ラグビー代表候補に初選出された「超無名」鹿児島大卒の男の足跡 | FRIDAYデジタル

ラグビー代表候補に初選出された「超無名」鹿児島大卒の男の足跡

21日にリーグワン準決勝戦で中尾隼太は活躍できるか

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ラグビー日本代表候補に選ばれた中尾隼太。出身の鹿児島大学は1度も全国大学選手権に出たことはない(写真:アフロ)

教員を目指してアルバイトをしていたが…

関東、関西の名だたる有名校のみならず、海外のトップチームまでずらりと並ぶリストにあって、「鹿児島大学」の文字がひと際目を引く。5月9日、2022年度のラグビー男子日本代表候補選手発表。そこに、鹿児島大学教育学部出身の中尾隼太の名はあった。

本年1月に開幕した国内最高峰リーグ、「ジャパンラグビー リーグワン」でプレーオフ進出を果たした東芝ブレイブルーパス所属の27歳。176センチ、86キロの体格で、ゲームコントロールを司るスタンドオフやインサイドセンターを務める。今季はリーグ戦全15試合中14試合に出場し、うち13戦で先発。的確な状況判断と多彩なスキルを生かしたプレーメイク、体を張ったタックルでチームを上昇気流に乗せた。

リーグワンのトップカテゴリーであるディビジョン1でプレーする選手のほとんどは、都市圏の強豪校の中でも主軸として実績を残してきたエリートたちだ。地方大学の卒業生は少数派で、まして日本代表となれば極めて稀。現時点ではまだ候補の段階だが、ブレイブルーパスのサポーターならずともこの先の展開が気になる存在だろう。

今となっては数少ない公立の全国的な強豪である長崎北陽台高校から難関の国立大学に進んだ理由は、教師になるためだった。九州学生リーグに加盟する鹿児島大学ラグビー部の部員は40名ほど。中には大学から本格的に競技を始めた初心者もいた。

スポットライトを浴びることの少ない地域リーグの知る人ぞ知る実力者であり、ハンバーガーショップやコンビニなどでアルバイトをしながら教員採用試験合格を目指していた中尾に転機が訪れたのは、大学4年の春だ。九州学生選抜の一員としてプレーした同志社大学戦で、背番号10の司令塔は抜き出たパフォーマンスを見せる。その活躍が社会人チームの採用担当者の目にとまり、「鹿大のナカオ」はたちまち広く知られるようになった。

そこから東芝入団の流れでは、長崎北陽台時代の恩師であり、自身もかつて東芝でプレーした品川英貴監督の縁もあった。当初、中尾の気持ちは教員一本で固まっていたが、旧知の東芝関係者から相談を受けた品川監督がチームの獲得意思を本人に伝えると、心が動いた。

「下部のチームならやるつもりはなかったみたいなのですが、『東芝だったら?』と聞いたら、『そんなところから声をかけてもらえるのだったら光栄ですし、真剣に考えます』と。その後はトントン拍子で話が進んだようです」(品川監督)

ほどなくして東芝のスタッフから連絡が入り、上京を決断。申し込んでいた長崎県の教員採用試験は、辞退の届けを出した。

リーチマイケルとともに相手選手にタックルに行く中尾。国際試合ではSOのディフェンスが重視されており、中尾への期待も大きい(写真:産経新聞社)

教員としても将来を嘱望されていた

実は大学進学の際も、品川監督は中尾を関東の強豪校に進ませたいと考えていた。しかし当人にそのつもりはなく、教員免許を取得するために、2つ上の兄も進学していた鹿児島大学の教育学部に進路を定めた。

「たぶんその頃は、ラグビーで上を目指すという意識はあまりなかったと思います。もともと学力も高かったし、ラグビーで推薦を受けて大学に行くという考えはまったくありませんでしたね」(品川監督)

そんな気持ちに変化が生まれるきっかけとなったのは、秋の全国大会県予選決勝だった。キャプテンの中尾はこの試合で簡単な位置のゴールキックを外し、チームは2点差で敗れて花園出場を逃してしまう。「その悔しさでまたラグビーへの思いが強くなった、という話をしていました」と品川監督は振り返る。

鹿児島大学では下級生時からチームの中心となり、プレーレベルも競技への情熱も十人十色の仲間たちを引っ張った。3、4年時は地方リーグの代表校によって争われる全国地区対抗大学大会で2年連続準優勝を果たし、4年の秋には鹿児島県代表の主軸として国体でチームを準優勝に導く。その活躍を評価され、7人制ラグビーの日本代表に選ばれて国際大会にも出場した。

大学在学中にはレフリー資格も取得。選手、指導者、レフリーのいずれにおいても県のラグビーを牽引する人材として将来を嘱望され、教員試験を受ける際には、故郷の長崎に戻らず鹿児島に残ってほしいという熱烈な声が数多く上がったそうだ。

長崎北陽台の先輩でもあり、同じ10番、12番を持ち場とした品川監督は、プレーヤーとしての中尾の魅力をこう語る。

「ずば抜けたスピードとか、相手を吹っ飛ばしてゲインするような特別な武器があるわけではないけど、とにかくラグビーをよく理解していますよね。頭の回転が速いし、すごくクレバー。それでいてディフェンスもきちっとできるのが強みだと思います。ちょうど今シーズンは東芝の成績がよくて、タイミングも合った。代表クラスの中に入ってどれくらいやれるか、楽しみです」

アスリートとしてまさにこれから脂が乗ってくる年頃。このチャンスで日本代表のコーチ陣に強い印象を残すことができれば、来年のラグビーワールドカップフランス大会への道も一気に開ける。桜のジャージーをまとってフィールドに立つその姿は、かつて鹿児島の地でとも楕円球を追い、泣き笑いしたチームメイトたちの目にさぞ誇らしく映るだろう。

  • 取材・文直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

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