従業員死亡でワンオペ廃止…問題続出でも「すき家」業績好調の理由
58歳の女性従業員が厨房で倒れたのは、早朝5時半ごろだった。他にスタッフがいなかったため、3時間ほど放置。朝9時前に出勤した次のシフト担当者が気づき、スグに病院へ搬送したが死亡が確認された。死因は心筋梗塞だった――。
牛丼チェーン「すき家」で起きた、衝撃の事件が判明したのは6月2日だ。女性が亡くなったのは今年1月で、名古屋市内の店舗で勤務中でのトラブル。1人で店を切り盛りする「ワンオペ(ワンマン・オペレーション)」だった。
「『すき家』は人件費を抑え利益率を上げるため、『ワンオペ』を採用しています。食材の注文、料理、配膳、会計、清掃などの業務を1人でこなさなければなりません。今回の亡くなった女性のように安全面だけでなく、過剰労働や防犯など多くの問題がある。『すき家』は本部への緊急連絡用として『ワイヤレス非常ボタン』を従業員に支給していますが、亡くなった女性は携帯していなかったそうです」(全国紙経済部記者)
「すき家」は、14年に「ワンオペ」が問題視されたことから、深夜0時から早朝5時は複数の従業員での業務を徹底していた。今回の女性従業員の死亡を受け、6月末までに朝5時以降も複数体制にすることを決定。「ワンオペ」は廃止されることになる。
営業利益は2.7倍に
トラブル続きの「すき家」だが、業績は絶好調だ。「すき家」を展開する、ゼンショーホールディングスの22年3月期の営業利益は約92億円。23年3月期は、2.7倍の250億円のプラスとなる見通しなのだ。
快進撃の要因はなんだろう。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が語る。
「まず考えられるのが立地条件です。ライバルの『吉野家』や『松屋』は、都心で働く会社員を念頭に多くの店舗が繁華街にあります。一方『すき家』は、ファミリー向けに郊外で展開する傾向にある。新型コロナウイルス感染拡大のため自宅で仕事をする人が多くなり、郊外での需要が高まっているのが好調の一因でしょう。わざわざ都心に出向かず、自宅近くで家族と食事しようと考える人が増えているんです」
豊富なメニューも、良い流れを後押ししているという。松崎氏が続ける。
「『吉野家』や『松屋』の利用者は30代40代の男性が中心で、注文の多くが牛丼です。若い女性客を取りこむための企業努力をしていますが、なかなか効果が出ていません。
『すき家』のメインターゲットは、年齢層がバラバラのファミリーです。さまざまな人を対象にするため、料理のバラエティが豊富。牛丼だけでなく『ほろほろチキンカレー』や『うな丼』など選択肢が多いだけでなく、『お子様とりそぼろ丼すきすきセット』など、子ども向けのメニューが充実しています。『なめらかカラメルぷりん』などのデザートが用意されているのも、女性には嬉しいでしょう」
多くの問題を抱えながらも好調を維持する「すき家」。今後は利用者へのサービス向上だけでなく、その利益を従業員の労働環境の改善にも投じなければならないことはいうまでもない。
撮影:山崎高資