「国にも責任」…知床事故・遊覧船社長「強気主張」の呆れた理由
開始予定時刻の朝9時半になっても、男性は姿を見せなかった。代わりに提出されたA4紙数枚の陳述書には、こう記されていたという。
〈事故の責任が当社のみにあるとするのはおかしい〉
〈監査などの確認をするという点では、責任は監督官庁である国にもある〉
6月14日に国土交通省北海道運輸局が入る庁舎(札幌市)で行われた、乗客乗員26人が犠牲となった観光船「KAZU Ⅰ(以下カズワン)」沈没事故の「聴聞」。行政処分を行う前に、「カズワン」の運航会社「知床遊覧船」側に釈明の機会を与える非公開の場だ。しかし、社長の桂田精一氏(58)は現れなかった。
「『知床遊覧船』側は、『聴聞』前日に陳述書を提出したそうです。国交省による特別監査では、同社に19件の海上運送法違反があったと指摘しています。荒天が予想されたにもかかわらず『カズワン』を出航させた、波が1m以上になる恐れがあるのに(事故当日4月23日は強風波浪注意報が出ていて予報は1.5mから3m)運航したなどです。
しかし『知床遊覧船』の陳述書では、指摘された法令違反の一部を否定していました。一方で、欠席する理由や事故原因に関する記述はなかったとか。『聴聞』を受け、国交省は6月16日に行政処分を行う予定です。最も重い事業認可取り消しになるとみられ、少なくとも2年間は許可を再取得できません」(全国紙社会部記者)
遊覧船の「素人」
「釈明の場」に現れなかった桂田社長。14人が命を落とす(6月15日現在)という大惨事を招きながら、緊迫した様子はうかがえないという。「カズワン」の母港・ウトロ港近くの住民が話す。
「遺族の方々への対応や弁護士との打ち合わせで忙しそうではありますが、桂田社長が憔悴しているようには見えません。事故の重大さを理解しているのか、はなはだ疑問です。
もともと桂田社長は旅館業が専門で、遊覧船に関しては完全な素人。事務所にもほとんど顔を見せていなかったので、どこか他人事に感じているように見うけます」
「素人」だからと言って、運航会社社長の桂田氏が許されるわけでは当然ない。陳述書で「国にも責任」と記すなど、強気な姿勢でいられるのはなぜだろうか。前出の住民が続ける。
「国交省が開いた乗客の家族向け説明会で、『国にも責任があるのでは』という声が上がったからでしょう。『私だけのせいではないんだ』と、励まされた気分になったのではないでしょうか。
『知床遊覧船』は浅瀬に座礁するなど、昨年2度の事故を起こしています。しかし国交省は、同社の改善報告書に連日同じ気象数値が記されるなど不自然な点があったにもかかわらず見逃してしまった。こうした国の不手際が、陳述書の理解しがたい記述につながっていると思います」
「国の責任」をあげつらう前に、自身が犯した失敗を検証することが優先事項だろう。事故再発防止で重要なのは、「責任のなすりつけ」ではないハズだ。
- 写真:共同通信社