希望は捨てない…サッカーウクライナ代表が目指す「W杯出場」 | FRIDAYデジタル

希望は捨てない…サッカーウクライナ代表が目指す「W杯出場」

ノンフィクションライター・水谷竹秀の「ウクライナ戦争」現地ルポ

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チェルニーヒウ市にある「ユーリイ・ガガーリン・スタジアム」。ロシア軍のミサイルによってピッチに穴が開いている
観客席は粉々に

目の前に広がる観客席の多くが粉々に砕け散り、プラスチックの破片がグラウンドまで飛び散っている。爆風の影響からか、一部の客席は波打ったように曲がったままだ。ロシア軍によるミサイル着弾の跡は、ピッチに大きく穴を開けていた。直径約20メートルはあろうか。クレーターのようにすら見えるその地形が、破壊力の凄まじさを物語っていた。

ここはウクライナの首都キーウから車で約3時間北上した、チェルニーヒウ市にあるサッカースタジアムだ。人類初の有人宇宙飛行に成功した宇宙飛行士の名を冠し、「ユーリイ・ガガーリン・スタジアム」と呼ばれる。

4月11日にウクライナ政府主催のメディアツアーが行われた際、同市の責任者は報道陣に対し、

「3月上旬、ロシア軍による5発以上の爆撃でこのスタジアムが破壊されました。児童図書館として利用されていた歴史的な建物も大破しました。いずれも軍事用ではなく、民間の施設です」

と語り、民間施設を標的にしたロシア軍の攻撃を非難した。

このスタジアムを拠点にしているのは、ウクライナのサッカープレミアリーグ(全16チーム)に所属するクラブ「デスナ・チェルニーヒウ」。アレクサンドル・トロチェンコ情報文化大臣は4月14日、ドイツのブンデスリーガーが同スタジアム復興に協力する意向を示しているとツイッターで明らかにした。

ウクライナの人気スポーツといえばサッカーだ。ワールドカップ(W杯)には2006年に初出場を果たし、決勝リーグに進んでベスト8という結果を残した。FIFAランキングは年々上昇し、現在は27位で、日本の23位に迫る勢いだ。日本とは過去に3度、親善試合を行っており、ウクライナの2勝1敗である。

そんなウクライナのサッカー界が今、戦火で窮地に立たされながらも、かすかな希望を残している。

ウクライナのプロシーズンは毎年8月に始まり、年をまたいで5月に終了する。8月から12月半ばまでの第1期と2月下旬から5月までの第2期に分かれ、今年2月25日はプレミアリーグ第2期の最初の試合が行われる予定だった。ウクライナの大手メディア「1+1Media」でサッカーコメンテーターを務めるヴォラディミール・ズヴェロフさん(35)が解説する。

「ウクライナのプロ選手は、第1期と第2期の間にトルコで合宿を行うのが慣例です。ところが第2期の最初の試合が始まる前日にロシア軍に侵攻されてしまったので、一部の選手はトルコに残らざるを得ず、中には隣国ルーマニアに拠点を移した選手もいます」

今年のプレミアリーグは、シーズンが再開されないまま終了することが決まった。1位、2位につけていたシャフタール・ドネツクとデナモ・キーウの両チームは現在、欧州で慈善試合をこなし、ウクライナへの支援金を募っている。ここにもボランティアの精神が宿っているのだ。

4月26日に行われたデナモ・キーウとドイツのボルシア・ドルトムントの一戦では、3対2でキーウが勝ち、40万ユーロ(約5500万円)の支援金が集まった。

今年11月に開催されるW杯カタール大会では、ウクライナ代表チームに出場のチャンスはまだ残されている。欧州予選プレーオフで3月にスコットランドと対戦予定だったが、試合は6月1日に延期された。ヴォラディミールさんはこう予想する。

「ウクライナ代表チームは、当たり前だが戦争の影響で状態は良くない。厳しい戦いを強いられるだろう。だから準備環境が整っているスコットランドに勝てるチャンスは35%。戦争の勝機が高まっていれば、勢いに乗って奇跡が起きるかもしれません」

勝者はW杯出場を懸け、格上のウェールズと6月5日に対戦する。

首都キーウを本拠地とする人気チーム「デナモ・キーウ」のスタジアム。リーグ戦は中止されているため、周囲は静まり返っていた
チケット売り場も閑散としていた
  • 取材・文・写真ノンフィクションライター・水谷竹秀

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