孤独死保険が激増の背景 事業者が語る「凄まじい現場と価格競争」 | FRIDAYデジタル

孤独死保険が激増の背景 事業者が語る「凄まじい現場と価格競争」

ノンフィクション作家・石井光太が日本社会の深層に迫る!

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孤独死の現場は悪臭や散乱した遺品などですさまじい状況になる(画像:リスクベネフィット提供)

現代の日本で活気づいている孤独死保険。【前編:孤独死保険「需要急増」の背景】に続き、その生々しい実情をリポートする。

特殊清掃事業を行うリスクベネフィットの代表・惟村徹によれば、コロナ禍を経た今も、特殊清掃の現場の入居者は、やはり中年男性が圧倒的に多いという。

特殊清掃の依頼は、一年のうちで夏場がもっとも多い。

孤独死そのものの件数は、一般の死と同じように12月~2月の寒い時期に多く、6月~9月の暑い時期は少ないとされている。だが、夏場は冬場に比べて何倍も腐敗のスピードが速まるので、結果として依頼が夏に集中するのだ。

惟村は言う。

「最近は、未婚の若い世代が多いので、30代、40代でも孤独死することがあります。若い世代は、特に生活が乱れているケースが多い印象ですね。

家に入ると、コンビニ弁当やカップ麺の容器や、ビールの空き缶が足の踏み場もないほど散らばっているようなことがあります。社会的に孤立し、生活習慣の乱れによって健康を害し、若いのに急死するというパターンです」

亡くなった人により違う腐敗臭

特殊清掃の現場の腐敗臭も、生活にかかわってくるという。糖尿病の人だと甘くて重たい臭いがし、精神安定剤などを大量に飲んでいる人はケミカル系のつんとした臭いがするそうだ。特殊清掃の仕事を重ねていくうちに、現場に入った瞬間に、入居者の生活スタイルまで思い描けるようになるらしい。

「あとは、タワーマンションが増えたことで、そこからの依頼もあります。タワマンで大変なのは、内廊下とエレベーターですね。汚れた家財道具を運び出すだけで、しばらく廊下やエレベーターに臭いがついてしまうのです。

ですので、廊下まで臭いの処理をしなければならなくなりますし、エレベーターは使用できないので20階、30階という階段を上り下りした上に、同じく臭い消しまでしなければならない。当然、かかる費用もかさんでいくことになります」

孤独死保険の存在は、特殊清掃業者にとっても利便性が大きい。だが、保険会社によっては、使い勝手の悪さを感じることもあるそうだ。

問題は、保険の審査が下りるまでの期間だ。

特殊清掃が必要な孤独死の場合、依頼があった時点で現場はかなり凄惨な状態になっている。大量の虫がわいて、近隣にまで腐臭が広がっていることも珍しくない。

オーナーが保険適用の申請をした場合、保険会社が確認するまで現場をそのままの状態にしておく必要がある。本当に孤独死なのか、どういう状態にあるのか、清掃にかかる費用は妥当かといったことを、保険の条件に照らし合わせて決めるのだ。

ところが、この審査が、保険会社や現場の状況によっては短時間で終わらないのだ。1〜2週間かかってしまうということも少なくない。

審査に時間がかかれば、それだけ特殊清掃の作業が遅れることになる。その間に、遺体の腐敗が進めば、その分費用が加算されるし、同じアパートやマンションの住民にも迷惑をかけることになる。

特殊清掃業者によっては、何もしないところもある。だが、リスクベネフィットは被害を最小限に収めるため、保険会社の許可が下りる前に、ひとまず消毒剤の散布や、簡易の臭い消しを施すことにしているという。場合によっては、オーナーや不動産会社の代わりに、保険会社との交渉を行うこともあるそうだ。

惟村は言う。

「孤独死保険はかなり広まりましたが、現場によって状況がかなり違いますし、保険会社の担当者の知識にも差があるので、常にスムーズにいくわけではありません。ともすれば、保険会社の都合のいい方向へ持っていかれることにもなりかねない。

孤独死の現場を一番熟知しているのは、うちのような専門の業者です。なので、業者がどこまでかかわって、どこまで適切な対応をするかどうかが、孤独死保険の効果を左右することになるのです」

懸念するのは、現在の特殊清掃業界が飽和状態にあることだ。

10年くらい前から増えはじめた特殊清掃業者は、今や全国津々浦々に広がった。業者の数は、需要を大幅に上回っており、生き残りをかけた熾烈な戦いがくり広げられている。

今後の孤独死の世界

それは業界の価格競争を生んでいるのだが、価格が下がれば下がるほど、サービスの質が落ちつつある。それゆえ、せっかくの孤独死保険が適切につかわれないという事態が起こりつつあるのだ。

これを踏まえると、オーナーにせよ、不動産会社にせよ、遺族にせよ、孤独死保険がかかっているからこそ、それを正しくつかいこなせる業者を選ぶ力が求められているといえるだろう。

日本における孤独死の世界は、今後どのようになっていくのか。

惟村は言う。

「少子高齢化や未婚世帯率が上がるにつれて、一人で亡くなる人の割合が高まる傾向にあると思います。ただし、孤独死をいかに早く発見するかということについては、まだまだ社会として改善の余地があると思います。

たとえば、IoTの活用です。家の中で一定期間水がつかわれないとか、ドアが閉まったままといったことを監視ソフトが感知したら、親族や支援者に連絡がいくようにする。そうすれば孤独死は避けられなくても、特殊清掃の必要はなくなるかもしれません」

たしかにIoTの利用によって、孤独死が起きたとしても被害を最小限におさえることは可能だ。

そう考えると孤独死を防ぐ対策と同時に、特殊清掃が必要な状態を生むことを防ぐ対策が同時に求められるのかもしれない。

(文中敬称略)

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

  • リスクベネフィット提供

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