1歳幼児を抱いて…激戦地マリウポリ住民の告白「地獄からの生還」 | FRIDAYデジタル

1歳幼児を抱いて…激戦地マリウポリ住民の告白「地獄からの生還」

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ザポリージャに避難したイーゴリさんの息子。猫に覆いかぶさり砲弾の破片から守った(画像:ウクライナ住民提供)

「避難していた病院には、麻酔薬も抗生物質もありませんでした。毎日次々と負傷者が運び込まれてきますが、わずかなキズでも切断するしかない。しかも麻酔ナシです。外科病棟の1階は遺体で埋め尽くされ、建物の外にも積み上げられていました」

こう語るのはウクライナ南東部マリウポリに住んでいたイーゴリさん、59歳だ。

マリウポリはウクライナの最激戦地で、3月からロシア軍が市街地を包囲している。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、少なくとも3000人以上の民間人が命を失った。ウクライナの国家親衛隊「アゾフ連隊」は、アゾフスタリ製鉄所に立て籠もり徹底抗戦。しかし5月20日に最後の兵士531人が投降し、ロシアは完全制圧を宣言した。以下は、地獄の戦地から決死の逃避行をとげたイーゴリさんの告白だ。

「私には妻と11歳の息子、28歳で育休中の娘がいます。孫はロシアが侵攻を開始した2月時点で1歳4ヵ月。娘の夫はウクライナ軍兵士として戦闘に参加しているため、娘と孫は私たちと一緒にいた。私たちはアゾフスタリ製鉄所の近くに住んでいました。

当初、家族は地下シェルターに避難し、私だけアパートの部屋に残っていました。開戦後すぐに水道、電気、ガスが止まったため、雪や雨水を集めて水をろ過して飲料水を確保。食事はバルコニーで作りました。砲撃が絶えず窓はすべて割れ、砲弾の破片が毎日飛んでくるため、外に出るのは危険です。ウクライナの将校が来て、アゾフスタリ製鉄所に家族を避難させるよう勧めましたが、窓のないアパートを泥棒に荒らされたくなかった。家族も私だけ置いて行くことをイヤがったため、将校の勧告は断りました」

3月11日、アパートにアゾフ連隊の兵士が来て、緊迫した様子でこう警告した。

「あなたの部屋が(アゾフ連隊の)陣地になる。至急、シェルターに退避するように!」

「火災が発生し息もできない」

ロシア軍の砲撃を受け廃墟となったイーゴリさんの住んでいたアパート

イーゴリさんはペットの猫と身分証だけ持ち、地下に避難する。ロシア軍の戦車がアパートを攻撃し始めたのは、その30分後だ。

「シェルターは激しく揺れ、天井が崩れ、内部には煙が充満しました。子どもたちは泣き、大人たちは祈っていた。火災が発生し、息もできません。私たちは、シェルターからの避難を決めました」

車が破壊され移動手段はない。1歳の孫を抱き、イーゴリさんは燃えあがるアパートから道路に飛び出し、火の粉を浴びながら別のアパートに向かって懸命に駆けた。

「右からも左からも弾が飛んできて、行く手を阻みます。11歳の息子は猫を抱き、妻と娘は泣きながら私の後を走りました。一番近くにあったアパートに駆け込むと、住民がドアを開けてシェルターに入れてくれたものの、狭くて人が溢れている。とても長居できる状態ではありません。

数日後、私たちは街の中心部へ向かうことにしました。廃墟となった街を走りだすと、爆発が起こり、土砂が降ってきます。もう少しでアゾフスタル製鉄所に到着するところで、空襲が始まったんです」

ロシア軍の砲撃を受け粉々になった病院

近くの病院に逃げ込むと、医者たちはこれ以上先には進めないと説明。イーゴリさんは、家族とともに病院に残ることを決断する。

「1日1回スープが与えられ大人たちはガマンしたが、孫には専用の食事が必要です。粉ミルクや、お粥がなければなりません。病院に滞在した1ヵ月間、私たちは家族の命を守るため必需品の調達に追われました。特に水は貴重な資源です。暖房の冷却水を抜いたり、ゴミで埋め尽くされた消防用の水を使いました。水たまりの汚水も、ろ過して飲料水に変えていた。料理は、歩道の煉瓦を集めた即席の暖炉で作っていました。

病院は間断なく砲撃を受けています。ある日、私の家族が調理中に地下シェルターに降りた瞬間、120mm迫撃砲が暖炉に直撃。近くにいた2人が即死、1人が片方の足を吹き飛ばされました。私たちは彼を手術棟に運び対応したものの、助けられなかった……。出血多量でした」

病院には麻酔薬も抗生物質もない。負傷者は、わずかなキズでも患部を切断せざるをえず、手術は麻酔ナシで行われた。戦闘は激化の一途をたどる。

「病院の敷地内でも、ロシア軍とアゾフ連隊が衝突していました。食料や水を手に入れるのも命がけです。ある時、無線が聞こえてきました。外科病棟を戦車や大砲で砲撃し、建物の中に運搬用の通路を作れと命令する声が聞こえます。ロシアの偵察部隊でした。

無線を聞いていたことがバレたら、銃殺されるか捕虜になると思いました。私は、とっさに医者を探すふりをしました。医者たちの名前を大声で叫んでね。私の声を聞いたロシア兵は、両手を上げてゆっくり来るようにと命じます」

イーゴリさんは身体検査をされ、尋問を受ける。ロシア兵は武器がないことを確認すると、おむつ、水、粉ミルクなど、幼児に必要なものを探しに行くことを許可した。しかし……。

「向かいの建物にはアゾフ連隊のスナイパーがいて、私のほうに銃口を向けています。スナイパーは、ロシアの偵察兵に発砲しました。私は幸運にも、無傷で済みました。間もなく病院は銃撃を受けて破壊され、手術をしていた医師、看護師、患者たちが犠牲になりました」

【後編】では、マリウポリを出てイーゴリさんが経験した想像を絶する現実を紹介する。

【後編:下着まで調べられ地雷地帯を走破…マリウポリ住民の決死行】に続く。

ロシア軍の砲撃を窓が吹き飛んだイーゴリさんの住んでいたアパート
シェルターの暗闇内でたたずむ猫
ロシア軍の攻撃でマリウポリの街ではあちこちから黒煙が
ロシア軍の砲撃を受け粉々になった病院
  • 写真ウクライナ住民提供

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