「国によるパワハラ」3年に1度失職するハローワーク職員の憂うつ | FRIDAYデジタル

「国によるパワハラ」3年に1度失職するハローワーク職員の憂うつ

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公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)は5月2日から全国の公務現場で働く非正規職員に対して行ったアンケートを、6月4日に終了した。今月末に結果が集計される。昨年に続いて2度目の調査では、715件の回答があった。はむねっとは、7月の参議院選挙に向けて非正規公務従事者の仕事と生活の安定を求めている。

コロナ禍で失業状態が長期化する中で、ハローワーク(公共職業安定所)は利用者の生活不安の声に耳を傾けつつ、適性を見極めて就職あっせんする心強い存在だ。各都道府県の労働局の雇用失業情勢に応じた対策をする窓口となり、就職困難者を支援する最後のセーフティーネットともいえる。

だが、利用者に対して失業を解消する立場のハローワークの職員が、実は自らの雇用も守られていない。「国によるパワーハラスメント」とも呼ばれる制度によって、非常勤職員が職を追われ精神的苦痛を強いられている実態があるのだ。

ハローワークで働く浜名みどりさん(仮名)が相談業務への異動を希望したのは、7年ほど前に対応したある一本の電話がきっかけだった。

電話の主は男性で、失業と同時に収入が途絶え、長期に電気代を滞納していた。電気を止められてしまったのでなんとか国に援助してもらえないか、という訴えだった。男性には子どもがいた。

当時、別の部署で勤務していた浜名さんは「市役所などに相談するよう」伝えるだけで電話を切った。そのあと男性がどうなったかはわからない。

「何もできず、何も言えなかった」。自分にもどかしさだけが残った。

「ずっと心残りでした。話をゆっくり聞いて、その人に合った仕事を見つけて、就職先を紹介できるようになりたかった」

浜名さんは、この一本の電話を契機に相談業務の部署に異動。これまで多くの利用者の相談に乗り、就職に結びつけてきた。

時には職業訓練を通して資格を取得するなどして、新たな道を切り拓き、利用者が自分で思い描いていた仕事に就けた姿を見るときに「やりがいを感じる」と浜名さんは言う。

「時々、就職の報告に来てくれたりするので、そういうときは嬉しいですね」

浜名さん自身がこの仕事に就いたのもハローワークを通してだった。家から近く、週末が休みで残業はない。子育てが一段落した時期に初めてハローワークを使い、この上ない適職を見つけた。偶然とはいえ、「ライフワークのようにやりがいを感じている」とまで言うほどこの仕事が好きになった。

ところがそこには意外な落とし穴があった。

1年契約という短期雇用。契約の更新は毎年あるが、3年が上限と決められているため、それ以降は公募に挑戦しなければならない。就職して13年目のベテランになるが、経験値で特別扱いされることもなく、3年ごとに履歴書を提出して、外からの応募者に混ざって採用の可否を待つ。

浜名さんは別部署からの異動が一度はあったものの、それ以来は「幸い」自分が希望した就職あっせんの部署に戻ることができている。

しかし実際、「同僚では、そうでない人が多く、戻れない人もいる。複雑です」

取材の間、浜名さんは「辛い」という言葉を繰り返した。無理もない。

着任して3年目に当たる非常勤職員は全員、いったん失職することが避けられないからだ。同じ仕事を続けるには、外からの就職希望者と並んで公募に申し込まなければならない。もう何年も同じ部署で働いてきた浜名さんのような人でも、採用される確証はない。

より適任な人が他にいるかもしれないーー。利用者からの就職相談に対応するハローワークの職員だからこそ、よくわかる。

ハローワークの相談業務の一環に、就職先に宛てた紹介状がある。自分が対応する相談者がハローワークの公募に申請すると言えば、その適性も合わせて検討し、希望があればもちろん紹介状を書く。

やりきれないのは、その仕事が3年の契約満了を迎えて職場を追われた同僚や友人の職であるときだ。それでも相談者には、その就職口をあっせんする。

さらに、紹介状や推薦状はハローワーク職員であれば誰でもアクセスできるため、公募に並ぶ同僚でさえ目にすることができる。

「見ようと思えば、同僚が別の人を推薦しているのがわかる。自分のところにこんなにたくさん就職希望者を紹介していると見ることができる。今回そういうケースがありましたので、すごく辛いですね」

同僚であればまだましな方かもしれない。

中には、自分が職を追われる立場であるにもかかわらず、その自分のポストに就職希望する利用者のために、その人の紹介状を自分で書かざるを得ない人もいるのだ。引き裂かれる思いを抱きつつも、職務を全うせざるを得ない。

ハローワークの仕事は、今も人気職だ。午前9時から午後5時までの勤務に残業はなく、土日はきちんと休むことができる。労働組合の追及で、2年前、非常勤職員も夏休暇を取得できるようになった。しかし、浜名さんは「休みなんていらないから、せめて雇用を安定させてほしい」と言う。

当初、浜名さんがハローワークに就職したときは、たまたまその年の予算組みによって人事枠が増えたため、誰も失職することはなかった。しかし公募を来年に控える今は、緊張状態が続く。今年も1月の前から辛い気持ちを抱え、同僚を横目に来年は自分かーー、という考えを振り払えずにいる。

「これまでは幸いにして、誰かが削られたところに入るという悲しい経験をしたことがない。でも来年は公募なので、わからない。担当部署の予算が減る場合は必然的に私が切られることが想定される」

同じ職場内で、経験値や仕事の能力や人柄といった適性ではなく、時期が来たから順に切っていくーー。それがもっとも堪え難いと浜名さんは言う。

「他の部署に応募することもできるが、そこの予算も削られているかもしれない。誰かを落として私が入ることになるのは耐え難い。生活がなければ去るところですが、生活があるので採用募集が出たら応募はします。やりますけど、いやな気持ちは変わらない」

浜名さんはかろうじて精神の安定を保っているが、2021年春、公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)が公表した調査(有効回答1252件)では、こうした制度の下で9割に上る非正規公務員が精神的に不安を抱えていることがわかった。

労働局に勤務する女性は「年度末が近づくにつれ、不安や不満の中、日々ストレスは増すばかり。雇い止めとして簡単に失業者を作り出す労働行政の非常勤職員に対する政策は、国によるパワーハラスメントでしかありません」(全労働省労働組合調査)と語る。

ハローワークの職員を含め、公務職場の人事は各省の予算によって左右され、時勢にもともなって人員が増減する。例えば、コロナ禍の緊急対応が必要な現場では、事業の予算が増額。それに伴い、増員を求められるところも多かった。しかし、コロナが収束に向かえばその部署は人数が減ることが予想され、予算が多くついた別部署が増えるだろう。どこにどれだけの予算がつくのか、部署の人数が増えるか、減るかは現場レベルでは誰もわからない。それは他の企業でも同様だ。例年、公務職場の予算決定後に人事が決まるのは1月下旬だ。この時期、非常勤職員は極度の不安にさらされる。

明らかに予算や雇用の調整弁という扱いである非常勤職員は現場で大半を占め、業務を中心的に担う。一方、上司にあたる管理職の正職員は2年に1度の転勤があるため、異動先では非常勤職員から仕事を教えてもらうほどだ。

ただ非常勤職員の採用には、上司である現場の正職員の意見が大きく影響するため、当然、正職員に気に入られようと機嫌をとる人は一定数いるという。逆に、安心して働けるよう雇用の安定や賃金アップなど労働者として当然のことを求めたりすれば、たちまち道は閉ざされる。

「何かを言うことによって『気に入らない』と思われたら怖いし、反対にこの人間関係の良し悪しを利用して気に入られようとする人もいるので、『好き嫌いの人事なのか』と思うときもあります。やはり盾をつくことは怖いけれど、私はなかなか気に入られるようなこともできないので、粛々と仕事をするしかないですが」(浜名さん)

失業者が自分に合った仕事を見つけ、希望ある生活を立て直すことができるようあっせんするハローワーク。そこで働く非正規職員こそ、まず安定した仕事と生活を保障されるべきではないだろうか。

  • 取材・文松元千枝

    ジャーナリスト。人権や労働など社会的正義に関する問題を主に取材する。共著に『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋)、『マンガでわかるブラック企業』(合同出版)など、共同翻訳には『ストする中国』(彩流社)があり、2021年1月に共同翻訳『世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』(明石書店)を出版

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