滋賀の山中「忍者の里」にある天下一品の客足が止まらない理由
グループ全体で231店舗(※2022年5月現在)を展開する「天下一品」。北は秋田から南は沖縄まで、日本全国どこでも食べられる”こってり”のスープは、滋賀県大津市、瀬田のスープ工場で作られ全国へと配送されている。だが、そんな「天下一品」も一店一店つぶさに見て行けば、店によって様々な個性があることがわかる。
京都にある総本店などは最も顕著な例で、天下一品ファンは「聖地巡礼」と称して総本店を訪れ、修学旅行生もやってくる名所となっているようだ。そんな“個性派天下一品”のなかでも、ダントツにレア度の高い店舗が滋賀県の山中、“忍者”の甲賀にある。緑に囲まれた“焼き物”で有名な信楽の、“お茶”畑が広がる「上朝宮店」だ。
その正体は、木村会長の40年来の右腕として働いてきた店主が、築約100年、250坪あるお茶屋さんの古民家を買い取って、奥さんと共に1年掛けてリノベーションした“高級料亭風天下一品”である。
この天下一品、京都から電車で2時間半。車がなければなかなか辿り着くのは困難な秘境の店舗でありながら、それでも週末ともなると県外からやってくる天下一品ファンで溢れ返るほどの賑わいを見せる人気巡礼スポットとなっている。
上朝宮は、スープ工場のある瀬田よりも気温が4度ほど低いという、お茶畑と山々に囲まれた地。その中にひときわ目立つ、白壁の豪壮な門構えに天下一品の文字。和傘に灯篭、整備された日本庭園。囲炉裏仕立ての待合いを経て、玄関で靴を脱いであがれば、和の美術品が揃うこってりスープとは乖離した店内に「ここはどこか」と混乱するが、木村会長の「正しい努力」の書で天下一品だと思い出す。
個室には調度品にテーブルセットの和洋折衷。田園風景を眺めるテラス席もあれば、長い廊下をわたっていく離れもある。
あまりにも居心地がよく、ゆったりと時間が流れすぎるために天下一品全店舗中、回転数がもっとも悪いとも言われるほど。メニューも通常の“こってり”などの天下一品メニューだけでなく“中華そば屋の酒のアテ”というオリジナルメニューがあり、「地鶏いぶし焼き」「牛ホルモンの唐揚げレモン風味」「ザクザクキャベツのごま風味」など、つまみが充実。当然お酒も飲めて、店主の出身地である秋田の地酒など各種酒類が用意されているので、長時間滞在してしまうこともざらだ。
「昔は木村会長と朝から晩まで一緒に汗だくになって働いて、毎日こってりを食べてきました(笑)。フランチャイズ店のオープンも半分ぐらいは開店の準備に立ち会ってきましたかね。
ラーメン以外でも、僕は昔、九条店の二階で焼き鳥やらせてもらったり、先斗町のお茶屋を買って店をやらせてもらったり、河原町でイタリアンを任されたこともありました。その中で、いろんなメニューをやらせてもらいましたけど、やっぱり一番はこってりです。
ただ、同じ味でも天下一品をより美味しくするものは、店の空気であり、景観であり、何より接客する人じゃないかと思っています。全国どこでも同じスープなのに、多くのファンの方がいろんなお店を食べ歩いているのは、そういう楽しみもあるからではないでしょうか」
上朝宮店の限定メニューでは、こってりベースながらオリジナルのアレンジが効いた「スタミナ中華そば」「こってりこがしにんにく麺」らが人気。ほかに「こがしにんにく牛カイノミステーキチャーハン」なんて贅沢なメニューも。それでも一番人気は「こってり」なのだというから、やはりどこまで行ってもお釈迦様の掌の中か。
ちなみに、同じ敷地内には夫妻が経営するイタリアンレストラン「Pizzeria CUOCA」もある。ピザ焼き窯もあって本格的なイタリアンがなぜこの場所に?食い合わないのだろうかと思ったが、天下一品上朝宮店が満員で行き場を無くした失意のお客さんも、満足して帰っていくというからなるほど納得である。
同じチェーン店。同じスープでも、景観や接客する人によって美味しいという感じ方も変わってくるのであれば、「総本店のスープはやっぱり違う」というのも道理である。天下一品好きを名乗るのであれば、この上朝宮店には絶対に一度は行っておきたい。







撮影:加藤慶