日テレの朝ドラ『生田家の朝』の狙いは日本のシットコム市場!?

指南役のエンタメのミカタ 第4回

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主題歌と企画プロデュースは福山雅治、脚本はバカリズムが担当

先の11月20日、日テレの開局65周年を受けての初の試み――朝ドラ『生田家の朝』の公式発表がリリースされた際、僕は率直にこう思った。

「ははーん、さては今年、連ドラで1つも平均2桁を出していない日テレが、いよいよ視聴率好調のNHK朝ドラのマネを始めるワケね」

そう、日テレは今年、連ドラが絶望的に不振なのだ。例年なら、水曜10時のドラマが2本くらいハネるところ、今年は『anone』、『正義のセ』、『高嶺の花』、そして『獣になれない私たち』と、4クール連続で平均一桁視聴率。唯一、今クールの日曜ドラマ『今日から俺は!!』が若い人たちの間でバズってる(今や女子高生はみんなTikTokで同ドラマの主題歌「男の勲章」を踊ってる)くらいだ。

一方、NHKの朝ドラはずっと絶好調である。民放の連ドラが二桁の壁に苦しんでる横で、20%台を軽々とクリア。ほとんど評判が聞こえてこなかった前々作の『わろてんか』も、北川悦吏子先生が終始Twitterで暴走気味だった前作『半分、青い。』も、主題歌を除けば比較的評判のいい今作の『まんぷく』も――いずれも平均20%台をキープ。作品毎に多少のムラがあっても、それを飲み込んでアベレージを保てるのは、長年に渡る朝ドラの“習慣視聴”の賜物である。いよいよ日テレも、そんなNHKの真似を始めるのか、と僕は思った。

実際、ドラマの制作にあたり、日テレはかなり力が入っていた。企画プロデュースと主題歌は福山雅治で、脚本が向田邦子賞を受賞したばかりのバカリズム(シャレじゃないよ)。主演がユースケ・サンタマリアで、妻役に尾野真千子。普通にプライムタイムの連ドラで勝負できる座組である。加えて放送枠は、朝の情報番組『ZIP!』内の「MOCO’Sキッチン」のコーナーを流用。なんでも同コーナーの一時休止を事前に告知しなかったそうで、突然、朝ドラが始まり、面食らった視聴者も多かったとか。

多分、日テレの確信犯ですね。既に視聴習慣が根付いている同コーナーのお客さんをそのまま頂いちゃおうと謀った次第。でも、それはフェアじゃない。そもそも習慣視聴とは奇策で得られるものではなく、作り手とお茶の間の長年の信頼関係で成り立つものだから。

何はともあれ――12月10日朝7時52分、記念すべき日テレの朝ドラ『生田家の朝』の初回放送が始まった。起床するユースケのモノローグから物語は始まる。曰く、1年前に念願のマイホームを手に入れたらしい。そして主題歌が流れ、一家4人が登場して、平凡な朝の風景が描かれる。結論から言うと、それはNHKの朝ドラとは別ものだった。第一、ドラマの舞台は、家族が集うリビングのコタツの1シチュエーションのみ。話はコメディ仕立てで、出演者は一家4人に限定され、1話あたりの尺はわずか7分間。初回だけかと思ったら、翌日も似たような流れで、翌々日も、4日目も5日目も――基本的な構造は同じだった。毎回、コタツで家族に関するあるあるネタが披露され、ひと悶着あり、オチがつく。ネタは「ダイニングテーブル使っていない問題」だったり、「増え続ける納豆の辛子のストック問題」だったり、要はバカリズムさんのフリップネタだ。NHKの朝ドラが時に戦争をも乗り越える勇気ある女性の一代記としたら、こちらは他愛もないネタで盛り上がる家族の一話完結のコメディ――要するにシットコムだ。

そう、シットコム。シチュエーション・コメディ。日本ではちょっと馴染みが薄いけど、アメリカではドラマとは別に、30分尺のシットコムの市場が確立され、作品も多い。ほら、観客の笑い声が劇中にはいるあの類いだ。エミー賞でも、シットコムはドラマ部門と切り離されて表彰される。古くは、『奥様は魔女』がシットコムだったし、近年では『フレンズ』が一世を風靡した。この10年ほどは、『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』が最高に面白い。ただ、どういうワケか、日本ではシットコムが生まれにくいし、根付かない。せいぜい、三谷幸喜サンの出世作になったフジテレビの『やっぱり猫が好き』あたりが思い出される程度。それも30年近く前の話だ。

シットコム不毛の地、ニッポン。じゃあ、日本人はコメディのセンスがないのか?と外国から問われかねないが、一説には、日本はお笑い芸人のコントのレベルが異常に高く、それがシットコム市場の代わりを果たしているとする説もある。確かに、サンドウィッチマンのコントなんてめちゃくちゃ面白いし、レベルが高い。

これは僕の推測だけど――もしかしたら日テレが狙っている市場は、NHKの朝ドラなんかじゃなくて、シットコム市場じゃないだろうか。シットコム不毛の地・ニッポンにおいて、新しいマーケットを開拓する――。そう考えると、脚本にバカリズムさんを起用したのも繋がってくる。日本はお笑い芸人のコントのレベルが高いので、彼らの才能をシットコムに生かしてもらうのだ。7分間という中途半端な尺も、よく考えたら朝ドラの半分であり、アメリカでは60分のドラマに対してシットコムは半分の30分なので、これも理に適っている。足りないのは観客の笑い声だが、それもおいおい足していこう。

日テレさん、マジでシットコム市場、作ってくれませんかね。Huluは、そういう時に使うのです。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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