ダチョウ俱楽部・上島竜兵さんは「お笑い界の寅さん」だった | FRIDAYデジタル

ダチョウ俱楽部・上島竜兵さんは「お笑い界の寅さん」だった

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5月11日、ダチョウ俱楽部・上島竜兵さんの訃報が世間を驚かせた。

私自身、2月下旬にコメディアン・志村けんさんの三回忌を迎えるにあたっての取材でお会いしたばかり。今月10日には、『ドリフに大挑戦スペシャル』(フジテレビ系)を見た後に「上島さんがオチのコントにも期待してます‼︎」と、のんきにツイートしていた。あまりに突然で心が追いつかなかった。

翌日12日、ふと山田洋次監督の『虹をつかむ男』(松竹映画・1996年公開)を見ようと思い立った。高校時代にテレビで放送されたものをVHSに録画しており、この映画に上島さんが出演していたのを思い出したのだ。しかし、すぐに私は意気消沈する。ビデオデッキにヘッドクリーナーが詰まり、数カ月放置していたことをすっかり忘れていた。

ただ、なぜか今なら出てきそうな気がして取り出しボタンを押してみた。「ジーッ……」。やはり機械的な音が鳴るのみ。挿入部のフタを開け、無理やり指を突っ込んでビデオテープの背を何度もまさぐってみる。数分続けると、観念したのかヘッドクリーナーがゆっくりとこちらに顔を出した。

注意深く、「虹をつかむ男」と書かれたテープを挿入してみる。テレビモニターには特有の砂嵐が走り、しばらくすると上島さんの懐かしい姿が映し出された。

『FRIDAY』2021年9月10日号『ダチョウ倶楽部』上島竜兵「裸一貫で駆け抜けた 芸人人生」還暦特別インタビューの本誌未公開カットより(撮影:濱﨑慎治)

『虹をつかむ男』とダチョウ俱楽部のものまね 

『虹をつかむ男』は、俳優・渥美清さんが亡くなったことをきっかけに制作されている。49作目の『男はつらいよ』で車寅次郎役を演じる予定だったが、1996年8月に他界。渥美さんを追悼する形で制作されたのが、名画座「オデオン座」を舞台とする映画『虹をつかむ男』だった。主演を務めたのは西田敏行さん、吉岡秀隆さんだ。

上島さんが登場するのは映画のラスト。「オデオン座」の前にふらりと現れると、経営者の白銀活男(西田敏行さん)からアルバイトとして働くよう促されて車に乗り込む。たったそれだけのシーンだが、当時上島さんがよく西田敏行さんのものまねをしていたため、「ついに共演した!」と妙に心が躍ったのを覚えている。

振り返ると、私が初めてダチョウ俱楽部を見たのは、1980年代後半の『ものまね王座決定戦』(フジテレビ系)だった。「君だけに ウーワッ! 君だけに シュワッチ!」とウルトラ3兄弟に扮して歌った少年隊の「君だけに」は、いまだ脳裏にこびりついている。

そのほか、久米宏さんや木村太郎さんなどのニュースキャスター、田原総一朗さんをはじめとする『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)の出演者たち、上島さん個人なら野村克也監督や野村沙知代さんなど、明らかにそのほかの共演者とは一線を画すものまねを披露していた。

1980年代中盤から1990年代初頭は、ものまね四天王(清水アキラさん、ビジーフォースペシャル、栗田貫一さん、コロッケさん)が世に認知され、空前のものまねブームが起きた時期だ。その中で、ダチョウ俱楽部は“お笑い芸人によるものまね芸”の土台を築いたと言っても過言ではない。

今のように番組の特徴が細分化されていないこと、ものまねのパターンやテクニックが確立されていなかったこともあるのか、当時の『ものまね王座決定戦』はお笑い色が強く底抜けに面白かった。

根底にある、たけしさんの笑い 

『ものまね王座決定戦』では、ダチョウ俱楽部のトリオ芸、強いて言えばリーダー・肥後克広さんが目立っていた印象がある。名古屋章さん、森本レオさん、小室哲哉さんなどレパートリーも豊富だったからだ。

上島さんの持ち味が光ったのは、何と言っても『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(日本テレビ系)だろう。そもそも『お笑いウルトラクイズ』は、同局の看板番組『史上最大!アメリカ横断ウルトラクイズ』のお笑いタレント版としてスタートしている。しかし徐々にクイズ番組というよりも、体を張ったロケツアー企画がメインとなっていった。

プロレスラーとの対戦、強力な粘着シートへの落下、カースタントやバススタント、スカイダイビング、バンジージャンプや人間ロケット(逆バンジー)、爆破クイズなど、どれも危険を伴うものばかりだ。これに加え、たけし軍団、出川哲朗さん、ナインティナイン・岡村隆史さん、キャイ~ン・ウド鈴木さんなど、今思えば出演メンバーもすごい。この強者たちの中でひと際目立つ存在が上島さんだった。

もちろんリアクションの面白さもあってのことだが、番組サイドや共演者たちも上島さんの活躍を後押しした。上島さんは著書『人生他力本願 (14歳の世渡り術)』(河出書房新社)の中でこう書いている。

「実際のリアクションをするまでに打ち合わせで、『上島をおもしろく見せるために何をやろうか』っていうのを綿密に練っていくんですよ。たけしさんが、『こうこうこうやっといてさ、それで最後に上島がよ~……』って考えてくれたりしてね。(中略)俺1人の力じゃおもしろいリアクション芸にはならない。みんなの協力があってこそ、成り立つ芸なんですよ」

ダチョウ俱楽部の鉄板ネタである熱湯風呂は、たけしさんの修業時代の失敗が原点となっている。浅草のストリップ劇場「フランス座」では、踊り子さんが風呂桶に入る「入浴ショー」があった。その桶の湯を調整せず熱々の湯を出したところ、踊り子さんからひどく怒られた。これをネタにしたものが熱湯風呂だ。

おでんの芸も、『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)で片岡鶴太郎さんとたけしさんがやっていたコントからきている。ダチョウ俱楽部や上島さんの芸風には、たけしさんの笑いが欠かせなかった。

写真は、ショートショート・フィルムフェスティバル&アジア2016のセレモニーでの一枚。第一回ブックショートアワード ショートフィルム化作品『HANA』では、国語教師役を熱演(写真:アフロ)
同先品に、バスケ部の顧問役として出演していたゆってぃさんとお約束の…

一生お笑いをやればいいんだよ 

冒頭で触れたビデオテープには、もう一つの番組が録画されていた。1998年に放送された『志村けんのバカ殿様』(フジテレビ系)である。ビートたけしさん、ダウンタウン、そして、ダチョウ俱楽部も前年に引き続き出演している伝説の回だ。

当時、まだダチョウ俱楽部は家臣ではなく、“トップシークレットが書かれた巻物を盗んで一儲けしようと企む忍者”という役どころ。登場シーンの寸劇では3人の息の合った掛け合いで笑わせ、カメラから外れるタイミングで「カットしないでね、カットしないでね」と足踏みを揃える姿には独特の愛嬌も見られた。

夜の城中、いざ巻物を手にしたところで3人は捕らえられる。「忍び込んだ理由を吐け」と拷問を受ける中で大オチを担ったのが上島さんだ。首から下に透明な箱を被せられ、うなぎやザリガニ、蛙が何匹も放り込まれたり、水車責めを受けたりして悲鳴を上げる。終盤では、なぜかプライベート事情を吐かせる拷問へと切り替わり、志村さんのちょっとした振る舞いにアタフタする上島さんが妙におかしい。

このほか、上島さん個人でも町医者のコントで患者役として登場。大量の粉薬を飲んでむせ返り、火で溶けたロウソクの蝋を垂らされたり、竹刀で背中を叩かれたりして笑わせている。上島さんのリアクション芸を存分に生かそうと考えられたものだろう。

ダチョウ俱楽部の番組初登場が1997年。異例ともいえる扱いだ。実際、この番組以降に上島さんは『集まれ!ナンデモ笑学校』(テレビ東京系)やラジオ番組『志村けんのFIRST STAGE〜はじめの一歩〜』(JFN系)と共演が続き、2002年からはダチョウ俱楽部が『バカ殿様』のレギュラーに抜擢されている。

ここまで信頼されたのは、志村さんが上島さんにシンパシーを感じていたことが想像される。上島さんの著書『人生他力本願 (14歳の世渡り術)』を読むと、2人は本当に共通点が多い。酒好きで普段はちょっと人見知り、トークが苦手で体を使った芸を得意としている。さらには仕事観やネタに対する考え方も似ていた。

ちなみにダチョウ俱楽部には、横山やすしさんが司会を務める『ザ・テレビ演芸』(テレビ朝日系)で10週勝ち抜きチャンピオンの座を射止めた過去もある。上島さんもコントの面白さには自信を持っていた。

たとえばこんなエピソードがある。多趣味な芸人が活躍し始めた2000年代初頭、上島さんはどこか同調できず悩んでいた。ある日、志村さんに「お笑いだけじゃダメな時代なんですかね」と相談したところ、こう返ってきたそうだ。

「趣味なんて好きでもないことやってどうすんだ? そんなつまんねーことやって。そんなの一時的なもんだよ。お笑いが好きで一生お笑いやりたいなら、お笑いをやればいいんだよ」(前述の『人生他力本願 (14歳の世渡り術)』より)

上島さんにとって志村さんは、モヤモヤした気持ちを言語化してくれるメンターのような存在だったのかもしれない。一方で志村さんも、そんなピュアな上島さんといることが心地よかったのではないだろうか。

寅さんにまつわる笑いで幕を閉じた 

もともと上島さんは俳優志望だった。一度は劇団青年座研究所に在籍、その後テアトルエコーの養成所に入り、同期の寺門ジモンさんに誘われてお笑いの世界に入っている。

ただ、ここ最近は役者としての活躍も目立った。昨年から今年3月にかけて放送された『真犯人フラグ』(日本テレビ系)では、裏で糸を引く謎多き男・強羅誠役を見事に演じた。そのほか『SUPER RICH』(フジテレビ系)では貧乏ながらも愛情いっぱいの父親役で好演し、今年に入っても『恋に無駄口』(ABCテレビ制作/テレビ朝日系)や『やんごとなき一族』(フジテレビ系)といったドラマに次々と出演していた。

年齢を重ねて希望通りになったのだから、周りから見れば順風満帆の人生だ。でも、それ以上にお笑いから愛されていたのかもしれない。今月15日に放送された『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN系)の中で、有吉弘行さんが上島さんの葬儀に参列した時の模様をこんなふうに話していた。

「(上島さんの妻・広川)ひかるさんが喪主の挨拶、気丈にやってらっしゃった時も、ひかるさんらしくてね。『竜さんがフーテンの寅さん好きで』って話をしようと思ってたんだけど、もういきなり『寅さん死んじゃって』って。『わ、間違えた。寅さんじゃないわ、竜さんだ』っていう話をして、みんな最後の最後に爆笑してね。『もう竜さんだか寅さんだかわかんないような感じですね』っていう話とかもして。ひかるさんも最後まで笑ってて。いい葬式だなとか思って」

やはり、上島さんには“お笑い界の寅さん”というイメージがしっくりくる。渥美清さんの追悼映画に出演し、最後は寅さんにまつわる笑いで人生の幕を閉じた。

男とゆうものつらいもの、顔で笑って腹で泣く

(渥美清「男はつらいよ」作詞:星野哲郎、作曲:山本直純(クラウンレコード)より)

合掌。

  • 鈴木旭

    フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。2021年4月に『志村けん論』(朝日新聞出版)を出版。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中。http://s-akira.jp/

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