ロシア軍の「レーション」食べてみてわかった戦場の苦い味
ノンフィクションライター・水谷竹秀の「ウクライナ戦争」現地ルポ
ウクライナの首都キーウ近郊からロシア軍が撤退した後、焼け焦げた戦車が並ぶ路上や略奪された民家で見つけたものがある。それはロシア軍兵士が占拠中に携行していたレーションの箱だ。日本語では、戦闘糧食などと訳される。中身は空っぽだったが、ウクライナの住民たちの中には、ロシア軍からレーションを提供された人もいる。

キーウ近郊ブチャのマンションに住むヴォラディミール・コルニエンコさん(58)もその1人だ。3月中旬、彼の住むマンションはロシア軍に占拠された。妻(44)や3人の子供は避難できたが、自身はタイミングを失い、他の住民たちと一緒にマンションに閉じ込められた。
住民の1人が、ロシア語話者の多いドンバス地方の出身で、ロシア軍と話をつけてくれた。このため、直接的に危害を加えられることはなかったが、交戦の影響でマンションは砲撃を受けて一部が損壊し、その衝撃で多くの窓ガラスが割れた。砲弾が直撃した部屋は粉々に砕けて丸焦げになり、中に住んでいた男性1人が死亡。その遺体を、ボラディミールさんは下まで運んだという。
そんな悲劇にも見舞われる一方、ロシア軍からはレーションを提供された。このマンションにはロシア軍兵士が何グループかやって来て、そのうちの1グループから複数差し入れされたというのだ。
レーションはパッケージタイプで、A4サイズの深緑色の箱に入っている。表面の中央部分には、ソ連時代を象徴する星形のマークが描かれ、その下にロシア語で「ロシア軍」、「非売品」などと書かれている。

ボラディミールさんが箱を開封すると、中に入っていたのはクラッカーやアルミ製のパック食品、インスタントコーヒー、紅茶、ガム、チョコレート、固形燃料など約30点。食べた感想を尋ねると、ボラディミールさんは「まあまあだね」と説明してくれたが、やはり口にしてみないことには分からない。ということで、余っていたレーションを分けてもらった。
アルミ製のパック食品は全部で9品。そのうち3品がメインディッシュとみられ、それぞれ「牛肉入りお粥」、「牛挽肉のミートボール」、「牛肉とにんじんとえんどう豆の煮込み」といずれも牛肉が使われていた。お粥は加熱が不十分だったのか、コメがパサパサしており、ほとんど味がしない。ミートボールは牛肉の臭みが口の中に広がり、塩気が強く、味はしょっぱ辛かった。煮込みも同じく、牛肉の臭みが気になって、ほとんど無理やり口に放り込んで完食した。
続いて牛レバーのペーストは、鉄っぽい苦味が強く、とても食欲をそそる味とはいえない。ハムは食べられる味ではあるが、脂身が多く、食感はトロトロしていて、やはりしょっぱ辛かった。アルミ製のパック食品でまともに食べられると感じたのは、とろけるチーズぐらいだ。デザート用のりんごのペーストですら、りんごというよりはあんずに近い味がして、少しクセがある。
このほかはクラッカーやインスタントコーヒー、ガム、チョコレートなどで、クラッカーはほとんど味がしないが、チョコレートは甘さ控えめで普通に食べられる。ガムは白い錠剤のような形で、クールミントのような味だ。
ということでアルミ製のパック食品は、チーズ以外、私の口には合わなかった。私は以前、米軍のレーションも食べた経験があるが、今回ほど違和感を覚えたことはなかった。
このロシア軍の保存食はAmazonでも入手可能らしく、価格は12,980円。レビュ―には「普通に美味しい!」、「とても気に入ったので再度2つも購入しました」と、高評価が並んでいた。私の味覚がおかしいのだろうか……。





取材・文・写真:水谷竹秀