ラグビー代表3人が深谷高OB「勧誘の手紙」も書いた恩師の情熱 | FRIDAYデジタル

ラグビー代表3人が深谷高OB「勧誘の手紙」も書いた恩師の情熱

25日のウルグアイ戦に山沢拓也と中嶋大希がメンバー入り

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ウルグアイ戦の先発が決まった山沢拓也(右)と深谷高校時代の恩師、横田典之監督(現・熊谷高校教諭、写真提供)

5月31日(火)、2023年にワールドカップを控えたラグビー日本代表34名が発表された(現在は予備軍からの昇格もあり37名となった)。東福岡(福岡)、東海大仰星(大阪)、京都成章(京都)と私立の全国的強豪高校出身者が2名ずつ選出される中で、埼玉の普通の県立高校である深谷高校出身者から最多の3名の選手が選出された。

3人とは、リーグワン元年に埼玉パナソニック ワイルドナイツの優勝に貢献し日本代表でも司令塔として期待される3キャップのSO(スタンドオフ)山沢拓也(埼玉パナソニック ワイルドナイツ)、2キャップのHO(フッカー)橋本大吾(東芝ブレイブルーパス)&SH(スクラムハーフ)中嶋大希(コベルコ神戸スティーラーズ)である。

通える範囲の子を土のグラウンドで鍛えた

2011年度、橋本が高校3年のときのキャプテンを務めて出場した全国高校ラグビー大会3回戦では、2年の山沢が先発、1年の中嶋も途中出場し3人揃って花園ラグビー場のピッチに立っていた。山沢本人は深谷高校出身者が3人同時に日本代表に入ったことに関して「あらためて、すごいなと思います! 地元の人がいて、ピリピリとした(日本)合宿の中でも落ち着ける要因の一つになっている。ワールドカップのメンバーに残る、残らないということもありますが、お互い支え合いたいな」と話した。

そこで3人の恩師であり、2017年度まで18年間、深谷高校ラグビー部を指導し9度の花園出場に導いた横田典之監督(現・熊谷高校ラグビー部)に話を聞いた。

横田監督は熊谷工業高校時代、LO(ロック)として活躍し花園に出場、日体大時代も1年時から活躍した。卒業後は埼玉県の教諭となり、2000年から深谷高校の監督に就任、高校日本代表監督、ユース統括なども歴任した名将の一人。

横田監督は「34名の日本代表のうち3人が深谷高校出身なんてありえないですよね! 今から思えば、3人がいた頃(2011年度)が一番、ピークでしたね。天理高校や伏見工業(現・京都工学院)にも肉薄しベスト16に進出、春の選抜大会ではベスト8に進んだ。いい選手も集まり、毎年のように高校日本代表選手が出て、指導者としても充実していましたね」と懐かしそうに振り返った。

ただ深谷高校は普通の県立高校であるため、グランドは人工芝ではなく土で、選手は毎日の練習で擦り傷が絶えず、雨が降ると泥のようなグラウンドとなる。トレーニングルームはプレハブだった。私立の強豪校のようにスポーツ推薦や入学金免除などはもちろんなく、全員が普通に一般受験で入ってきた生徒で、不合格になる生徒もいた。横田監督が18年指導する中で、越境して入ってきた生徒は一人だったという。「山沢、橋本は熊谷市出身で、中嶋は深谷高校のすぐ近くに住んでいた。通える範囲の子しか来ていなかった。雑草軍団でしたね」(横田監督)

3人のうち、横田監督が「中学3年生の春休みからレギュラーとして起用していた」と、その才能に惚れ込んでいたのは、やはり山沢だった。山沢は3人兄弟の次男で、弟の京平は現在、ワイツドナイツで一緒にプレーしている。実は長男の一人(かずひと)が先に深谷高校ラグビー部に在籍。山沢が兄の試合を見に来ていたこともあり、横田監督とは顔見知りだったという。

ただ山沢は中学時代、クマガヤSCでサッカーに夢中だった。熊谷東中でサッカーがない日だけ、ラグビー部に顔を出していた。たまたま横田監督が熊谷東中のラグビー部の試合を目にしたときに、山沢が出場しており、走るスピードやキック、パスのスキルに目を見張るものがあった。ただサッカーでも非凡な才を発揮していた山沢はJリーグ・大宮アルディージャのユースには落ちたものの、埼玉の武南だけでなく、流通経済大柏、前橋育英、山梨学院など7校の強豪サッカー部から誘われていたという。

そこで横田監督は思い切って山沢に手紙をしたためることを決めた。

「青臭い感じですが……『サッカーもいいと思うけど、もしラグビーをやったら日本代表になれる可能性がある』『2019年ラグビーワールドカップにスタンドオフとしてグラウンドに立てる素材を持っていると思う』『一緒に深谷高校でラグビーをやりたい!』といった内容でした。ラブレターみたいなものですね(苦笑)」。

思いを伝えて、ダメだったら山沢の獲得はあきらめようと思っていた。

2013年1月1日、花園3回戦で対戦した名門・伏見工業戦でボールを持って走る山沢(中央)とフォローする中嶋(右端、撮影:斉藤健仁)

山沢からの手紙の返事は日付まで覚えている

横田監督の熱意が伝わり、今でも覚えているという2010年12月4日、山沢から「手紙を見ました。深谷に入ってラグビーやります!」と電話がかかってきた。こうして山沢は深谷高校から本格的にラグビーに専念することになったというわけだ。

高校1年時から花園でトライを挙げるなど活躍していた山沢は、エディー・ジョーンズ日本代表監督(当時)にもその才能を高く評価され、高校3年時に日本代表合宿にも招集。代表予備軍としてトンガ代表との試合にも出場した。その後、ケガにも苦しんだが、飛び級で2016年、筑波大学4年時からワイルドナイツに入部。2017年には日本代表初キャップを得た。

高校、大学生頃の山沢のプレーを思い返しつつ、横田監督は「当時は2019年大会の10番にと思っていましたが、パスしたければパス、蹴りたければ蹴る、走りたければ走るといったようなナチュラルボーンでやっていた。何もわかっていなくて、才能だけでやっていたから、再現性があまりなかった。それでも周りに評価されて悩んでいた。だから、ワイルドナイツに入ってからいろんなものが結びついてきて、今、充実期を迎えている。早熟と思われていたが早熟ではなく、晩成型かな。日本代表になりたいという気持ちもだしつつ、自分の良さを出して拓也らしく頑張ってほしい」と、今後の活躍に大いに期待を寄せた。

橋本、中嶋に対してのエールも聞くと横田監督は「橋本は身体能力が高く、器用な選手で何でもできました。今回、日本代表に選ばれたのは東芝でキャリアを積んで認められた証拠。セットプレーも含めて、持っている能力を最大限発揮してほしい。中嶋は足が速く、身体能力が高く、どんな体勢からでもパスを投げられる。高校時代、山沢とハーフ団を組んだのが大きかったかな。普通にやれば能力的には高いと思うので、臆せずやってもらいたい」と語気を強めた。

横田監督に、普通の県立高校から3人の日本代表を輩出できた秘密があるのか?

毎日一緒にいたため、大前提として、ラグビーのプレー以外の部分、挨拶や整理整頓などの生徒指導はきっちりとやっていた。勉強も疎かにならないように、試験期間になればしっかりと勉強もやらせていた。橋本と山沢は勉強でも常に学年でトップ5に入っていたという。

また横田監督は「もちろん全国で勝ちたいと思っていたが……」と前置きした上で、「今思うと、私立の全国的な強豪高校のように優秀な選手が揃い過ぎていると、全国大会で優勝するのが使命となり、勝たないといけないプレッシャーがあり、選手に対するアプローチが少しかわかってくるのかも……」とつぶやいた。

私立の全国的強豪は100人を超えるチームもあるが、深谷高校は多いときでも60人弱だったという。花園に出場しても「2~3人はちょっと全国大会では厳しいな……」という選手も当然いたという。そこで横田監督は橋本、山沢、中嶋など「面白い!」と思った選手は、徹底的に長所を伸ばすことに注力していた。

「試合に勝ちたいから『こういうことやるな!』とか、『こうしたプレーをやれ!』など型にはめることはやらなかった。公立校なので、何人もいい選手がいるわけではない。だから、彼らの持っている素材の良さを最大限に引き出したい!と思ってコーチングをしていた。その中でチームが勝てればいいと……自分ではわからないですが、強豪校過ぎないところが、プレッシャーにならず、伸び伸びとプレーできて、彼らとってはよかったのかもしれない。間違いなく、高校時代が彼らのピークではなかった」(横田監督)

横田監督は、現在は熊谷高校でラグビー部の監督をしており、部活の指導もあれば、7月になれば高校では期末テストもある。ラグビー日本代表は6月25日(土)のウルグアイ代表戦(@北九州)、7月2日(土)のフランス代表戦(@豊田)、9日のフランス代表戦(@国立)と3連戦が控えるが、全て予定が埋まってしまっており、今回は会場で生観戦することは難しいという。

「今、3人、深谷高校出身が日本代表にいれば、1人くらいは2023年のフランスワールドカップの日本代表に入るかな? もし教え子が来年、ワールドカップのメンバーに選ばれたら、その時は休みをとってフランスに行きます!」

横田監督は世界の大舞台での教え子たちの活躍を今から楽しみにしている。

2013年正月、伏見工業戦での中嶋。25日ウルグアイ戦は控えのSHに入ったが、後半に出番が回ってくるかもしれない(撮影:斉藤健仁)
伏見工業に敗れた後、山沢(左)と握手を交わすのは松田力也。今は同じ埼玉ワイルドナイツのチームメートとしてお互いに刺激し合う間柄だ(撮影:斉藤健仁)
2016年5月、韓国代表戦で初キャップを得た深谷高校OBのHO橋本大吾(左)と中嶋。橋本は25日のウルグアイ戦のメンバーには入らなかったが今後もチャンスを狙っている(写真提供:横田先生)
生徒の練習ぶりを遠くから見つめる横田監督。25日からはじまるラグビー日本代表3試合は現地に行けないが、教え子が1人でも来年のフランスW杯に行けることを願っている(撮影:斉藤健仁)
  • 取材・文・写真斉藤健仁

    1975年生まれ。ラグビー、サッカーを中心に、雑誌やWEBで取材、執筆するスポーツライター。「DAZN」のラグビー中継の解説も務める。W杯は2019年大会まで5大会連続現地で取材。エディ・ジョーンズ監督率いた前回の日本代表戦は全57試合を取材した。近著に『ラグビー語辞典』(誠文堂新光社)、『ラグビー観戦入門』(海竜社)がある。自身も高校時代、タックルが得意なFBとしてプレー

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