国を待たず前例に沿わず…明石市が「日本一の市」になった必然理由
ツイッターで「事実」を伝え続ける。泉房穂市長の「優しい街」の作り方
「ツイッター、おもろいですよ。なにって、事実を伝えることができる。始めて半年ほどですが、ほとんど毎日、投稿しています。
市長として、市民に対する説明責任があります。広報では、スピード感など限界がありますけれども、ツイッターなら、毎日いつでも伝えられる。これは本当によいツールだと思います」
こう元気に話してくれたのは、兵庫県明石市の市長、泉房穂さんだ。

「少子化が問題になっています。けど、明石市は子どもさん、増えてるんですよ。9年連続で人口が増えていて、30万人を突破しました。『中核市・人口増加率』全国1位ですわ。子育て施策を、ずっと、がんばってきた。おかげさまで、子育て世代の人口がどんどん増えて、ともなって税収も増えて、街に活気があるんです。人口が増えてにぎやかになって、お年寄りにとっても暮らしやすい環境ができて、ほんま、好循環なんです」
そんな、夢のような話がつぎつぎと飛び出してくる。市長になって12年。トラブルもあった。責任をとって辞任、という「事件」もあった。けれども「市民に支えられて」明石市は全国が「お手本」にする成功例になった。
「誰にとっても優しい」の原点
「自分のルーツというか、原点は、差別への抵抗です。誰にとっても優しい街をつくりたい、それが、わたしの願いです。4歳下の弟に障害があって、学校に上がるとき、ずいぶんと理不尽を感じたんです」
聞けば、その悔しさは半端ではなかったことがうかがえる。けれども、泉市長の表情はどこまでも明るい。
「子どもも、お年寄りも、認知症になっても、経済的に苦しくなっても、それをサポートして生きやすい環境を提供する。それが、市の役割ですから。
そのために、予算の振り分けやら市の職員の配置やら、臨機応変に対応していく。その積み重ねが今の明石市を作っています。反対する人もいたし、誤解もあった。マスコミに誤ったことを伝えられたころもありました。
でも、今、明石市の取り組みを評価してくれる人が増えました。この取り組みに注目が集まって、子ども庁のことで国会で話す機会ももらえた。
いち地方の施策が、国へ広がっていってます。歯を食いしばってやってきた甲斐がありました」
明石市では、高校3年生まで医療費が無料だ。第2子以降の保育料も無料。中学の給食費は無償だし、1歳までの赤ちゃんには、おむつが無料で届けられる。
「そんなことをしたら、財政が破綻するのでは、ときかれます。けど、大丈夫なんです。子どもを支援することで人口が増えて、税収が、8年で32億円増えています。同時に公共事業などの使い道を見直すことで、健全な財政が運営できています」
「誰一人置き去りにしない」ために、動く
岸田政権は5月31日に発表した経済政策で、「誰一人取り残さない」と謳った。が、「どうやって」には、至っていなかった。一方で、明石市の「誰一人置き去りにしない」は具体的で、すでに着々と実現しているという。そしてその「誰一人」の発想は、犯罪を犯した人にも向けられている。
「罪を犯した人が、刑務所から出てきたとき、居場所がなかったら? また、同じことをしてしまうかもしれない。だから、刑期を終えたとき『おかえりなさい』と迎えられる街を目指しています。どんな人にも居場所があって、安心して過ごせる街を作りたい。もちろん、犯罪被害者への支援も大切です。両輪なんです。つまりね、被害者を生まないためには、加害者を作らないことが一番なんです」
泉市長の話は、明快だ。
地方から国へ。全国に広げたい
「でもね、誤解されることも多かったんです。一方的に批判されることも。それが今、ツイッターを通じて、思いや事実を伝えられる。これは自分を守るツールにもなっています」
毎日、市政について、市民について、政治について投稿する。それは、呟きというにはちょっと大きな声になっている。現在、フォロワーは17万人ほどになった。
「耳に痛い意見が届くこともあります。なるべく丁寧に返して、理解してもらうように努めます。あるいは、僕のほうが考えを改めることもあります」
「市議会はオール野党」と笑う泉市長。先日は、ある企業の課税についての投稿をした件で「追及」された。川崎重工の法人課税額が記載された書類の写真を投稿。「法人税割が5年連続で0」に対し「ゼロってなんだかなあ」と呟いたのだ。
「指摘を受けて、投稿は削除しました。市民の知る権利のために、企業との協議内容を市民に伝えたい、と考えたのですが。
この、5年連続『税割ゼロ』については、企業と市で面談をしています。その流れを市民に公開するのは、行政の透明化に必要だと。『適切』ではなかったが、公益性を考えれば、違法ではないと思います」
弁護士出身でもある泉市長はこういって、少し沈んだ顔を見せた。けれども、
「やらなあかんことがたくさんあるんです。明石で成功した取り組みを、近隣の市町村、県、国へと広げていきたい。おかげさまであちこちの自治体から参考に、と声がかかったり、国会など国政の場でも発言の機会が多くなりました。それでもまだまだ、言いたいことがたくさんあるんです。だから、ツイッターを使うんです。
あとね、ツイッターは楽しみでもあるんです。自分の過去を振り返ったりすることも」
愛犬シェリーとの散歩のようすが上がることもある。「人としての楽しみ」なんだという。
「まちづくりって、国からの指示じゃなく、自治体からのニーズでやるべき。国が決めたことに、横並びで従うんじゃなく、これまで通りなんていう前例にとらわれず臨機応変にやりたい。
ツイッターやYoutubeで発信できるようになったことで、明石の取り組みが全国に広がったら幸せです。
だってね、だれにとっても優しい街を作って、損する人はいないんですよ。その事実を、伝えていきたい。明石、いいところですよ、明石焼きごちそうしますから(笑)。ぜひきてください」
市庁舎からの眺めも最高という明石市、ぜひ一度、行ってみたい。