天心VS武尊 歴史的一戦の後に見えた格闘技界の「課題」 | FRIDAYデジタル

天心VS武尊 歴史的一戦の後に見えた格闘技界の「課題」

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いつ以来の熱狂か

メインカードの武尊対那須川天心戦までにまだ7時間以上もあるというのに、「THE MATCH 2022」の会場となった東京ドームは立錐の余地もないほど格闘技ファンで埋まっていた。チケットは発売後すぐにソールドアウトとなり、リングサイドの芸能人を除いて招待客はほとんどいないという噂も聞こえてきていたものの、それでも第1試合から会場が埋まっていることは大きな驚きだった。

歴史的な勝利を手にした那須川選手

というのも、組まれたキックボクシングの15試合のうちほとんどが軽量級の試合であり、ド派手なKOシーンが期待できるヘビー級ファイターの激突や、いわゆる〝色物〟の試合は組まれず、なんとも通好みのカードが揃っていたからだ。

決してメジャースポーツとは言えないキックボクシングの興行に、最終的には5万6399人が詰めかけた。さらに、アベマTVのPPVは50万人以上が視聴料を払って視聴したという。フジテレビが地上波放送から手を引いた結果、格闘技の新たな視聴方法が浸透するという思わぬ波及効果も生まれていた。

これほどの熱量は、1990年代後半のK-1や、2002年に国内格闘技団体が国立競技場に呉越同舟した「Dynamite!」など、日本格闘技の隆盛期以来だろう。

無論、こうした現象を生みだしたのは、メインで戦うふたりの求心力に他ならない。長く対戦を望まれながら、相交わることはないと思われていたK-1の3階級王者・武尊とRISEやRIZINを主戦場としてきた無敗のキックボクサー・那須川天心——。両者の頂上決戦を誰もが待ち侘びていた。

生涯戦績は30 歳の武尊が41戦40勝(24KO)1敗。一方、23歳になる天心は46戦全勝(32KO)である。

両者が似通っているのは戦績だけであり、人柄からファイトスタイルまで対照的だ。長い時間をかけた両者の入場のあと、リング上のフェイスオフでは、じっと天心を見つめる武尊に対し、天心は小刻みに身体を揺らしていた。まさに静と動だ。

そして、開始のゴングが鳴ったあとも、その構図は変わらない。

主導権を握ったのは天心だった。サウスポーの天心は遠い間合いから飛び込むよう放つ右ジャブを有効に使い、足技につないでいく。べた足で天心と対峙する武尊は、ガードを固めてチャンスを窺う。

衝撃のダウンの瞬間…!

ワンツーや飛び膝蹴りを繰り出し主導権を握っていった天心は、1R残り10秒に左のカウンターを武尊のアゴにヒットさせてダウンを奪う。

3分3Rの戦いでは一度のダウンが命取りとなる。あとのない武尊は2Rに入って前に出ていく。だが、武尊の頭部が天心の右目付近にヒットする偶然のバッティングによって試合が中断。その後、天心はアウトボクシングに徹し、接近戦を仕掛ける武尊の猛攻をクリンチでしのいでいく。

あとのない武尊は3R、ニヤリと笑ってノーガードとなり、天心を挑発するも、天心はそれに乗らず、冷静に対処。あとは時間を使って、試合を終わらせるだけだった。

5人のジャッジによる判定は、5−0で天心。武尊サイドからすれば完敗だったが、この試合に限っては試合内容をとやかく言うことは無粋だろう。世紀の対決が無事に行われ、勝敗がはっきりした形でついた。それだけですべての人間の心が満たされていた。

試合後の表情まで、ふたりは対照的だった。先にインタビュールームに現れた武尊は、試合の感想を求められるといきなり言葉を詰まらせ、涙をぬぐった。

「この試合を実現するために動いてくれた人たちと、支えてくれた人たちと、対戦相手の天心選手に心から感謝しています。僕を信じてきてくれたファンの人たちだったり、K-1ファイターだったり、ジムのチームのみんなだったり……そういう人たちには本当に心から申し訳ないと思っています」

武尊は言葉少なだった

敗者は絞り出すように感謝と謝罪の気持ちを言葉にすると、続けて「以上です」と口にして会見を切り上げ、右脚を引きずりながら会場を後にした。

一方、勝者はなんとも無邪気に、軽妙なトークを展開した。

「オレ、マジで、ほんとに負けたらマジで死のうと思っていたんすよ。動画も撮って、『これは遺書です』と。ずっと今日は人生最後の日だと思ってやってきた。(勝利したことで)次の日をやっと迎えられる。ハッピーです。ほんと良かった。心の底から良かった。いやあもう、解放されました。すべて終わったな、っていう感じ。(ゴンドラに乗った登場について)めっちゃキラキラしていて、逆夜空みたいな? いつも上見ると星があるじゃないですか。空から星を見ているみたいでした。俺が地球になった、みたいな」

天心は普段以上に饒舌だった。それがこの試合に臨むまでの重圧を感じさせた

ダウンを奪ったフックは「会心の左でした」と振り返った。

「コンパクトに狙った。大きくならないように、刀のように、刹那に。今までやった選手の中でも、一番強かったんじゃないかな。僕と真逆のファイター、真逆のスタイルでしたけど、勝ち切れたのは大きいっすね」

そう世紀の一戦を振り返った天心は、この試合を最後にキックボクシングとは別れを告げ、拳だけで勝負するボクシングの世界に飛び込む。

「僕をここまで成長させてくれたキックボクシング界に感謝したい。RISE、RIZIN、K-1、どの舞台も最高。殴り合って、蹴り合って、野蛮なスポーツと思われるかもしれないけど、人の心は動かすことができる。(自分は)今年の顔でしょ。今年の顔だよね?」

表情筋を動かさずに無念の気持ちを絞り出した武尊に対して、童心に戻ったように無邪気に振る舞った天心——格闘技における勝敗の明暗はあまりに残酷だ。改めてそれを痛感したのが「THE MATCH 2022」のメインカードだった。

今後、日本の立ち技格闘技界は、那須川天心という「顔」を失うことになる。だが、東京ドームに籠もった格闘技の熱だけは失うわけにはいかない。対戦が持ち上がった約7年前から、武尊と天心が紡いできた物語を受け継ぐようなファイターの登場を待ちたい。

  • 取材・文柳川悠二写真丸山剛史

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