍の市民への攻撃をSNSなどで、たびたび世界へ向け発信。音信不通となるたびに、「誘拐されたのでは」という記事が出るほど国内外で有名な記者だ。『FRIDAYデジタル』の取材に対しては、インタビューの矢先にヘルソン全域の電話とインターネット回線が全面的に遮断されたが、かろうじてWi-Fiが使える地点まで移動し話をしてくれた。
以下はリジェンコ氏が語る、「占領地の本当の姿」だ。
「ヘルソンは、もう2ヵ月もロシア軍に支配されています。薬も食料もなく、ほぼすべての店が閉まっている。何も残っていません。あるのは、ロシア占領下のクリミアから運ばれてくる食料品だけです。ただロシア製の品物は値段が高く、なかなか手が出ません。その前に、誰もロシアの製品など買おうと思いませんが……」
「ヘルソンは魂が抜かれた」

街のいたるところに検問所があり、住民は自由に行き来することができないという。
「ロシア兵が街中を歩き回り、いつも住民たちに目を光らせています。街の中心部でも人がほとんどおらず、ヘルソンは魂が抜かれてしまったようです」
学校では、強制的に学習要領がロシア向けに変更される動きがあるという。教師たちは導入を防ぐべく、例年より早く年度末の授業を終了。現在は長い休み期間だ。
「通貨がロシアのルーブルに変わるという報道がありましたが、実際はまだ変更していない(5月8日現在)。ロシア系の国を建国する動きもありません」
住民の歓心を買おうとしているのだろう。食料事情に関して、ロシア軍の奇妙な行動が目をひいたとか。
「私が運営するボランティアセンターでは、寄付金で毎日温かい食事を提供しています。100から150リットルの大量のスープを作り、200から400人の住民に食べてもらっているんです。食料を詰めた袋も、毎日100から150個用意しています。
最近、奇妙なことが起きています。私たちのボランティアセンターに対抗するためなのか、すぐ近くにクリミアから来たロシア軍の支援物資配給車が停まり、物資を配るようになったんです。最初は100mほど離れていましたが、今ではボランティアセンターの真ん前に停まっています。おかしな行動です」
ロシア軍は、住民を取り込みヘルソンの「ロシア化」を徐々に進めようとしているのだろう。リジェンコ氏の嘆きは深い。
「爆撃などで破壊されても、モノは再建できます。私が恐れるのは、住民の心に宿る幼い頃からのヘルソンの素晴らしい思い出がロシア軍によって壊されることです。毎日、恐怖心を抱えながら過ごしています」






撮影:リジェンコ氏