妻を強姦し殺害…許されざるロシア軍の蛮行と現地住民の「慟哭」
戦争に悲劇はつきもの、と言葉で言うことはできるが、現実を目の前にするとそんなひとことでは片づけられないことがわかる。
「妻は3月下旬にロシア兵に殺害されました。殺される直前に残虐な暴行を受け、女性としての尊厳を傷つけられ……生きているうちに、もっと感謝の気持ちを伝えていれば良かった。大きな花束をプレゼントし、豪華な料理を振る舞いたかった。『愛しているよ』と言って、強く抱きしめたかった……。
息子は少し障害があるので、何がおきたかよく理解できていません。しかし、母親がいなくなってしまったことはわかっています。私たちが失ったのは、最愛の妻と家族3人の未来です。今は、何も考えられない……」
ウクライナの首都キーウ近郊の小さな街に住む、男性の慟哭だ。あまりに悲惨な告白に、記者はそれ以上話を聞くことができなかったーー。
悲しげな表情で思いつめ……

キーウを中心にボランティア活動をするバレンチーナさんが、男性の異変に気づいたのは最近のことだ。バレンチーナさんは、孤児院や病院、貧しい地区で暮らす人たちへ毎日温かい食事を提供している。彼女が振り返る。
「男性は、10歳くらいの男の子と一緒に食事と支援物資を受け取りに私たちのもとを訪れました。息子さんは脚が不自由なようで、車で来てね。ただ、お母さんの姿はなかった……。男性は息子さんに笑顔を向けていましたが、表情は悲しげで思いつめたようです。この家族に、悲しい事があったのだとスグにわかりました」
男性はバレンチーナさんに、自分たちを襲った悲劇についてとつとつと語った。
「男性の奥さんは、ロシア兵に殺害されたそうです。しかも強姦された後で……。おそらく男性と息子さんは、悲惨な現実を目撃してしまったのだと思います。障害のある息子さんの世話をしていたのは、主に奥さんだったとか。男性は息子さんの介抱をしながら働かなければならず、途方にくれた様子でした」
バレンチーナさんは男性の話を聞き、あらためて戦争の残酷さを思い知ったという。
「戦争が起きれば、多くの人々を不幸や悲しい出来事が襲います。何もキーウだけの話ではありません。だからといって、ロシア軍の横暴を許容することはできない。女性が強姦されれば、家族の男性にも決して消えない心の傷が残ります。最愛の人を守れなかったという自責の念に、一生さいなまれるでしょう。男性は、不幸のドン底につき落とされたのです。
私たちボランティアは、少しでもそうした人たちの助けになりたい。戦争が終わって元の生活を取り戻すまでは、食事を提供し続けるつもりです」
夫人を失った男性はバレンチーナさんに微笑み、最後にこう言ったという。
「温かい食事や支援物資を届けてくれて、本当に感謝しています。おかげで息子も私も、元気でいられる。ありがとう」



写真:現地住民提供