米カジノ大富豪をハメた中国の「ヤバすぎる政治工作」 | FRIDAYデジタル

米カジノ大富豪をハメた中国の「ヤバすぎる政治工作」

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トランプ前大統領の友人として知られる米国のカジノ富豪は「中国のエージェント」だったーー。

米国司法省(DOJ)は5月17日、ラスベガスの巨大カジノ「ウィン・リゾーツ」創業者である富豪スティーブ・ウィン氏(80)が「中国政府の依頼を受けてホワイトハウスに対する工作を行っていた」として、外国代理人登録法(FARA)に基づく登録義務を果たすように求める訴えをワシントン連邦地裁に提起した。

世界的によく知られた富豪だが…(AFLO)

前駐日デンマーク大使館上席戦略担当官で国際ロビー活動に詳しい北島純・社会構想大学院大学教授は、その背景についてこう解説する。

「米国では1938年に制定された外国代理人登録法(FARA)に基づいて、外国政府の依頼を受けて政治的な活動を行う者は、氏名や報酬額、活動記録等を司法長官に登録する義務があります。情報開示によって米国に対する影響工作を透明化する趣旨です。

ウィン氏は2018年5月、2021年10月、2022年4月の三度に渡って司法省国家安全保障局から通告されていましたが、登録を拒否していたので、今回の提訴に至ったのです」

米司法省によると、ウィン氏は共和党財務委員長だった2017年当時、中国公安省幹部の孫力軍から「ある在米中国人富豪」の国外追放を依頼されたという。

孫力軍といえば、オーストラリアで公衆衛生学の修士号を取得後、公安省で人権派弁護士を一斉検挙するなど民主化活動の弾圧に辣腕を奮っていた人物だ(その後、2020年4月に収賄等で失脚)。その依頼を受けて動いたことが、ウィン氏の提訴につながった、というわけだ。

米国司法省はターゲットとなった「在米中国人富豪」の名前を明らかにしていない。しかしこの人物は、当時中国共産党の腐敗を暴露し、世界の注目を集めていたマイルス・クオックこと郭文貴氏(52)だと見られる。

郭文貴氏は2008年の北京五輪時に不動産開発で巨万の富を築いたビジネスマンだが、中国政府から汚職等で逮捕される前の2014年に米国に逃亡(その後、中国政府の要請でインターポールが国際指名手配)。それ以来YouTube等を通じて、王岐山・共産党中央規律検査委員会書紀(現国家副主席)をはじめとする政権幹部の「汚職」を国外から告発し続け、中国共産党にとって何としてでも除去したい「目の上のたんこぶ」になっていた。

2017年5月頃、孫力軍は共和党の資金調達役として著名な実業家エリオット・ブロイディと接触し、「郭文貴追放をホワイトハウスに働きかけてもらいたい」と依頼した。ちなみに両者間でお膳立てしたのは、華僑系大富豪ジョー・ロー。マレーシアを舞台とする史上最大の外国公務員贈賄疑獄「1MDBゴールドマンサックス事件」の中心人物の一人だ。

依頼を受けたブロイディは、すぐにトランプ大統領と交友関係を持つウィン氏に話を持ちかける。郭文貴氏のパスポート写真等の資料を提供し、トランプ大統領への口利きを依頼したのだ。

キーマンとなったブロイディ氏(AFLO)

ウィン氏はその後、孫力軍本人から電話を受け、協力を約束。ブロイディがウィン氏の妻を通じて6月27日に送信したSNSには、「マール・ア・ラーゴで、習近平主席はトランプ大統領に対して『郭文貴を返してほしい』と言った。(そうすれば)中国で拘束されている米国人を解放するとともに、米国にいる中国人不法移民の強制送還を多数受け入れる。さらに北朝鮮問題に対する新たな支援を提供する」と書かれていた。

「マール・ア・ラーゴはトランプ大統領の別荘で、2017年4月6日に初の米中首脳会談が開催されています。首脳会談での生々しい交渉内容が世に出ることは稀ですが、今回司法省は、習近平主席自らが『郭文貴追放』をトランプ大統領に持ちかけていたことを明らかにしています。つまり郭文貴問題は当時、米中首脳間で協議される最高レベルの外交問題になっていたのです」(前出・北島教授)

ウィン氏は6月27日にこのSNSを受け取った後、ワシントンD.C.で開いたディナーの席で「中国政府が郭文貴の排除を望んでいること」をトランプ大統領に直接伝えるとともに、郭文貴のパスポート写真をトランプ大統領の秘書に提供した。

ディナー後にブロイディは「孫力軍は大変喜んでおり、習近平主席がウィン氏の協力を評価していると言っていた」とメッセージを送信。これに対してウィン氏は「この問題は国務省や国防総省最高レベルで協議されている」と答えている。

しかし、実際には郭文貴追放はすぐには進展を見せなかった。ウィン氏は7月から8月にかけて国家安全保障会議(NSC)高官や大統領首席補佐官に接触し、「中国政府は郭文貴を可及的速やかに送還させることに多大な興味を有している」旨を伝えている。更に8月にはホワイトハウスを個人として複数回訪れて、トランプ大統領と面会している。

しかし、そうしたプレッシャーは功を奏さなかった。8月19日にブロイディ夫妻が所有するヨット船でイタリア沖合を航海していた際に、船上からウィン氏がトランプ大統領に電話をかけ「郭文貴の現状はどうなっているか」と質問したところ、トランプ大統領は「調べてみる」と答えるのみだった。これを最後に、郭文貴追放に関わる動きは鳴りを潜めたのだ。

10月に入るとウィン氏は孫力軍に対して「これ以上の協力はできない。今後は連絡をしないように」と通告。こうして中国政府がウィン氏を通じて行ったホワイトハウス工作は失敗に終わった。

司法省によれば、ウィン氏が中国政府の依頼に応じてトランプ大統領への働きかけを行ったのは、ウィン氏がマカオで展開するカジノの権益を維持したいという動機があったことが示唆されている。今回の対米工作を仕掛けた孫力軍はかつて公安省香港マカオ台湾事務弁公室主任を務めていた。

「カジノ利権を背景とする中国共産党の工作がホワイトハウス中枢にまで及んでいたとしたら、そのことが明らかになった衝撃は大きいと言えるでしょう」(前出・北島教授)

日本には「外国政府のエージェント」を登録するような制度は存在しない。スパイ天国だと言う指摘もあるが、永田町や霞が関に対する外国政府の浸透工作の実態は未だ明らかになっていない。中国の知られざるシャドー・パワーが明らかになった今回の提訴は、日本にとっても他人事ではない−−。

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