『ベイビーわるきゅーれ』阪元裕吾が映画を撮り始めたきっかけ
新人監督賞を受賞した若手映画監督 「とにかく、ベタなことはやりたくない。 アクションを武器に新しい映画作りに挑みたい」
「子供の頃は、とくに何にも熱中できない子やったんです」
気恥ずかしそうにそう語るのは、映画監督の阪元裕吾(26)だ。大学時代から本格的に映画を撮り始め、発表した商業映画は『ある用務員』『ベイビーわるきゅーれ』など含め、現在5作。空手などの武術を想起させる本格的なアクション、バイオレンス作品に定評があるその作風は、20代にしては硬派に思える。しかし、彼が映画を撮り始めたきっかけは、かなり単純なものだったという。
「高校生の頃に、映画『桐島、部活やめるってよ』がヒットしてたんです。子供の頃から映画はよく観てましたけど、一緒になって映画の話をできる友達はいなかった。でも、『桐島〜』は、ラジオやTwitterでも話題になってた作品だったから、周りのクラスメイトたちもけっこう観ていて、この作品をきっかけに映画の話ができる友人がワッと増えたのがすごく楽しかった。
その延長で、高校時代にただのビデオカメラで友人4〜5人と『帰ったはずの友達が何度もこたつから出てくる』というギャグホラーみたいなものを撮って文化祭で上映してみました。これが初めて撮った映画ですね」
もともとは、バイオレンスやアクションがある映画よりもコントのような作風を好んでいたという。
「高校の時は演劇部に入っていたので、高校演劇の大会を観る機会が多かったんです。高校演劇だとどうしても社会問題を題材にした作品が評価されがちなんですが、僕は地区大会で落とされてしまうような、『西遊記』のパロディものとかのほうが面白かった。本当は『東京03』のコントのような世界観が好きだったんですが、高校ではやってる人がいなくて」
アクション映画を撮るようになったのも、そういった面白いものを撮りたいという考えからだという。
「アクションは大好きだけど、日本で、ストレートな洋画のような撮り方をしても埋もれてしまう。ガシガシのアクションシーンがあるからこそ、間の抜けた会話がより面白くなるんじゃないかと思っていて。その二つのギャップが強みかなと。今思えば、僕が子供の頃って、『ダイ・ハード』や『スパイダーマン』が流行っていて、テレビでよく放送されていたんですよね。
夏休みの時期に〝3週連続ターミネーター祭り!〟とか、今じゃちょっと考えられないですけど(笑)。世代的にアニメじゃないそういった映画をよく目にしていた気がします」
大学生活3年目、ショッキングな作品を追い求めがちだった阪元には、ふと立ち止まる瞬間があった。
「自分の作品が話題になったことで調子に乗ってたんですが、それは僕の作った残酷な映画がショッキングだったからで、何か技術やアイデアを評価されているわけではない。なら、別の方向性を探そうとなった時、自分の作品に共通してあるアクション要素を伸ばすことにしました」
方向性を決めてからは、物語の構成でも新たな試みをしているという。
「とにかく弱いものイジメみたいなことをしないようにしています。アクション映画ですし、とくに悪人を一人作ってボコボコにするのは脚本的にはラクです。でも、今はベタなことはやりたくない。アクションを武器に新しい映画作りに挑みたいです。映画を観ている途中で日常モノからアクションモノに切り替わる作品とか……やってみたいですね〜」
第31回日本映画批評家大賞では新人監督賞を受賞。アクションを武器に〝おもろい〟映画を追求し続ける。
『FRIDAY』2022年7月8日号より
- 撮影:濱﨑慎治