<figure id="attachment_246405" aria-describedby="caption-attachment-246405" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2d6c47fd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/9af7b089ffcef460eaff6d253c87c2d0.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246405" class="wp-caption-text">飼育を担当する象にリンゴをあげるビクトリアさん。「警報が鳴ると象は落ち着きがなくなります」</figcaption></figure>
「どうした？　食べたくないのか？」
園長のクリロさん（49）が語りかけると、「ジャンボ」という名のキリンが小窓から大きな顔をのそっと出し、差し出されたバナナにパクついた。18歳のオスだ。
「ジャンボは特に戦争による影響はありませんでした。この小屋は壁が厚いので、空襲警報はあまり聞こえません。ですが、他の動物たちは……」
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４月下旬の「キーウ動物園」内は、戦争で閉園中のため、閑散としていた。１９０７年にオープンし、現在飼育している動物は約200種類、４０００頭を数え、ウクライナで最大規模だ。
閉園したのは、ロシア軍による全面侵攻が始まった2月24日。避難民が相次いだ影響で従業員数は350人から一時期、30人まで減った。それでも園長たちは、取り残された動物の飼育を続けた。
「普段はやらない仕事が増え、睡眠時間を削って泊まり込みで働きました。夜中に空襲警報が鳴り、どうしてここにいるのかと我に返ったこともあります」（園長）
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飼育員たちは、園内にある施設の地下で避難生活を続け、毛布や重ね着で寒さを凌（しの）いだ。ミサイルが上空を飛び、砲撃の破片が園内に落下した事もあったが、動物に危害はなかった。
入園料（一人当たり120フリヴニャ＝約520円）による収益も無くなったため、オンラインのチケット販売を開始し、それを動物のエサ代などに充てた。
「戦闘が激しい地域の動物園から避難してきた猿、トラ、ペリカンなどの動物約140頭もここで面倒をみています」（園長）
キーウ動物園で働き始めて11年になるという飼育員、ビクトリアさん（45）は、象の担当だ。戦争が勃発し、民間人で組織される地域防衛隊への参加を考えていたところ、園長からこう伝えられた。
「銃を使える人間はたくさんいるが、象とコミュニケーションが取れるのはあなたしかいない」
ビクトリアさんは思いとどまった。
「ホラス」という名の象は17歳のオスで、10年前にベルリン動物園から移送されてきた。以来の飼育経験から、ビクトリアさんはホラスの僅（わず）かな異変にも気づく。空襲警報が鳴ると、普段より動き回り、落ち着かなくなった。そんな時はホラスに寄り添い、「私はここにいるから大丈夫だよ」「ウクライナは絶対に勝つからね！」と語り掛けた。側にいるため、ホラスの寝室と同じ施設内で生活を始めた。部屋は４畳半ほど。ビクトリアさんの息子（14）も一緒に、１ヵ月暮らした。
「シャワーやトイレもあるので、そこまで悪い環境ではありません。ただ、息子は慣れない生活に少しストレスを抱えていたので、新品のノートパソコンを買ってあげました。部屋からオンラインで学校の授業を受けていましたね」
戦火の中でヤギ16頭の出産に立ち会ったヴァレリアさん（23）はこう漏らす。
「出産は特に問題ありませんでしたが、糞の処理が大変でした。戦争の影響で処理業者が回収に来る回数が激減し、いつもより片付ける糞の量が多くなりました」
エンジニア部門を担当するボラディミールさん（48）は、カメのエサであるレタスの調達が戦争で困難になったため、園内での栽培を始めた。その部屋へ案内されると、蛍光灯に照らされたレタスが、青々と育っていた。
「りんごやバナナは長期間保管できますが、レタスはすぐに悪くなる。だから自分たちで栽培する必要がありました」
動物の命を守るため、危険と隣り合わせの環境で奮闘した飼育員たち――。閉園から２ヵ月半経った５月12日、営業が再開した。園長が安堵の思いを口にした。
「集客率はいまのところ戦争前の70％ですが、やっとです」
キーウの日常がまた一つ、戻り始めた。
<figure id="attachment_246400" aria-describedby="caption-attachment-246400" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4331ff53"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/712cd3037aebfe0262837667c1c3d0d7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246400" class="wp-caption-text">ウクライナで最大のキーウ動物園は100年超の歴史を誇る。閉園中の４月下旬、正門前は閑散としていた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246401" aria-describedby="caption-attachment-246401" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7380a218"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/5f83ceeee0fa7ec5f6bcbf8d069a2bfb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246401" class="wp-caption-text">カメのエサとなるレタスの栽培を始めたボラディミールさん。園で避難生活を送る従業員の料理も担当した</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246402" aria-describedby="caption-attachment-246402" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e08adfc8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/db3ed8b53496519deac8957141bfe758.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246402" class="wp-caption-text">キリンにバナナをあげる園長のクリロさん。「閉園中は仕事が多く、睡眠時間が１時間の日もありました」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246404" aria-describedby="caption-attachment-246404" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5d9cdd9c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/dd55476104560f338f07daa2f1d1e5ac.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246404" class="wp-caption-text">16頭のヤギ出産に立ち会ったヴァレリアさん。「糞の処理業者が来る回数が減ったので大変でした」と語った</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246399" aria-describedby="caption-attachment-246399" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4fc05f38"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/f88f5b17a30910daaddbd71b77a5b624.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246399" class="wp-caption-text">３月３日に生まれたキツネザル。「体が弱く、母親に見放されたため、私たちが親代わりなんです」（園長）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246403" aria-describedby="caption-attachment-246403" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3b8d7711"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/bc958d542c9128207ad753d39b93eed7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246403" class="wp-caption-text">キーウ動物園で最も人気のあるゴリラの「トニー」。47歳。昨年、手術をしたが、元気に動き回っていた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246397" aria-describedby="caption-attachment-246397" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d7b75e5f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/DSC_0168.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246397" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　戦火の「キーウ動物園」物語</figcaption></figure>
<figure id="attachment_246398" aria-describedby="caption-attachment-246398" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="708df1bd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/05/DSC_9681.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-246398" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　戦火の「キーウ動物園」物語</figcaption></figure>
『FRIDAY』2022年6月10日号より

水谷竹秀

ロシア軍がキーウ周辺へ侵攻した際も「キーウ動物園」に残された動物たちの飼育のため、園内にとどまった従業員たちがいる。危険と隣り合わせの環境での彼らの奮闘をたくさん語ってもらった――。

【ルポ】エサがない、動物に異変…戦火の「キーウ動物園」物語

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