花巻東・佐々木麟太郎 もがく「怪物」の現在地
無安打に終わった無念のセンバツから2ヵ月あまり―― 春の岩手県大会は圧勝で制すも、本人は満足せず 課題は「インコース高めの速球」
春の岩手県大会を制した花巻東高校の佐々木麟太郎(りんたろう)(17)は、準々決勝・盛岡第四高校戦で逆方向となる左翼席に一発を放った。試合後の取材で、通算本塁打数を訊(たず)ねられた佐々木はこう答えた。
「本日のホームランで、67本です。あくまで、ヒットの延長線上にホームランがある。スタンドに入ったということは、得点に絡んだということで良かったし、ライトからレフトに吹く風だったので、風に逆らわず、自分の力に逆らわず、自分らしいバッティングができたと思う」
昨年12月、肩や腕にしびれや痛みが生じる胸郭出口症候群(血管の障害)に悩まされてきた佐々木は両肩を手術した。だが半年が経過しても状態は上がらないと、素直に告白した。
「腕周り、肩周りの動きが良くない。スイング時に一番影響する部分で、センバツ後も苦労しています。身体と相談しながら、打つこと以外の部分でもカバーしつつ、やっているつもりです」
今春のセンバツ開幕を前に、私はある仮説を立てていた。怪物スラッガーとして注目を集め続ける佐々木だが、135キロを超える内角高めの直球を打てないのではないか――と。そう思うに至った試合は昨秋の東北大会準々決勝・仙台育英戦だった。左の好投手を相手に、初回の第1打席は空振り三振。結果的に4打数2安打を放ちチームの勝利に貢献したとはいえ、インコースへの130キロ前後の直球にまるでタイミングが合っていなかった。
緩いボールを適確にミートする力とパワーはさすがだが、真価が問われるのは全国レベルの球質のボールをどれほど打ち返せるか、だ。
そして、爆発が期待されたセンバツ初戦で、一敗地にまみれてしまう。ドラフト候補でもある市立和歌山のエース右腕・米田天翼(つばさ)は、初回から厳しくしつこく佐々木の内角に140キロのボールを集め、130キロ台の変化球で低めを突いた。
最終打席は2点をリードされた9回、二死一塁の場面だった。佐々木は内角のボールを右ヒジに受け、一塁に出塁する。避けようと思えば避けられるボールだったかもしれない。わざとボールに当たりにいったわけではないだろうが、相手校からしたら死球で歩かれるよりも、ボールを避けてそのまま打席に立たれたほうが脅威だったはずだ。結果的に佐々木は4打数無安打(2三振)に終わった。
あれから約2ヵ月あまり。春の岩手県大会では、打撃フォームに変化があった。右膝を上げてタイミングを計る時の重心がセンバツの頃より低くなり、バットをコンパクトに振り出していく。そこからは、バリー・ボンズを参考にしたアッパースイングだ。
インコースの強いボールを弾き返すことを想定したスイング改造ではないか――。そう問うと、佐々木はしばらく考えて、こう語った。
「そうですね。ただ、インコースを捌(さば)くということにこだわり過ぎないようにしています。(センバツで)攻められたからこそ、つい意識が内角にいってしまうんですけど、考え過ぎないということを一番に考えています」
今後、清宮幸太郎(23・北海道日本ハム)が早稲田実業時代に記録した111本の高校通算本塁打に近づくにつれ、佐々木に期待する声はより熱を帯びていく。
「記録で騒いでいただいて、野球ファンの皆さんには本当に期待をかけていただいてありがたいですが、それでもやっぱり自分は記録にこだわらず、チームの勝利に貢献したいです」
高校2年の春が終わり、佐々木の高校野球生活も折り返しを迎えた。もがく現在地からの脱却を遂げて欲しい。


『FRIDAY』2022年6月17日号より
取材・文:柳川悠二
ノンフィクションライター
写真:柳川悠二(2~3枚目)