スカイラインから軽トラまで…アメリカで日本の中古車が人気なワケ
直近の10年で輸出数が14倍に急増中。人気爆発の裏事情を自動車生活ジャーナリスト、加藤久美子氏が解説する
近年、アメリカで日本の中古車が人気を集めている。JUMVEA(日本中古車輸出協同組合)の統計による国産中古車の輸出数を見ると、2011年はわずか816台だったが2021年には約14倍に相当する11380台にまで急増している。今年は2月までに2367台を輸出しており、このペースでいけば、2022年は15000台を超える勢いだ。
なぜいま、日本の中古車が人気を集めているのか。背景にはアメリカの中古車輸入規制が関係している。
アメリカでは製造から25年以上経過した車は保安基準や排ガス基準を満たしていなくても輸入が可能となる、通称『25年ルール』と呼ばれる規定が存在する。
このルールにより、規制が緩和されたシビックやインテグラ、シルビアS15など1980年代後半から2000年代初頭に販売されたスポーツカーや、コンパクトなボディサイズでありながら抜群の使い勝手を誇る軽トラなどが、アメリカへ次々と輸出されているという。中でも絶大な人気を誇るのがスカイラインシリーズだ。実際に『R32』が解禁された2014年、『R33』が解禁された2020年は、輸出数も激増している。

ちなみに『25年ルール』によってアメリカに渡ったクルマのことをJDM(Japanese Domestic Market=日本国内市場向けの車や装備)という。
JDMの人気は2001年に1作目が公開された映画『ワイルド・スピード』と共に拡大してきたと言っても過言ではない。90年代から西海岸では「スポコン」(アコードやシビック、インテグラなど北米ホンダ車を中心としたスポーツコンパクト車)が高い人気を博していたし、『ワイルド・スピード』の1作目もロサンゼルス近郊の走り屋、ストリートレーサーたちの生態を描いたストーリーだった。そこには当時、アメリカで販売されていた左ハンドルの日本製スポーツカーが多数登場し、アメリカの若者たちを夢中にさせた。
『ワイスピ』だけではなく『頭文字D』などのアニメや『グランツーリスモ』などの人気レースゲームにもたくさんの90年代日本製スポーツカーが登場しており、アメリカで火が付いたJDMの人気は東南アジアや中国、欧州にまで世界に広く拡大していったのである。


「スカイラインの神」が語る、日本製スポーツカーの魅力

アメリカで「スカイラインの神」と崇められる人物がいる。輸入会社『トップランクUSA』の共同経営者であるショーン・モリス氏だ。『トップランクUSA』は日本製スポーツカーを多数輸入しており、とくに『R32/33スカイラインGT-R』に関しては多数の販売実績を誇る。モリス氏がスカイラインの魅力を語る。
「1991年、父親に連れられて日本にいった際、初めて本物の『R32』を見ました。これは衝撃でしたね。『ものすごくカッコイイ!』と一目惚れしました。『R33』は『R32』よりも少し大型に作られている。そのため体の大きなアメリカ人には長距離を快適に走れるとして『R33』の評価が日本よりはるかに高い。シャシーも改善されているし『R33』のエアロは完成度が高く、実際の空力性能も素晴らしい。
私が思う『R32』の魅力は、完成し切ってないところですね。『R34』ともなると熟成されて完成度が非常に高くなっているのですが、『R32』はエンジンや足回りなどのチューニングが楽しい。カスタマイズをする楽しみが十分に残されているんですよ。そこがいいですね」

一方、ショーン氏とともに共同経営を行う小菅氏は、昨今のJDMブームを分析する。
「2000年初頭に盛り上がった日本車人気を第一次JDMブームとするなら今は第二次JDMブームと言える時期ですね。一過性のブームではなく間違いなく固定ファンが増えています。日本車の実力や価値、信頼性が認められてきたことも背景にあるでしょう。今、JDMに夢中になっているのは40代半ばを中心とした層です。『ワイルド・スピード』で日本製スポーツカーのカッコよさに衝撃を受けた若い世代ですね。
20年以上が経過し、『25年ルール』が適用されてタイミングよく日本車がアメリカに入ってくるようになり、JDMが買える経済力もついてきた世代です。ずっと待ち詫びていたアメリカのGT-Rファンたちが次々と手に入れ始めている状況です」
2024年1月からは1999年1月に発売された『R34スカイラインGT-R』も「25年ルール」によってアメリカへの輸入が解禁される。アメリカのJDM人気はますます盛り上がりそうだ。

写真:加藤久美子、加藤博人、Hailey Magoon(7枚目)取材・文:加藤久美子