株主が創業家を告発!エレベーター大手の株主総会に大荒れの予感
国内エレベーター大手『フジテック』の創業家を株主である香港系ファンドが告発
東京都港区の一等地に建つ超高級マンション。地元商店街を抜け坂道を登った先、最寄駅から徒歩5分程度の好立地にある。バブル時代を彷彿とさせる赤レンガタイル張りの重厚感のある造りだ。各国の大使館も多いため、関係者と思しき外国人の姿も目立つ。
この高級マンションが、ある企業の株主総会を揺るがす「爆弾」になるのではないかと注目を集めている。
その企業とは東証プライム(旧東証一部)上場のエレベーター・エスカレーター大手の『フジテック』。先月から香港系ファンドの『オアシス・マネジメント』が「定時株主総会で内山社長に反対票を投じ、フジテックを守りましょう」と呼びかける特設サイトを立ち上げるなど、フジテックの内山高一社長の取締役退任キャンペーンを展開しており、話題になっている。
オアシスは現在フジテック株の約9.7%を保有する大株主で、このサイトで冒頭に紹介した超高級マンションが、内山社長ら創業家により私的に利用されてきたと主張している。
オアシスのサイトにアップされたプレゼン資料で告発されているのは次のような内容だ。
フジテックはこの港区のマンションの1室を’13年2月に取得した。426.44㎡の広さを持ち、月の賃料は約250万円、現在の市場価格は7億円以上と推計される。フジテックが取得してから半年後、内山社長の妻がこのマンションの所在地を自らの住所地として登記簿に記載。フジテックに勤務する内山社長の息子も’15年7月に自ら保有する一家の資産管理会社の法人登記簿上の自身の住所としてこのマンションの所在地を記載した。その後、’21年6月にフジテックから息子の資産管理会社にマンションが売却された。
オアシスがこのマンションについてフジテック側に質問したところ、「首都圏での当社ステータス向上に向けたトップセールス強化を目的に、社用迎賓施設及び役員社宅として運用していた」との返答があったが、妻や息子が住所として登記簿に記載したことについてはまったく説明がなかったという。
オアシスは、妻がフジテック社員ではないこと、そして息子も役員でもない若手社員であり、マンションから公共交通で90分もかかる千葉の支店長として働いていた時期も住所としていたことから、フジテック側の説明に合理性が乏しいと主張している。
さらに、妻と息子がマンションを私的に利用していた場合、フジテックに対して年間約3000万円と推定される超高額の賃料の支払いが必要だが、会社法で必要とされる有価証券報告書に記載がないと指摘。’21年にこのマンションがフジテックから息子の資産管理会社に売却された際に市場価格より割安で売却された疑惑もあるという。
オアシスはこのマンションのほかにも、内山社長が兵庫県の自宅の掃除にフジテックの社員を私的に利用した疑惑も独自調査に基づき写真入りで告発している。
フジテックはこのオアシスのキャンペーンが始まった直後、「全く当たらない又は事実誤認に基づく主張」であり、問題視される取引についても「いずれも所定の法令・手続等に従ってなされた適法かつ適切な取引及び行為であり、企業統治上も問題はない」と全否定するプレスリリースを発表し、全面的に争う姿勢を示している。
今回のオアシスのキャンペーンについて、ある証券関係者はこう分析する。
「オアシスのようなアクティビストが『もの言う株主』として経営陣を批判したり問題点を指摘したりするということは珍しくないのですが、今回はネットでの世論形成を意識したところが斬新でインパクトがあると言えます。
これまでは新聞やテレビといったオールドメディア向けの記者会見を開くなどして世論に訴えるやり方が普通でしたが、オアシスは今回、特設サイトを開いて独自調査に基づいたプレゼン資料をアップし、TwitterなどのSNSで拡散しやすくしています。
もちろん、アクティビストですから基本的には株主に内山社長の再任反対に同意してもらいたいわけですが、ネット民が『社員に自宅の掃除をさせるなんて、まるで使用人みたい』『職権濫用してこんなにいいマンションに住んでいてけしからん』などと騒いで世論が高まれば、株主としても無視しにくくなる。
フジテック側は告発内容を否定するリリースを出していますが、これほど詳細な内容だと他の株主も無視はできないはず。株主総会は紛糾すると予想されます」
フジテックは東証プライム市場の上場企業であり、多くの株主の支持によって成り立っている。6月23日のフジテックの株主総会は波乱を呼びそうだ。
取材・文/戎岡雄二・フリージャーナリスト
取材・文:戎岡雄二