「パチ怪獣ソフビ」を集める男が飛び込んだ奥深きパチモノの世界 | FRIDAYデジタル

「パチ怪獣ソフビ」を集める男が飛び込んだ奥深きパチモノの世界

金曜日の蒐集原人・第8回「真実一郎さんが向かう、ワールドワイドに広がるパチ怪獣ソフビの世界!」

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

コレクションはおもしろい。特定のテーマに沿って集められた充実のコレクションを見るのも楽しいけれど、それ以上にコレクションすることに夢中な人間の話はもっとおもしろい。この連載では、毎回いろいろな蒐集家の元を訪ねて、コレクションにまつわるエピソードを採取していく。人はなぜ物を集めるのか? 集めた先には何があるのか? 

『金曜日の蒐集原人』とは、コレクターを蒐集したコレクションファイルである。

今回ご登場いただく真実一郎さんは、会社勤めの傍らライター業もこなし、長年サラリーマン漫画を研究してきた人物だ。その成果は『サラリーマン漫画の戦後史』(洋泉社新書)として書籍化されている。いや、それよりも、リア・ディゾンが日本でモデルデビューしたとき、誰より先に「グラビア界の黒船」と形容した人物だと言ったほうがわかりやすいかもしれない。

そんな真実さんは、熱心な怪獣ソフビのコレクターでもある。それも普通の怪獣ではなく、パチモノ。つまり本家の版権を微妙にすり抜けたギリギリのやつだ。軽い好奇心でパチ怪獣コレクションを見せてもらいに行ったら、いつの間にか、その先には夢のある世界が広がっているのを知ることになった──。

幼少期のドイツ暮らしが怪獣への渇望感を生んだ

──膨大なコレクションを収納してある場所は取材班が入れないということで、今回は真実さんのブログやインスタグラムに掲載されている写真から事前に目星を付けたものを指定し、持参していただきました。

ひとつひとつはそう重くはありませんが、これだけまとめて持って来るとなれば、けっこうな重量のはず。いつもコレクターの方にはご苦労かけております

──まず、基本的なことから伺っていきますが、いわゆる普通の怪獣もお好きなんですよね?

真実 はい。元々は『ウルトラマン』とかに登場する怪獣のソフビを細々と集めていたんですが、あるときから偽物やオリジナルにしか興味がいかなくなって、そっちに全振りした(笑)という感じでしょうか。

──怪獣ソフビの世界も広いし、どこかで自分なりのテーマを決めないと手に負えなくなりますもんね。とくに偽物的なインチキ臭さが好きだったとか、そういうこともあるんでしょうか?

真実 それもありますが、ぼくは小さいとき父の仕事の都合でドイツに住んでたんですよ。でも、ドイツって子供向け文化がほとんどないところなんです。少なくともぼくが住んでいた頃の西ドイツはそうでした。

──冷戦時代ですね。

真実 だから、日本に住んでるお爺ちゃんが、大ブームになっている怪獣のソフビを送ってくれて、それがドイツで子供文化に飢えているぼくには最大の娯楽でした。当然、その頃はバルタン星人とかゴジラとか、そういうオフィシャルな怪獣人形で遊んでいたんですが、その後、日本に帰ることになったとき、親に勝手に捨てられちゃうんですが。

──うわ、ひどい。

真実 捨てるというか、荷物になるからって現地に残る日本人の子供にあげてしまったんです。そんなふうにして帰国してきたもんだから、自分はどうにも怪獣で遊び足りてない気持ちが抜けなくて。

──でしょうねえ。怪獣への渇望感が。

真実 なおかつ、怪獣ブームを遠くから見ていたので憧れも強いし、だから日本に帰ってきてもその熱が止まず、怪獣ものや特撮ドラマは中学生くらいまでずっと見てました。

──お生まれは、何年ですか?

真実 昭和44年(1969年)です。

──では、たしかに怪獣ブーム直撃世代ですね。

真実 中学生になったくらいの頃に、ブルマァクの怪獣ソフビがお小遣いでギリギリ買えるようになってきました。

──その頃に買い集めた普通というか、本家というか、いわゆるメジャーな怪獣たちもまだ持ってるんですよね?

真実 いや、あるとき処分しました。

──えっ!

真実 パチモノだけに集中するとなると、まず置く場所を確保しなければならないのと、購入資金も捻出しないといけないので、既存のものは売ってしまって、そのお金をパチモノだけに全部つぎ込む。

──また思い切った行動に出ましたね。

真実 既存のものって、すでにコレクターがいるんですよ。メジャーな怪獣をすべて揃えてる人とか。カタログ的に全部持ってる人とかいて、そういう人たちには絶対に追いつけない。

──なるほど、そこで戦っても勝ち目がない。

真実 最初は楽しいんですよ。でも、あるときからカタログを埋めていく作業になるんです。それに対して、パチモノは何が出てくるかわからないおもしろさがある。見知らぬものとの出会い。

──全貌がわからないですからね。

真実 そうです。だから、そっちの方に向かったという感じですね。

倒産して、版権も消え、それをパチ怪獣で立て直す

──コレクションの方向性をパチモノに絞ったのは、いつ頃ですか?

真実 15年くらい前でしょうか。いまは妻も子供もいて、家に飾る場所も限られているので、もうコレクションの幅を広げるのは諦めていくしかないと。

──立体物は場所をとりますからねえ。

真実 だからキュラーズ(Quraz=レンタル倉庫)とか借りて、そこに収納してるんですけど、本当は部屋にショーケースとか置いて一気に飾りたいんですよ。

──いまパチ怪獣は何体くらい所有してますか?

真実 ぼくはリストにしていないので、わからないんですよ。インスタグラムに掲載しているので、そこにアップしてある写真を数えればわかると思いますが。

──今日、家を出る前に目を通してきましたが、けっこうな数がありました(※取材後に数えてみたところ、あまりにも数がありすぎるのと、素人目には同じにしか見えないものもあり、500体まで数えたところで断念しました)。パチ怪獣専門のメーカーとかあるんでしょうか?

真実 たとえば、元々はゴジラやウルトラマンのソフビを作っていたマルサンという会社があるんですけど、そこはいちど倒産して、またすぐに復活したときにはウルトラマンとかの版権を失っていたので、パチ怪獣に走ったんです。

マルサンというメーカーが始めたパチ怪獣。ガラモンはダムを破壊したけれど、そのパチ怪獣である「ガルゴン」は会社の立て直しに協力した

──メジャー作の権利取得にはお金もかかるし、とりあえず版権のないものでしのごうってわけですね。

真実 で、これがそんな時期のマルサンが出したガラモンのパチモノで、「ガルゴン」といいます。こうした当時マルサンが作ったパチ怪獣やオリジナル怪獣だけでも40~50種類くらいあったりするんです。これのスタンダードサイズが26か27種類くらいあるのかな? それを20年ほどかけて、やっと集めきりました。

──ガラモンは怪獣としてはメジャーな存在ですし、それのパチモノだから、こいつはパチ怪獣ソフビとしてかなり標準的なものと言えそうですね。

名前すらわからなかったパチ怪獣をマニアが体系化する

真実 これは、当時マルサンが出していたカタログ『怪獣新聞』です。「キングゴジラ」とか、「エビレオン」とか、「マンドラ」とか、みなさんの知らない怪獣がたくさん載ってます。

新品同様のパッケージにでも同梱されていたのか、シミも汚れも破れもなく、よくこんな綺麗な状態で保存されていたものです。パチ怪獣研究科にとって一級の資料と言えそうです

──これは難しい問題だと思いますが、パチ怪獣は偽物なのかっていうと、そうではなくて、マルサンという会社によるオリジナル怪獣だ、とも言えるわけですよね?

真実 そうです。だからマニアの中には、パチ怪獣という言い方をしない人もいます。たとえば、カネゴンのパチモノを作ろうとしてるうちにオリジナルからは離れたデザインのものが出来てしまったら、それはカネゴンのパチモノではなくて、オリジナルなのではないか? とかも言えるわけで。

──ですよね。でも、それは子供には伝わらないし、子供って残酷だから、間違って買ってきた偽物を持っていたら、絶対ともだちに笑われますよね。

真実 パチモノとかオリジナル怪獣って、怪獣の名前が書かれてないことが多いんですよ。

──そうか、オフィシャルなものは足の裏に「ゴジラ」とか刻印されてますもんね。

真実 だから、パチ怪獣は販売されていたときのヘッダ(ビニール袋を綴じているラベル)がない状態で手に入れると、それがなんという怪獣なのかわからない。それで、あとになってからマニアがいろんな資料を発掘し、名前を特定して、体系化されていくんです。

──わはは、やってることがほとんど古生物学ですよ(笑)。ぼく、暇なときにまんだらけに行って、レアなアイテムの棚とか見るのが好きなんです。ソフビ怪獣のコーナーを見ると、けっこうな値段が付いてますよね。本家の怪獣よりパチモノのほうが高いってことはあるんですか?

真実 それはありますね。そもそも本家よりもパチモノは生産数が少ないですし、パチ怪獣っていうのは、ある時期までは文字通り偽物、価値のないものとされていたので、捨てられてしまうことも多かったんです。

──現存数が少ないってことか。そりゃ値段も上がりますね。

真実 だから、いまは数少ないパチ怪獣コレクターによる取り合いで、お互いが値段を釣り上げてしまい、苦しい戦いをしているジャンルなんです。

──先ほどのお話にもありましたが、パチ怪獣を集めようと思ったきっかけは、普通の怪獣を集めるうち壁に突き当たって、自分なりの道を探したらパチ怪獣があった、ということでしたよね。

真実 もう川口浩探検隊がジャングルに踏み込んでいくような気持ちで。

──でも、前人未到だと思ったら、気がつけば他にも探検者がいて、大蛇を引っ張り合ってるという(笑)。そう考えると、マルサンのシリーズなんかはパチ界ではまだ開拓されているほうなんですね。

真実 全然メジャーです。カタログも残っているし、出自もちゃんとしてるわけだから。

──マルサンのもの以外に、怪獣の名前どころか、どこの何というメーカーが作ったのか、その記録すら残ってないようなものもあるんですか?

真実 もう倒産してなくなっちゃったメーカーがたくさんあるし、外国製のものもあります。そういうものも、マニアたちが過去の『東京玩具商報』といったオモチャの業界誌なんかを図書館で閲覧したりして、これは何というメーカーの何という怪獣なのかを調査してます。時系列で並べ替えたりして、楽しいですよ。

──ビデオゲームの世界にも、かつては『スペースインベーダー』のパチモノが山ほど存在していて、いまはやはりゲームマニアがそれらのメーカーやタイトルを、ちゃんと調べていたりします。

真実 だから古生物学というか、もう少し広い意味で、考古学に近いと思います。

パンクと格闘技と怪獣ソフビの共通項

──真実一郎さんの他にパチ怪獣を集めてる人って、どんな方たちなんでしょう?

真実 有名なところでは、cocobatというパンクバンドのTake-Shitさんがすごいコレクターですよ。昔のオリジナル怪獣や、名もない駄玩具など、昭和のマイナーなオモチャにすごく詳しくて、まさに考古学的に過去のオモチャ、謎のオモチャを調べてます。

──真実さん、少し前にツイッターで「パンクと格闘技と怪獣ソフビが好きで、怖くて強いものが好きなんだけど、この3つには何らかの共通項があるのだろう」みたいなことをつぶやいてましたよね。そんな自分の上位互換がTake-Shitさんであると。

真実 そうです。あらゆる面でTake-Shitさんにはかないません。いつかインタビューしてみたいです。

──ぼくは怪獣少年じゃなかったけど、ソフビの魅力はなんとなく肌で感じていて、集めたらきっと楽しいだろうなあとは思ってるんです。でも、ソフビをコレクションするのって、お金がかかるでしょう?

真実 そこなんですよねえ。

──お気に入りを1体だけならともかく、あれもこれもとなると、なかなか踏み出せない。

初期衝動で手捻りされた粘土のかたまり「ヘドラ2号」

──いちばん最初に買ったパチ怪獣というのは、どれですか?

真実 I・K・Bという下町のオモチャ会社から発売された「ヘドラ2号」ですね。

──ああ、インスタグラムで見ました。1号じゃなくて、最初に2号を手に入れたんですか。

真実 たまたま見つけたのがそれだったから。でも、最初はよくわかんなかったんですよ。これがいちばん造形的にイカレていた。だって、デッサンがないでしょう?

──デッサンがない(笑)。たしかにフリーハンドというか、粘土を手で適当にまとめたようにしか見えません。

真実さんが初めて手にしたパチ怪獣「ヘドラ2号」。ヘドラというよりケロニア、もしくは理研のわかめちゃん、パンダのゲロ、いろんな言葉が頭に浮かぶ

真実 初期衝動というか、こういうところにもパンクを感じるんです。これも足の裏には名前は刻印されてないし、企業印もなんて書いてあるのかわからない。でも、ぼくは何もわからないまま、この造形に心惹かれて手にしたわけで。

──だから「パチモノを集めるぞ」という意識から始まったというよりも、まずその闇雲な造形力(チカラなのかな?)に引き寄せられた、ということなんですかね。

真実 パチ怪獣集めの原点となった本が2000年に出版されてるんですが、「ヘドラ2号」もここで紹介されてるんです。

いまも続くパチ怪獣ブームの原点となったのがこの『デス・オモチャ2000年』(徳間書店)。よく見たら編著者の植地毅って、ぼくの友人でした!

真実 で、ここにパチ怪獣ソフビを紹介したページもあって、ここで初めて自分の手に入れたのが「ヘドラ2号」という名前であることを知って。と同時に「ヘドラ1号」も「ヘドラ3号」もあることがわかったりして。まあ、ものによっては勝手に名前を付けてるやつもあるんですけど。

──テキトウ!(笑)

真実 たとえば、イギリスの怪獣映画に出てくるゴルゴにゴジラを足したような感じだから「ゴルゴジラ」とか、ペギラとギャオスの中間みたいだから「ペギャオス」とか、その場のノリで決められていて。正式名が判別していないものは、いまでもコレクターの中でそういう名前として流通していたりします。

──この本がバイブル化してしまった。

真実 それがちょうど2000年くらいのことで、その後、マニアたちが『東京玩具商報』などの資料を掘っていって、正しいメーカー名と怪獣名が少しずつ判明していくんです。

パチモノ怪獣をさらにパチるという謎現象

──パチ怪獣をさらにパチって作られた怪獣もあるそうですね。

真実 さっきの「ヘドラ2号」がそうですよ。まず本家ヘドラがいて、そのパチである「ヘドラ1号」「2号」「3号」があって、さらにそこからインスパイアされて21世紀になってから作られた「ヘドラン」がいる。本家のソフビも持ってはいるんですが、子供に壊されてしまったので、今日持ってきたのはカラーリングがちょっと違うやつ。

左端が本家ヘドラの蛍光カラーバージョン。その隣の赤いのが「1号」、緑が「2号」、オレンジが「3号」で、右端のやつが「ヘドラン」。いずれにせよドロドロです

真実 いろいろ調べていくと、I・K・Bのヘドラシリーズは本家のソフビより先に発売されたらしいんですよ。

──はい? どういうことでしょう。

真実 つまり、映画『ゴジラ対ヘドラ』が公開される前に、雑誌とかにスチール写真が掲載されたりしますよね。でも、それが不鮮明なものしか載ってなくて、ただの黒い物体に光る目が2つ付いたようなシルエットだった。それでメーカーが映画の公開前にその写真から類推した全体像を立体化して、本家より先に発売しちゃった、という話があるんです。真相は分かりませんが。

──わはは、偽物っていうか、本物を追い越してる(笑)。

真実 ジラースはわかりますか?

──エリマキ怪獣ですよね(※正確には「エリマキ恐竜」です)。

真実 これがジラースのパチ怪獣なんですけど。

襟巻きからジラースにはないツノが生えている。口に開いてる穴は風船を挿すところ。胴体をギュッと押して風船を膨らませると、火を吐いているように見えるんだそうです。凝ってるな~

──そうか、そもそもジラース自体がゴジラの着ぐるみの再利用ですよね。そんなジラースにさらに加工を施してるのがクドくていいですね。

真実 そう、ジラースに余計なツノを付けてパチ怪獣にするところがいいんです。ジラースはパチの元ネタにされることの多い怪獣ですね。怪獣王であるゴジラがベースになってるのと、襟巻きというわかりやすさがあるからかもしれません。

偽物が本物を超えるパワーを持ち始めるおもしろさ

真実 あと他にもパチのパチではカネゴンもあって、まず普通のブルマァクのカネゴンがあり、それを真似した当時のパチ怪獣があり、さらにそのパチカネゴンへのオマージュとして、Terrible Whore(テリブルホアー)というアーティストが「ゼニゲバ怪獣ヒロポン」というのを作りました。

右からカネゴンと、そのパチ怪獣(本名不詳)と、ビシッと指さされてるのが「ゼニゲバ怪獣ヒロポン」。もはやカネゴンの面影はほとんどない

──ぼくとしては、まず王道の怪獣ソフビがあって、でも著作権意識の甘かった時代にそれを勝手に真似して作られてきたのがパチモノ怪獣だ、という認識だったんですが、ここまで見せていただいてきて、いまはそれとはちょっと違ったニュアンスのものが出てきてることがわかりました。

真実 「ヘドラン」も、Gargamel(ガーガメル)というストリート系のアーティストが、オマージュとして作ったものなんです。若いアーティストたちが怪獣ソフビにインスパイアされて、自分の表現のモチーフとして使うという例が増えてるんですね。しかも、元ネタへの愛が昇華されて、そこに自分なりの強烈なオリジナリティが込められている。

──だから、それらを「パチモノ」と呼んでいいのかというと、事情はちょっと違ってきますね。ぼくが知ってるところでは、逆柱いみりさんや安楽安作さんといった、ガロ系のような作家さんもオリジナル怪獣を作ってるじゃないですか。

真実 はい、基本は皆さんオリジナル怪獣で。だから、どこまでを偽物と呼ぶのか、何をもって本物とするのか、という議論になっていくでしょう。あるときから偽物が本物を超えるパワーを持ち始めるおもしろさというか。本物より価格が高くなってる現象があったりもするわけですし。

アーティストの想像力を受け止める場としてのソフビ怪獣

──ティム・バートンが『マーズ・アタック』のトレカを原作にして映画を撮りましたけど、そういうアーティストのパチ怪獣から怪獣映画が作られたらおもしろいですね。河崎実監督とかやらないかな。

真実 ひとつあるんですよ。名古屋のアマプロっていうパチ怪獣を得意とするプロダクションが、パチ怪獣トランプの怪獣を立体化して、自主映画を撮ったことがありました。

──そうだ、パチ怪獣といったら唐沢なをきさんがいましたね。

真実 そうです。唐沢さんはパチ怪獣メンコとか、おもに紙ものを中心に集めてますね。20年くらい前に新宿ロフトプラスワンで「パチ怪獣サミット」というイベントがあって、それはアマプロ主催の喜井竜児さん、唐沢なをきさん、それとカード蒐集家の堤哲哉さんらが始めました。ぼくも客として何回か参加したんですけど、安楽安作さんのソフビもそこで売られていたことがありました。

向かって右が安楽安作さんの「公害怪獣メスカルゴン」、左は逆柱いみりさんの「木乃伊怪獣ファラオス」。どちらもたまらん顔をしています

──安楽さんの作風は存じ上げていないんですが、「ファラオス」はいかにも逆柱さんらしい造形ですね。

真実 2000年代の始め頃から、こういったアンダーグラウンドなアーティストたちの想像力を受け止める場として、ソフビ人形が機能し始めました。新しいオリジナル怪獣を作ろうとする人たちにとって、昔ながらのパチ怪獣との相性が良かったんです。だから、現在のソフビ人形ブームの始まりを、裏原宿で巻き起こったアメトイブームからだという人もいますが、ぼくの感覚だとパチ怪獣ブームから始まった気がするんです。

──裏原系のアメトイブームはぼくも覚えています。KAWS(米国の現代美術家)のベアブリックやコンパニオンといった作品が、MOMA(ニューヨーク近代美術館)に展示されたりしましたね。もはやオモチャとアートの境界がなくなりつつある。だからパチ怪獣ブームとか、裏原系のアメトイブームとか、そういった何系統かのムーブメントが重なって、大きなうねりになっていったんでしょう。

満を持して発売された真実一郎オリジナルソフビ

──そして、ついに真実一郎さんご自身もオリジナル怪獣「アイドロン」のソフビを発売されました。これはどういうきっかけで作ることになったんですか?

真実 元々ぼくはビンテージのパチ怪獣を中心に集めていて、20年ほど前から同好の士というか、クリエイターたちのブログもチェックしていたんですけど、だんだん時代はSNSになり、そういうブログも更新されなくなっていったんですよ。それで、一人で黙々と集める寂しさみたいなものを感じていたときに、たまたまインスタグラムを始めることになりました。

──自分もSNSに行くしかないと。

真実 そこで、だったらここでコレクションを公開してみようと思って、パチ怪獣を紹介していったらものすごい反響がありました。

──インスタグラムの真実さんのアカウント、フォロワーが9570人もいましたよ!

真実 しかも日本より海外からの反響が多くて。これは日本の昔のパチ怪獣とか、駄玩具とか、そういうものにインスパイアされたオモチャにニーズがあるんだと。で、海外のほうに若いクリエイターが増えているのがわかって、なんかそれが嬉しかったし、その輪の中に自分も入りたいなと思ったのが、自作を始めたきっかけですね。

──とはいえ、ソフビって「作りたい」と思ったからって、素人が簡単に作れるものではないですよね?

真実 古くからの知り合いである土井宏明さんというアートディレクターと意気投合して、何もわからないまま一緒にコンセプトとかデザインを考えていって、プロの凄腕の造詣師にお願いして作っていったんです。3人のチームでやってます。

こちらが真実一郎さん作の「スーパー怪獣シリーズ アイドロン」。ブランド名は「PACHIMON TOYS」。いいッスね!

──この「アイドロン」、発表されたときにぼくも見て、すごくいいデザインだなあと思いました。真実さん絵心あるじゃないですか。

真実 いや、やってくれたのは一流のアートディレクターの方で、ぼくは口頭で言うだけ。

──あ、それは一番いいパターンだ(笑)。

真実 やっぱりメタルーナ(映画『宇宙水爆戦』に登場するメタルーナ・ミュータント)のパチモノをやりたいからでっかい脳みそにして、片目にしたのはデザイナーのアイデアで『2001年宇宙の旅』のHAL9000の引用だったり、エイリアン的な要素を入れたりとか。

──そういう作業、すごい楽しそう。怪獣ではなく、エイリアンタイプにしたのはなぜですか?

真実 ロボットとか怪人はともかく、怪獣のデザインを考えるのはやっぱり難しいんですよ。

──そうか、恐竜とも違うし、怪獣の定義ってはっきりしないですね。エイリアンなら、ヒト型という基本形があるから発想しやすいのかも。

真実 怪獣は、昭和のシンプルなパチ怪獣の雰囲気がなかなか出しにくいんです。ヘドラ系のドロドロした造形の作品も多いですが、あれも相当奥が深くて。

──粘土ぐしゃぐしゃ系の。

真実 でも、「ヘドラ3号」だけは超えられないというか、デザインしてるとどうしても下心が出ちゃうんで、ここまで純粋にドロドロの造形はできない。

──たしかに(「ヘドラ3号」をひっくり返しながら)この造形は大胆すぎて常人にはできないですよねー。

どんな怪獣ソフビも手や足くらいは動くのに、「ヘドラ3号」は可動部が一切ない。ただのソフトビニールの塊。どうする、ビールでも注いで飲んじゃうか?

山の地面を掘ると出てくるマジンガーZ

──ご自身のコレクションの中でいちばん好きなのはどれでしょう?

真実 名作とされているこいつ「ザゴラ」でしょうか。あとでわかったことですけど、大協(タイキョー)というメーカーが作った怪獣です。レッドキングのパチモノだと思われて、よく捨てられていたらしいんです(笑)。でも、やがてデザイン的にも造形的にもすごく出来がいいことにみんなが気づき始めて。

──たしかにカッコいいです。

いかにもソフビらしいソフビ。怪獣に詳しくない人が見たら、これも有名怪獣だと思ってしまうはず

真実 それで調べていくと、これは中岡俊哉という人が昔に書いたオリジナルの怪獣本(『世界の怪獣』1967年発行)に載っている「ザゴラ」で、大協がその版権を買って作ったソフビだったということがわかりました。

──テレビや映画には出てないけど、出版物の中での版権キャラだったんですね。

真実 先ほど、「ヘドラン」はガーガメルというアーティストが作ったと言いましたが、そのガーガメルはこの「ザゴラ」をシュッとさせた「ザゴラン」というのも発表していて、それがパチ怪獣クリエイターブームのはしりでもあるんです。それ以来「ザゴラ」も人気が出ちゃって、いまはまず手に入らないです。

──こういうのは、どうやって入手するんですか?

真実 オークションか、まんだらけか、あとはパチ怪獣に強い中古ショップというのがあって、だいたいそういうところをマメにチェックします。

──さすがに、いまは地方のオモチャ屋で当時ものを発掘! みたいなことはもうないですか。

真実 いや、それもたまに起こるみたいです。でも、それもあっという間に高値で市場に流れちゃうから。

──そりゃそうでしょうね。

真実 あと、最近おもしろかったのが、ゴミとしてこういうお宝がドカッと放置されているケースがごくたまにあるんですよ。

──いまでもそんなことありますか!

真実 昔の玩具がゴミとしてまとまって発見されて、ツイッターの画像やYouTube動画で紹介されることが、たまにあるんです。山を探索すると、昔のガラスのジュース瓶とかと一緒にオモチャが埋まっていることがあるらしくて。プラスチックやソフビってなかなか劣化しないから、けっこう原形を留めてるんですよ。昔のマジンガーZのビニール人形なんかが出てきて、洗うとちゃんと綺麗になるそうです。

──すごい! 山を掘るって、ここ掘れワンワンじゃないんだから(笑)。

真実 プラスチックゴミが劣化しないのは環境的には問題ですけど、コレクターにとっては夢がある話でしょ。

──真実さんご自身、変わった入手経路のコレクションはありますか?

真実 今日は持ってきてないんですけど、学生時代、鎌倉かなんかに海水浴に行ったとき、砂浜を掘ってたら出てきましたよ、ポピーのゾフィーが。それを洗って、いまでも大切にしてます。

──やっぱり出てくるんだ!ぼくも掘ろう(笑)。

アジア圏のパチモノはあって当たり前なので手を出さない

──アーティストの作品とは別に、海外にも純粋(?)なパチ怪獣がありますよね。以前、椹木野衣さん(美術評論家)からマレーシアのお土産にパチ怪獣をもらったという話を、ブログに書かれていたのを読みました。

真実 そう、今日はそれも持ってこようと思ったんですけど、ものが小さいからちょっと見つからなくて。

──椹木さんとはどういうつながりなんでしょう。怪獣つながり?

真実 たまたま子供の保育園が一緒で、それで知り合ってお家に遊びにいかせてもらったりしたことがあります。

──まさかのPTAつながり(笑)。

真実 それで、ぼくがパチ怪獣好きなのを知っていて、見つけてきてくださったんです。

──そんな入手経路もあったかー。『いんちきおもちゃ大図鑑』なんて本もあるくらいだから、アジア圏はそういうものの宝庫だと思います。そこまで視野を広げていくと、もう把握しきれないですね。

真実 アジアのパチモノはキリがないというか、あって当たり前のものなので、なるべく手を出さないようにしてます。ぼくはあくまでも、60~70年代の日本の、怪獣ブームの熱を持ったものを中心にして、なおかつそこから派生したものという感じですかね。

──あ、これはレッドキング?

真実 ポリのレッドキングのパチモノです。

──ポリというのは?

真実 材質がポリエチレンなんです。本家レッドキングのパチモノなんですけど、ソフトビニールよりもポリエチレンの方が低価格で作ることができるということで、パチモノではこういうポリ製が多く存在するんですけど、これがまあソフビニよりさらに素材としての安定性が抜群で、劣化しないから自然環境の中に捨ててはいけないという。

薄くても強度が出せる素材のため、持ってみるとポリ製の人形はとても軽い。現代のマニアはともかく、当時の少年ファンにとっては怪獣の重量感も必要な要素だから、軽くてがっかりしたかもね

真実 軽いうえにモールドも甘くて、いかにも偽物って感じがします。

──塗装も雑だし、バリも出てる。でも、そこがいいわけですよね(笑)。

ヤバい胸のイニシャルと、ヤバい亀の笑顔

真実 これはマジンガーZのパチモノで「サンダーZ」っていいます。

──そうそう、怪獣やエイリアンだけでなく、ヒーローにもパチモノってあるのか知りたかったんです。

真実 わかりやすく胸に「Z」と書いてあります。

──書くにしても、そんなにデカくしなくてもいいのに(笑)。

真実 いまは「Z」の文字って、取り扱いに注意が必要ですよね。

──たしかに! ちょっと笑い話にはしにくいです。ちなみに、隣にあるスケスケのやつも「サンダーZ」さん?

真実 そうです。ちょうど変身サイボーグが流行ってから、クリアボディのソフビも作られるようになって、パチモノまでその影響を受けてるんです。いちおう、お腹の中に何らかのメカと骨格が見えます。

──骨格といったって、手芸用の針金モールじゃないですか。赤いから動脈かと思った(笑)。

マジンガーZというよりも、グレートマジンガーと、グレンダイザーと、あとカラーリング的にはアニメ版のデビルマンも混ざっている気がします

真実 マジンガーZは海外でも人気が高く、パチモノも含めて外人さんには根強い人気で、集めてる人が多いです。

──何より永井豪先生が海外でも非常に評価の高い作家ですからね。

取材前に真実一郎さんのブログをチェックしていたときに衝撃を受けた、ガメラもどき。本名不詳

──このガメラが薄笑いしてるやつも素晴らしいですよねえ。あまりにもイイ顔すぎるので、ぜひ現物を見せていただきたかったんです!

真実 これはいまでも謎が多いシリーズで、ベースはたしかにガメラなんですけど、顔が明らかに『恐竜家族』っていうアメリカのドラマの恐竜の顔なんですよ。アメリカでは「Super Dino Monsters」っていうシリーズのひとつとして売られたっぽいんですが、日本で販売された痕跡はあまりないです。

──この半端にリアルな造形は、日本製品とは明らかに違うものですよね。ETとかのそれに近い。

真実 アメリカにも資料がほとんど残ってないみたいで、向こうのコレクターも呼び名に困ってるという(笑)。

若い世代の参入で怪獣ソフビの視界がひらけた

──他にお気に入りのやつがあれば見せてください。

真実 ドン、ドン!(と、けっこう重量感のある2体をテーブルに置く)。これは見ての通りキングコングなんですけど、1976年に映画『キングコング』が日本で公開されたときのもので。

──1976年ならジョン・ギラーミン版ですね。

真実 そう、日本にキングコングブームが巻き起こったときに、これより二回り小さいサイズで無版権のキングコングのパチモノが売られてたんですね。それは正規品よりもはるかに素晴らしい出来で、いまでも語り継がれる名作なんですけど、実はそれの原型を作った人の息子さんがいま造形師になっていて、お父様の怪獣をスタンダードサイズでリバイバルしたというのが、この「ゴリラ獣」なんです。

──ごりらじゅう! いい響きっ!

右側に立つのがゴリラ獣。手に握っているのは、残念ながらジェシカ・ラングではない。その隣は入手困難レベル最高ランクの「ブルータルA(エース)」

真実 このゴリラ獣を作ったH×Sさんは、ゴリラ獣からキャリアをスタートさせて、メカゴリラ獣とか、造形力とデザイン力の素晴らしさで世界的に評価が高く、大人気です。彼の作品はサザビーズとかで、何百万円もの価格で取引されたりすることもあるそうです。

──ありゃー。もはや現代アートですね。

真実 そんな彼の最近の作品が、この「ブルータルA」なんですけど、昔のロボットデザインを現代の造形力とセンスで立体化していて、とにかく素晴らしいです。半透明の黒い外骨格の中にメカや骨組みが入っているのは、タカラのアンドロイドAっていう、変身サイボーグの続編のオモチャがあったんですが、それへのオマージュなのだと思います。

──いや~、ソフビの世界もここまでエライことになってるとは思いませんでした。

真実 去年ぼくは運よく彼の個展の入場抽選に当たっって、個展を見ることができました。その場で抽選くじが行われて、これにも運よく当たって、欲しかったこのブルータルAをやっとのことで買うことができました。値段は……言わないでおきます。

──うん、ぼくも怖いので聞かないです(笑)。あのー、真実一郎さんはご家族がいるでしょ? どの程度この趣味について理解されているのでしょう。とくに奥様は。

真実 基本は見守ってくれていますよ。

──ソフビって、素人が思っているより実際はもっと高いものじゃないですか。そのことも奥様はご存知なんですか?

真実 はい。ただ、「いまソフビという文化が世界的に広がっていて、市場としての可能性もあって、自分はこの世界が大好きだし同志も増えている」みたいなこともちゃんと伝えています。

──ああ、そこまでちゃんと言い切れるコレクターは少ないと思います。

真実 数少ない日本のマニアの中でパチ怪獣のビンテージソフビを集めていた頃って、仲間も増えないし、それは先細りだなと思っていたんですが、いつのまにか海外に可能性がすごく広がっていて、とくに自分より若い人たちが魅力を感じてくれていることを知って、すごく視界がひらけた感じがして嬉しかったんです。やがて、人生の終わりが近づいてきても、そのときは終活としてこれまで集めてきたものを若い世代に受け継いでもらえれば、それなりの財産も残せるかもしれないな、と。

──素晴らしいですね。ある意味、コレクターとして理想の姿を見た思いです。

(取材後記)
怪獣には詳しくないくせに怪獣ソフビだけは昔から興味があって、「集めちまえ!」という悪魔と「やめときなさいよ」という天使が心の中で言い争ってきた。まあ、ぼくの場合は本とレコードだけですでに部屋が飽和状態なので、一線を越えることはないと思う。今回、真実一郎さんのお話を聞かせてもらって、なおさら「相当の覚悟」がなければ飛び込んではいけない世界であることを知り、荒くなりかけた鼻息は収まった。宝くじでも買いに行くかー!

(この連載は、毎月第1金曜日の更新となります。次回は7月1日の予定です。どうぞお楽しみに!)

  • 取材・執筆とみさわ昭仁

    コレクションに取り憑かれる人々の生態を研究し続ける、自称プロコレクター。『底抜け!大リーグカードの世界』(彩流社)、『人喰い映画祭』(辰巳出版)、『無限の本棚』(筑摩書房)、『レコード越しの戦後史』(P-VINE)など、著書もコレクションにまつわるものばかり。最新刊は、自身とゲームとの関わりを振り返った『勇者と戦車とモンスター 1978~2018☆ぼくのゲーム40年史』(駒草出版)。

  • 撮影村田克己

Photo Gallery18

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事