インバウンド再開!京都人が「観光公害」を考え直した意外な理由 | FRIDAYデジタル

インバウンド再開!京都人が「観光公害」を考え直した意外な理由

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コロナ禍、京都人の「観光客嫌い」が緩和?

6月10日から訪日外国人観光客の受け入れ手続きが再開された。

2年前までオーバーツーリズムによる観光公害が問題になっていた古都・京都からはコロナ禍の渡航規制で外国人の姿が消えたものの、その一方で2020年以降もホテルの開業ラッシュは続いている。

インバウンド解禁のニュースを京都人はさぞ憂鬱な気分で受け止めているだろうと思いきや、「千年の都」の余裕か、頭を抱えているわけでもなさそうだ。

京都在住、龍谷大学講師で観光社会学が専門の中井治郎さんはこう話す。

「市民がふだん利用している飲食店がコロナ禍でどんどん閉店していくのを見て、京都の人も、自分たちの生活が観光に支えられていたことを改めて実感したと思います。 

京都ではごみのポイ捨てが外国人観光客のせいにされてきましたが、街から外国人の姿が消えてもポイ捨てはなくなっていません。実は外国人観光客だけが悪いわけではなかったのかと、そんな気づきもありました。 

オーバーツーリズムというのは結局、市民感情によって問題化するか問題化しないか分かれるんです。コロナ禍の2年間が『観光のおかげ』と『観光のせい』を見直す機会になったことで、観光に対する市民感情がだいぶ緩和されたように感じます」

プライドが高いと言われる京都人も、コロナ禍を契機に、観光がもたらす恩恵を再認識せざるを得なかったということか。

24年ぶりの水準まで円安が進み、インバウンドにとっては以前にも増して魅力的な「安い国」になっている日本。写真は、外国人旅行者で溢れる清水寺に向かう小道(2019年4月撮影/アフロ)

規制強化で「迷惑民泊」を追放し、「高級ホテル」を積極的に誘致

観光客が過度に集中し、負の影響をもたらす状況、オーバーツーリズム。京都では2010年代半ばから、観光客による混雑やマナー違反などが大きな問題となっていた。

「オーバーツーリズムという言葉自体が頻繁に使われ始めたのは2016年頃。京都では、個々の問題として認識されていたゴミのポイ捨てや市バスの混雑、民泊騒動などが、どれも観光客のせいで起きているらしいと紐付けされるようになってきていました」

中でも京都の人々が最も不満に感じていたのは民泊の増加だったという。

「高齢化が進んで京都中心地の人口が減少したことで、街中の住宅が次々と民泊やゲストハウスに取って代わられたんです。それを機に、外国人宿泊客が夜中まで飲んで騒ぐ、ごみが分別されていないなどの問題が起き始めました」

京都市民泊ポータルサイトによると、2015年に696軒だった簡易宿所が2016年には1493軒と2倍以上になっている。

「民泊対策として京都市は管理者の『駆け付け要件』を条例で定め、2020年の4月から実施しています。これは、客の宿泊中は管理者を常駐させる、小規模な施設であっても10分以内に駆け付けられるように800m以内に管理者を配置することを義務づけたものです。 

この他、旅館業法の許可が必要となる全ての宿泊施設を対象にバリアフリー基準を強化しました。宿の開業にコストがかかるような規制をかけて、小規模な宿の進出を抑制しようという狙いがあるのではないかと言われています」

さらに市は、2016年に民泊通報・相談窓口を開設。2017年には民泊対策に特化した専門チームを設置して施設の監視・指導などに当たってきた。

「京都市の民泊対策によって、撤退、廃業する事業者が相次ぎました。この数年間で違法、脱法民泊の99パーセントは排除できたと市では言っています。市民の間でも『民泊に困っている』という声はほとんど聞かなくなりましたね」

ただし、ホテル・旅館の数は2016年以降ずっと増え続けている。

「観光客の層をコントロールするための策として京都市は、民泊やゲストハウスなどの低価格の宿を開業しにくくし、その代わり高級な宿に参入してもらうという方針をとっています。そうすれば観光客の数を抑えられる。逆に裕福な観光客の割合は高くなるので、観光消費額、客単価は上がるわけです。 

2017年には上質宿泊施設誘致制度も創設しました。ここ数年の間にオープンしたのもこれから開業するのも、多くは高級ホテルです」 

外国人観光客のせいにされてきた「ごみのポイ捨て」問題。だが、街から外国人の姿が消えてもポイ捨てはなくならなかった…。写真は2020年4月の祇園・花見小道

錦市場の「歩き食い」、祇園の「舞妓パパラッチ」…

京都のオーバーツーリズムといえば、気になるのが錦市場だ。「京都の台所」と呼ばれるこの商店街にもコロナ以前は外国人観光客が押し寄せ、歩きながら食べる「歩き食い」やごみのポイ捨てが問題になっていた。

「錦市場は市民を相手に商売している店と観光客で成り立っている店が混在する市場で、非常に難しいところがあります。観光客相手の店にとっては、ポイ捨ては問題なものの、客を呼ぶためには歩き食べの流行はやはりありがたい。しかし市民相手の店からすれば、市民が離れていくと死活問題。観光客に来てほしいのか来てほしくないのか、市場として意見を統一するのが難しかったと聞いています。 

それでも2018年の秋頃には、各店頭に『歩きながらの飲食はご遠慮ください』と日本語、英語、韓国語、中国語で書かれた注意書きが掲げられました。コロナ禍の直前には外国人観光客のマナーは改善し始めていたので、注意喚起の効果はそれなりにあったんでしょう」

中井さんは著書『パンクする京都』で、祇園で芸妓・舞妓を撮影するために追いかけ回す「舞妓パパラッチ」について触れている。インバウンドが戻ると、彼女たちはまた追っかけ外国人の脅威にさらされることになるのか。

「彼らが写真を撮りまくる行為は明らかに、舞妓さん芸妓さんの迷惑となっていました。それだけじゃありません。お忍びでお茶屋さんにくつろぎに来る政治家や芸能人などのお得意様が離れていってしまう。祇園にとっては大きな損害です。

そこで花街の人々は知恵を絞り、祇園の特殊な事情を利用した対策を打ち出しました。

花街の大部分は私有地で、メインストリートこそ公道ですが、脇道や細い路地の多くは私道。公道はともかく私有地ならばということで、地元自治組織が『私道での撮影禁止』の立札を設置したんです。 

2019年には京都市と国土交通省近畿運輸局などが、外国人観光客のスマホに祇園でのマナー情報をプッシュ通知で伝えるマナー啓発の実証実験を行いました。マナー違反行為の減少が見られたそうなので、今後、実施されるんじゃないでしょうか」

市も地元の人々も、ただ手をこまねいているわけではなかったのだ。

観光客に人気のライトアップも、実は、混雑する時間を分散させるためのオーバーツーリズム対策の一つだった

実は、京都の観光客数は10年以上ほぼ横ばい…

京都観光オフィシャルサイトでは、「京都観光快適度マップ」で人気観光スポット周辺の時間帯別の混雑状況などを配信している。

「実は、京都の観光客数は10年以上ほぼ横ばいで、オーバーツーリズムが問題になったのは観光客の数が増えたからではありません。行動や趣向に伴う質が変わってきたためであり、代表的な質の問題としては観光客が同じ場所に集中してしまうようになったことが挙げられます。 

京都観光快適度マップはその対策の一つ。混雑する時間や場所を知らせて、観光客をばらけさせるのが狙いです。 

京都市と京都市観光協会は『とっておきの京都プロジェクト』を立ち上げ、穴場スポットの情報を発信しています。こうした観光場所を分散させるための対策が2018年頃から行われている。また、コロナ禍の間にもいろいろ整備が進んでいるので、外国人観光客が戻ってきた時にその効果が実証されていくと思います」 

観光再興で試される「千年の都」の底力

日本は現在、24年ぶりの水準まで円安が進み、インバウンドにとっては以前にも増して魅力的な「安い国」になっている。外国人観光客の本格的な入国再開まではまだ時間がかかるとしても、コロナ後は再び京都に外国人観光客が押し寄せるだろう。

「日本のインバウンド・ブームはおもに中国人観光客の急増が引き起こしていたわけですが、中国の旅行会社の人に話を聞くと、日本の人気は高いままのようです。世界経済フォーラムが先月発表した旅行・観光開発ランキングでは日本が初めて首位になりました。インバウンドがすぐに戻るとは思いませんが、いずれ京都が外国人観光客であふれることは間違いないでしょうね」

アフターコロナに向け、京都の観光はどう再興していくのか。 

「京都はここ数年、観光対策の先進的な実験場になっています。この町の事情に即した新しい政策もどんどん打ち出されている。現段階ではそれらが思うような効果を上げるかどうかは未知数ですが、僕は結果が楽しみではありますね」

「千年の都」京都の、底意地ならぬ底力が試される。

 

中井治郎(なかい・じろう)社会学者、龍谷大学非常勤講師。1977年、大阪府生まれ。龍谷大学社会学部卒業、同大学院博士課程修了。専攻は観光社会学。京都を拠点に、観光公害やオーバーツーリズム問題などを通して観光と地域社会の共生、地域文化や文化遺産の観光資源化などを研究。著書に『パンクする京都』『観光は滅びない』(星海社新書)、『日本のふしぎな夫婦同姓 社会学者、妻の姓を選ぶ 』(PHP新書)がある。

  • 取材・文斉藤さゆり写真アフロ

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