今国会で成立へ「生活困窮の女性支援法」で解決されるべき課題 | FRIDAYデジタル

今国会で成立へ「生活困窮の女性支援法」で解決されるべき課題

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都内の公園で見られた路上生活の様子。新法はこうした生活を強いられる女性をきちんと支援できるだろうか(写真:共同通信)

生活に行き詰まり困難に陥ったのは自己責任だとして、これまで困窮した女性は“転落者”の烙印を押され保護更生の対象とされてきた。しかし今国会において、初めて女性の人権の回復と福祉を目的とした新法「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案」(以下、新法)が成立するはこびとなった。

これまでは1956年に施行された売春防止法に基づいた婦人保護事業が各自治体で行われてきたが、特に若年女性の支援現場では、多様なニーズに沿わないとして見直しが迫られていた。

コロナ禍で各相談会に参加すると同時に支援団体などにヒアリングを実施したという福島みずほ参議院議員は新法の成立を歓迎している。

「(困難は)女性自身に問題があるという差別的視点、性搾取や性暴力の被害に遭った女性を加害者扱いしていた点が削除されたことは画期的です」

◆売春防止法と新法の違い

売防法はその目的を、売春を行うおそれのある女子を補導処分し、保護更生によって売春を防止することとし、売春の勧誘をした場合でも懲役または罰金を科す(5条)あるいは補導し収容することと定めている(17条)。

新法に大きく期待が寄せられている理由には、補導処分と収容の対象とされていた売防法の条項(17条、18条、22条)を廃止し、初めて女性の人権保障が明記されている点にある。

第2条では、「困難な問題を抱える女性」について「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性、その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱えている女性(そのおそれのある女性を含む。)」と定義し、第3条で心身の健康の回復や切れ目のない支援、さらには男女平等の実現を基本理念として明記した。

女性の支援団体や研究者など関係者からは、広く新法の成立を「大きな前進」として歓迎する声があがる。その一方で、女性が困難を抱える背景には、法律だけでは解決できない文化的、社会的、経済的、制度的な要因があることは、コロナ禍でも再度浮き彫りになった。

特に、他者の世話をするよう期待され、自分でも無意識のうちに親や子どもや夫のニーズを優先してしまう女性の場合、自分が困難を抱えていると自覚するのは容易ではない。「わきまえる」ことを求められる女性には、自分が抱える悩みや不安を相談することも、時に難しさがともなう。

◆暴力を解決する

たとえば、親から虐待を受け、人格否定や罵りが続く生活を強いられて育った幸子さん(30代、仮名)はこう明かす。

「私は小さい頃から一ミリも優しくされたことがない。でも、ニュース報道で子どもへの虐待について見聞きすると、自分よりもっとひどい被害に遭っている人と自分を重ねるのは失礼のように感じる。自分の中では人生が壊されるくらいひどい目に遭ったとは思うけれど、少しこぶになったり、あざになるくらいで、命に関わるほど暴力を振るわれた訳ではないですから」

自分よりも大変な状況にある人は他にもいる、と考えることによって、悩みや不安を相談する足が止まってしまうのだ。そこには、性暴力や虐待のサバイバーが常に抱く自責感がついてまわる。

幸子さんはこう続ける。

「いま振り返ると、なぜもっと早く家を出なかったんだろうと後悔します。家から逃げ出せていたら、違う人生を送っていたんだろうな、と。私が弱すぎたんです・・・」

子どもの頃の虐待や性暴力を含む暴力は、世界的にも3人に1人の女性、DVに限ると日本では、4人に1人の女性が複数回の被害に遭うとされている。それによる身体的被害はさることながら、精神・心理的トラウマは多くの問題を引き起こす。

繰り返される暴力を生き延びてきた女性たちは、自己肯定感や自信を喪失していることが多い。「対人力が欠けて」いたり「人間関係を築くのが苦手」なため、女性たちは孤立しがちで、仕事が長続きしない、生活が維持できないことも多い。

その背景には、暴力が影を落とす。女性支援法においては、心身の健康回復のために医学的、心理的な援助などを行うことも明記されているが、同時に重要なのは、暴力をなくし加害者を生まない文化と教育である。

1956年に売春防止法が施行されて以来、婦人保護事業は見直しがされてこなかった(写真:共同通信)

◆情報のアウトリーチ

生活に行き詰った時に相談すべき窓口や対処法がわからない、とは困難を抱える女性からよく聞く言葉だ。小学生の頃から日常的に母親から怒鳴られたり、殴る蹴るの虐待を繰り返し受けていた上に「お前は何もできない」などと暴言を受けてきた冬月さん(40代、仮名)はこう明かす。

「助けを求めたくてもどこに行けばいいかわからなかった。その情報を持っているのはこういう(虐待加害をする)大人なんですよね。児童相談所があることは知っていても、それがどこにあるのかもわからないし、当時は携帯電話もなかった。公衆電話からかけようと思っても電話するお金もありませんでした。生活に困ったときにどうすればいいか、ということを教えてもらえる機会もないんです」

世代によっては、ソーシャルネットワークサービス(SNS)上でつながりを持つ“知人”やインフルエンサーからの情報に信頼を置くケースが多く見られ、「困ったら役所」ではなくインターネットやSNSに向く。

親の暴力から逃げるようにして路上生活をはじめ、プライバシー漏洩の不安から携帯電話さえ持たないヒロ子さん(50代、仮名)などは、もっぱら活字頼りだ。情報リテラシーに関しては、年齢を問わず限定的だ。新法では、「民間団体との協働による支援」(第13条)を謳い、インターネットの活用による告知を明記しているが、ここでもきめ細かな対策が求められる。

◆権利教育と保障

前出の冬月さんは、コロナ感染が拡大しはじめた2020年11月頃、早々に登録型派遣の日雇い雇用が枯渇したため、まずは生活を安定させることを優先しようと生活保護申請を決意した。それでも数カ月の間は、「今でも嫌でたまらない」と繰り返した。

預金の出し入れはすべて役所に監理される。利用できる医療機関の選択肢は限られているため、これまで通院していた病院やクリニックには継続してかかることができないこともある。不便としか言いようがない。

「なにかと言えば、『不正受給』という言葉を引き合いに出して脅す。できることなら今すぐにでも利用を打ち切りたいくらいです」

コロナ禍では、厚生労働省が初めてインターネットなど各所で、「生活保護制度は国民の権利」と積極的に申請を呼びかけた。しかし長年、生活保護支出の抑制と不正受給の阻止を名目に申請を断念させるための水際作戦を展開してきた影響は、色濃く残る。

福島みずほ参議院議員は新法に大きな期待を寄せる(写真:共同通信)

他にも、所持金が数千円や数百円となった段階でも、制度を利用することで「税金の無駄遣いをしている」と言われることに罪悪感を抱いたり、「落ちるところまで落ちた」といった偏見にとらわれ、申請を拒み続ける人は決して少なくない。

背景には「仕事さえあればなんとかやっていける」という思いがある。働くことは、人によっては「自尊心にもつながる重要な活動」であり、女性支援法で定められた就職支援は女性が自立する上で欠かせない。ただここでも賃金格差や女性に集中する非正規雇用が是正されない限り、根本的な解決にはつながらない。

◆女性相談員の待遇改善

困難に直面した女性がハードルを乗り越えて、しかるべきところにつながるとすれば、専門的な知識や経験を持ち合わせた女性相談支援員(婦人相談員から名称変更)が対応することになっている。しかし、困難に直面する女性を支援する彼女たちが、ある一定期間を迎えると今度は支援される側に回っている現実があるという。現行の婦人相談員は、その多くが会計年度で任用(雇用)が切られる登用となっているため、大きな見直しが求められる。

公務非正規職員の処遇については、これまでも社会問題として広く指摘されてきた。会計年度で契約が区切られる有期雇用では、相談員が女性支援に必要な専門性や知識経験を養い、重ねていくことは難しい。実際コロナ禍で実施された相談会には、不安定でやりがい搾取の職場で働く会計年度任用の女性が複数人来場したことが確認されている。

2019年4月から1年間、インターネットで実施された「公務非正規労働従事者緊急アンケート」(有効回答1252件 はむねっと実施)には、まさにこうした声が現場から寄せられた。

「支援している側がいつ、される側になってもおかしくない。そんな、明日は我が身の不安定な状況で、いい支援をすることは非常に難しい」

相談する側も相談を受ける側も、将来の見通しが立たないような働き方では女性の自立はありえない。

「新法が制定されても魂を入れなければ、実効性のあるものにはならない」

4月、参議院厚生労働委員会で、福島議員はこう念を押した。政府や自治体が、今後新法をどのように運用していくかが問われている。

  • 取材・文松元千枝

    ジャーナリスト。人権や労働など社会的正義に関する問題を主に取材する。共著に『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋)、『マンガでわかるブラック企業』(合同出版)など、共同翻訳には『ストする中国』(彩流社)があり、2021年1月に共同翻訳『世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』(明石書店)を出版

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