「人生に嫌気」…ネカフェ立てこもり犯の「虚飾まみれの人生」
「うるせぇ、このヤロー!」
インターフォンを通じて警察が人質の安否を尋ねても、男は声を荒げるばかり。具体的な要求もない。だが明け方に自らドアを開けると、突入した捜査員に身柄を抑えられた――。
埼玉県川越市にあるインターネットカフェに男が入店したのは、6月21日午前中のこと。同日夜10時頃、22歳の女性アルバイトが掃除していた個室に押し入ると、彼女を人質にして、内側からカギをかけて立てこもった。男はカッターナイフを1本持っていた。
「女性が戻ってこないことを不審に思った別の店員が、110番通報したんです。駆けつけた警察官らの誘導で、店内にいた約20人が避難。男は警察の説得に応じませんでしたが、約5時間後に身柄を確保され、逮捕監禁容疑で現行犯逮捕されました。女性は軽いケガをしていましたが、命に別状はないそうです」(全国紙社会部記者)
逮捕されたのは、住所・職業不詳の長久保浩二容疑者(42)だ。警察の調べに対し「人生に嫌気がさした」「事件を起こし刑務所に戻りたかった」と話し、容疑を認めている。
「長久保容疑者は、12年11月にも愛知県豊川市で立てこもり事件を起こしています。豊川信用金庫のある店舗で、客や職員5人を人質に13時間にわたり籠城しました。当時の野田佳彦首相の退陣を要求していたのです。逮捕された後、13年4月に懲役9年の実刑判決を受けます。出所したのは今年4月のことです」(同前)
「ヤクザの運転手をしている」


『FRIDAY』は、12年に起きた愛知県内の立てこもり事件を詳細に取材していた。当時を知る全国紙記者が語る。
「長久保容疑者は各地の更生施設を転々としていたようで、そこで『自分は幼い頃に両親に捨てられた』などと話していたようです。その話が流れ、当時はワイドショーなどでコメンテーターが『そうした家庭環境が事件の原因ではないか』などと訳知り顔で話していました」
そこで当時、実際に本誌記者が地元である山梨県北杜市を訪れると、これがまったくの虚言であることが判明した。実家は多少古びているものの、広い庭もある、大きな二階建ての家だった。近隣住民はこう語っていた。
「浩二君はあの家で生まれ、学校を卒業するまで住んでいました。なんら変わったところのない、普通の子どもでしたよ。ご両親も真面目そうな方で、お父さんは地元の製作所に勤めていました。4人兄弟で、浩二君は一番上。おじいさんも一緒に住んでいました」
「幼い頃に両親に捨てられた」どころか、家族はおろか、祖父まで一緒に暮らしていたのである。
長久保容疑者は農業高校に進学。卒業アルバムを見ると「ボクのポルシェ」というおどけた文句をつけて、トラクターに乗る長久保容疑者の写真が載っている。ソフトテニス部にも所属していたようで、当時の写真からは、近隣住民が語る「なんら変わったところのない普通の子ども」という言葉通りの印象に映る。
転機は県内の大学に進学した直後にあったようだ。当時の取材で、長久保容疑者の知人はこう語っている。
「大学の同級生と19歳でデキ婚したんですよ。中退しアパートで新婚生活を送っていたんですが、ほどなくして離婚しました」
その後は、地元の友人とも疎遠になったという。しかし、「虚言癖」は相変わらずだったようだ。知人の言葉を続ける。
「(愛知の事件から)10年前に町で会った時には『ヤクザの運転手をしている』と、吹聴していました。それが本当なら地元で話題にのぼるはずなんですが、その話を他の人から聞いたことがありません」
愛知の事件の数年前から窃盗や詐欺事件を起こし、服役と出所をくり返していたという長久保容疑者。今年4月に出所したにもかかわらず、今回またしても立てこもり事件を起こした。
「刑務所に戻りたかった」という言葉は本音だったのかもしれない。しかし、その身勝手な動機で一般の人を巻き込むなど、言語道断である。

撮影:佐藤茂樹 蓮尾真司