『串カツ田中』新ブランドでの海外進出「再挑戦」の勝算
『串カツ田中』の新ブランドが米ポートランドにオープン
全国に300店舗以上を展開する、串カツの人気ブランド『串カツ田中』を展開する『株式会社串カツ田中ホールディングス』が、6月25日(土)に新業態『TANAKA』をアメリカ・ポートランドにオープンした。現地に設立した子会社『TANAKA INTERNATIONAL INC.』が運営する。
今回の『TANAKA』は従来の「串カツ居酒屋」ではなく「カフェ」。店内で焼き上げたミルクブレッドを使った揚げたての「カツサンド」や「メンチカツサンド」を中心に、様々な自家製のパンやケーキと一緒においしいコーヒーを楽しめるという、これまで日本では展開していない新たな業態となる。
常に時代の変化をキャッチしてきた『串カツ田中』
2008年、東京・世田谷で産声をあげた『串カツ田中』は、大阪の串カツという文化を日本全国に広めるべくチェーン店業態に落としこみ、2012年からはフランチャイズ展開も精力的に行い国内で出店を重ねてきた。2018年にはいち早く、居酒屋チェーンとしては異例の「全面禁煙化」に着手し、ファミリー層の取り込みにも成功して客層の幅を広げた。
コロナ禍においてもスマートフォンによる非接触オーダーや、ソースの容器変更、さらには来店出来ない人たちのために、ECサイトで冷凍串カツの販売も開始。また居酒屋需要の減少が顕著となった2020年からは、「親子丼」や「オムライス」などを主力商品とする、鶏肉と卵をテーマにしたレストラン『鳥玉』の展開をスタート。さらに、高まる健康志向に合わせて、2021年には串カツの衣を糖質40%オフのものへとリニューアルするなど、常に時代の変化をキャッチしながら成長を続けてきたのが『串カツ田中』だ。
なぜ日本の外食企業は海外を目指すのか
今回『串カツ田中』がアメリカ市場へ再びチャレンジするのはなぜなのか。その背景には世界の経済状況がある。日本は長引く不景気によって、世界的にみても物価が安い国になった。特に食の分野においては世界に類を見ないほど安価で高品質なものが食べられる国と言っても良いだろう。一方、海外では日本食の需要が年々高まっており、日本と同じ料理を日本よりも高い販売価格で提供することが出来る。不況で消費が冷え込み、今後ますます高齢化社会となる日本よりも、活況な海外のマーケットへ舵を切るのは当然のことだろう。
これまで日本の外食チェーンの多くが海外へと進出している。日本国内で1,329店舗を展開するカレーチェーンの『カレーハウスCoCo壱番屋』は、1994年より海外出店を開始。アメリカ、中国、タイなどを中心に13の国と地域で132店舗展開(2022年2月末現在)。ラーメンチェーンの『一風堂』は、2008年のアメリカ出店を皮切りに、アジア、オセアニア、ヨーロッパなど15の国と地域で277店舗を展開(2022年3月末現在)、日本国内の129店舗を大きく上回っている。
また、牛丼チェーンの『吉野家』は、アメリカをはじめ中国や台湾、マレーシア、シンガポールなどに次々と出店しており、その店舗数は日本国内の1,190店舗に迫る974店舗まで成長(2022年2月末現在)、今後は海外で1,500店舗を目指している。さらに、うどんチェーンの『丸亀製麺』などを展開する『トリドールホールディングス』は、海外の人気外食チェーンブランドを次々と買収して海外展開を加速化。国内約1500店、海外約4000店の店舗展開を目指している。
日本の「Katsu」が海外を席巻している
実は『串カツ田中』も、2014年にアメリカ・ロサンゼルスに実験的に出店して海外でのチェーン展開を模索したが、その後はハワイとシンガポールにも出店したもののいずれも撤退した過去がある。今回の再挑戦にあたり「お酒メインの居酒屋では文化的な違いもあり、アメリカでは受け入れられにくく多店舗展開しづらい」(串カツ田中ホールディングス)という理由から、新たな業態であるカフェブランドを構築するに至ったという。
看板メニューにカツサンドを据えた背景には、海外での「Katsu」ブームがある。アメリカでは和食を含む日本料理の人気が高く、中でも「Sushi(寿司)」や「Ramen(ラーメン)」はアメリカの食文化に浸透し、ボーダーレスな世界観で独自の進化を遂げつつある。そして今、欧米を中心に新たな日本の食文化として人気を集めているのが「Katsusando(カツサンド)」なのだ。
海外のKatsusandoブームは、まずオーストラリア・シドニーから火がついた。2019年にはアメリカにも上陸し、ニューヨークではカツサンド専門のレストランが人気となり、次々とカツサンドを提供する店が増えた。イギリスやフランスなどではカツサンドのみならず、カツカレーも人気を集めている。世界では日本発祥の「Katsu」がブームになっているのだ。
串からサンドへ形を変えたカツで世界に挑む
現在、欧米で人気を博しているKatsusandoの多くは、日本のフライやカツサンドに影響を受けた現地のシェフなどが作ったもの。日本で串カツ文化を広めてきた『串カツ田中』としては、得意分野のカツで海外に負けるわけにはいかないだろう。
アメリカにオープンした『TANAKA』のカツサンドのソースは、長年『串カツ田中』で愛されてきたレシピを継承し、化学調味料不使用でヴィーガンにも対応出来るよう、植物性食材で再現。カツに使用する衣のパン粉も自家製パンから作るという。具材も豚だけではなく、鶏や魚、牛、さらにはヴィーガン等の数種のサンドを用意し、海外のKatsusando市場のニーズに合わせた商品に仕上げた。また串カツと違い、サンドイッチはテイクアウトやワンハンドで外で食べるのにも向いており、欧米の食文化にもマッチしているだろう。
果たして日本のカツサンドは欧米のKatsusandoに勝てるのか。『串カツ田中』の新たなチャレンジに注目だ。
- 取材・文:山路力也
フードジャーナリスト・ラーメン評論家。『Yahoo!ニュース個人』オーサー/著書『トーキョーノスタルジックラーメン』他/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら、テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で活動中。