鮫島浩×望月衣塑子・徹底対談① 新聞報道が凋落した「特殊背景」 | FRIDAYデジタル

鮫島浩×望月衣塑子・徹底対談① 新聞報道が凋落した「特殊背景」

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鮫島氏(右)と望月氏の対談は2時間に及んだ

今、注目のジャーナリストが2人いる。著書『朝日新聞政治部』(講談社)が4万部を超えるヒットとなっている元朝日新聞政治部デスクの鮫島浩氏(50)と、菅義偉官房長官(当時)への鋭い質問で話題となった東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏(46)だ。そんな2人が『FRIDAYデジタル』でガチンコ対談。記者クラブの問題点から参議院選挙の争点まで話題が広がった対談の様子を、3回に分け紹介する。その第1回だ。

望月 鮫島さんの『朝日新聞政治部』、興味深く読ませていただきました。デジタル化で世界のジャーナリズムがどんどん進化しているのに、逆に日本のメディアがなぜ劣化しているのか、明快に示されています。

鮫島 ありがとうございます。そこにこの本を書いた理由があります。新聞が面白くなくなったり、政治報道が陳腐に見えるようになったのは、変わるべき時に変わろうとしていないからだと思います。

望月 その一つが「番記者制度」や「記者クラブ制度」ですよね。

鮫島 その通りです。閉塞的な記者クラブの空気を良い意味でまったく読まない望月さんの大胆で豪快な質問で、菅官房長官の記者会見が劇的に面白くなったように、実は報道はいかようにも変われるはずなんです。しかし、今回の参院選報道を見ていてもいっこうに面白くならない。それはなぜなのか。参議院選の選挙報道を例に、なぜオールドメディアの政治報道がこんなにヘボいのかを二人で考えてみましょう。

上から目線の報道の弊害

望月 いいですね! 私は社会部記者ですが参議院選の取材にも参加していて、実は議席獲得が現実味を帯びている新勢力「参政党」をウォッチしています。もちろんそこは仕事でやっているわけなので、中立性や公平性が求められています。ところが、鮫島さんは「れいわ新選組」に注目されていて、ご自身が立ち上げた報道サイト「SAMEJIMA TIMES」では「れいわ推し」を表明しています。あれには驚きました。

 鮫島 そうなんです。これは既存メディアの傍観報道が、まったく面白くないという問題意識から始めた試みです。記者が自分の立場を表明せずに、主体性もなく「これが政治だ」「これを読んどけ」みたいな上から目線の報道が政治をつまらなくしています。この傍観報道とはどこにも加担しない客観中立のことなのですが、そもそも中立なんて報道は存在しません。

望月 誰に取材するか、どの政党の話を記事にするかを決めるだけで、価値判断があるわけですからね。

鮫島 私もせっかく新聞記者からフリーのジャーナリストになったのだから、違和感のあった客観報道なんてもうやめようと。どうせなら、さらに踏み込んで自分が支持する政党を表明し、その理由を明確に示す主観的な政治報道に挑戦しようと思ったわけです。

望月 かなり踏み込みましたね。私も街頭演説を取材していて、ある候補者の応援演説にひろゆきさん(西村博之氏。『2ちゃんねる』開設者)が来ていたことが報じられました。著名人で話題になるから報道したのでしょうが、誰の候補者の応援に来たのかは報じられません(応援したのは乙武洋匡氏)。選挙期間中の中立性という理屈は分かるのですが、読者や視聴者にとっては肝心なところが伝えられないという違和感が残るでしょう。

対してSNSを見れば誰の応援に行ったかがすぐに分かるのですから、既存メディアの報道なんて見る必要がありません。海外に目を向ければ『ニューヨーク・タイムズ』でも『CNN』でも『FOXニュース』でも、支持政党を鮮明にしてガチンコの政策論争が展開されています。

なぜ日本のメディアはこれができないのか。そこには閉塞感があると思いますが、『朝日新聞政治部』に詳しく綴られた吉田調書事件(福島第一原発事故に関する吉田昌郎元所長の「吉田調書」で騒動となった朝日新聞の報道)はどんな影響を与えたのでしょうか。

朝日新聞を退社しジャーナリストとして活躍する鮫島氏

鮫島 国家権力や大企業など強者を批判する記者魂を急速に冷え込ませたという意味でも大きな事件だったと言えるでしょうね。もともと朝日新聞は、言いたいことを言う若手を面白がる社風でした。出世競争に半分くらいのエネルギーを使いつつも、報道を面白くしようとか、ジャーナリズムちゃんとやろうよという取材現場のエネルギーを大切にする会社でしたね。私なんか政治部で生意気なことを言って飛ばされつつも、また呼び戻されるみたいなことを何度か経験しています。

望月 上司と折り合わなければ、飛ばされちゃうこともあるけど、忖度しない記者でも可愛がられたわけですね。

鮫島 ところが、吉田調書事件以降はそんな空気は消し飛んでしまった。デスクだった私や現場の記者二人が会社の内外でつるし上げられる。それを見て誰もが、ああはなりたくないと思ったでしょう。それ以降、異論を許さない内部管理が強まっていき、記者が単一化しましたね。デジタル化して多様化していく世界のメディアの潮流とは真逆に、意見や見識の多様性が失われていったのです。

望月 読んでいて、失敗から学び組織を強くするという発想が朝日新聞になかったことが残念でした。

鮫島 しかし、それ以前からの問題として記者を単一化させてしまう番記者制度や記者クラブ制度があり、これが政治報道を味気ないものにしています。官邸にべったり張り付いている政治部記者たちの牙城である官邸記者クラブに社会部ながら乗り込んでいったのが望月さんでした。吉田調書事件は14年ですが、望月さんが官邸で大暴れし始めたのはその後のことで、同業者ながら希望を感じていました。

望月 ありがとうございます。

番記者からの陰湿ないじめ

鮫島 事前通告なしで菅さんに厳しい質問をするから、望月さんはとことん嫌われた。そこで陰湿な番記者たちのいじめもあったとか。

望月 私の質問に菅さんが話を逸らして切り返すなんてことは山ほどありました。私の質問は、意図を説明するので長くなりがちなのです。総裁選に出馬した菅さんが「質問がもっと短ければちゃんと答えられるのに」と切り返されたことがありました。すると周りの番記者だった人たちがドッと笑い出すんです。

総裁選の時だけでなく、それまで官房長官時代の会見後のオフレコの囲み取材で「菅さん、言ってやりましたねぇ」と拍手喝采していたりするわけです。ある時、会見で私が菅さんの政務担当秘書官の名前を間違って聞いてしまったことがあったのですが、それをオフレコの場で「名前間違ってらー」とみんなでせせら笑っていたという話も聞きました。その場で間違いを指摘してくれればいいのに……。

鮫島 陰湿ですね~(笑)。

望月 まあ、その気持ちは分かるんですよ。番記者は菅さんに食い込んで、話をもらわないといけない、他社に抜かれたら裏取りもしないといけない。菅さんの気に入らない私の悪口に同調することで、ネタをもらおうとしているのだろうし、私と一緒に嫌われて「特落ち」すると目も当てられない。私も社会部で県警や特捜部を担当していた時は、苦労しましたからね。

鮫島 その番記者制度の弊害が単一化した報道を生んでいます。ただし、私に言わせればペコペコして政治家に接している記者は、政治部記者としては三流です。政治家はペコペコしてくれる政治記者のことは見下して、情報操作の道具としてしか扱いません。政治家から嘘をつかれない対等な関係を築くには、一度大ゲンカをして、こちらの力量をみせつけるのがいちばんです。

望月 なるほど。鮫島さんはどのように政治家を怒らせるのですか?

鮫島 オフレコ破りをするんです(笑)。

望月 出た!

鮫島 もちろん、それで政治家が一瞬にして失脚しちゃうとか、政治生命を危うくしちゃうとか危険なオフレコ破りではありません。ここが見分けられない記者がやると危ないわけですが。

望月 塩梅というものがありますね。

鮫島 いい塩梅でも政治家は怒ります。呼び出されたときに何を言うかが勝負です。「こんなことを書かれたくらいで怒るなんて、度量の小さな政治家とみられちゃいますよ」「なぜこれがあなたの足を引っ張るんですか? むしろこの話はあなたにとっていい話ですよね」と説き伏せる。

望月 すごい! 政治状況をかなり緻密に分析できていないと、その発言はできない。

菅氏への鋭い質問で注目された望月氏

鮫島 権力闘争に明け暮れている政治家が嫌うのは、弱みを見せることなんです。例えば「悪い」と書かれても大して気にしませんが、「弱い」とか「線が細い」などと書かれたら影響力が一気に落ちちゃうんです。政治家ははそれがいちばん怖い。だからオフレコ破りをされても、取材力や発信力のある記者は敵に回さず付き合っておこうと考えるものなんです。懐の深いところを見せたいからね。

望月 鮫島さんは、菅直人さんや与謝野馨さんの番記者でしたが、みんなケンカしていたんですか。

鮫島 だいたい一度は怒らせていますね。つまるところ政治取材の基本は、小学校の先生にならったように「相手の気持ちを考えましょう」がすべてなんです。そこで先生が教えていないのは「相手はいい人とは限らない。政治家のように悪い人もいる。悪い人の気持ちも考えてみましょう」ということなんですね。相手の気持ちを理解するには、相手の置かれている状況をよく理解し、相手の身になって考えることが不可欠です。そのうえで政治家とケンカする。こうして食い込むわけです。

望月 確かに私も、県警担当時代に刑事部長とケンカしていたな。「なんで教えてくれないんですか!」と(笑)。

鮫島 こう考えると報道は記者の個々の資質が大事だと分かります。ところが、番記者制度や記者クラブ制度は、記者たちが横並びにする圧力がものすごい。もう限界に来ていると思いますね。その限界を可視化したのが望月さんで、だからこの仕組みに純粋培養されている政治記者ほど望月さんに対して陰湿になってしまうのです。

ノルマもゼロ、会議参加自由

望月 記者の資質として大切なのは、やはり伝えたいことがあるということでしょうね。特に政治取材をしていて記者クラブ制度に毒されていない人、つまり官邸クラブで私の味方をしてくれた記者もいるのですが、彼らは必ず自分自身のテーマを持って取材をしていました。

鮫島 朝日新聞の特別報道部では、30人くらいの記者にノルマなんてなかった。デスクから記者への発注はゼロで、毎週水曜日の部会も参加自由。つまりネタがあったら相談に来いということだった。私は記者たちに「1年間で1本も記事を書けなくても仕方がない。元の部署に必ず戻す。だから人事や評価を気にせずに安心して自分の追いかけたいテーマを追ってください」と伝えていました。

望月 それはかえってキツい!

鮫島 特に選挙取材は、記者の主体性を発揮させることでかなり面白くなると私は思っているのです。望月さんは今回の参議院選で、参政党をどのようにウォッチしているのですか?

望月 代表の神谷宗幣さんは、もともと自民党から衆議院選の候補になったこともあって、日本会議とも親交があります。維新の会とも親和性が高く、既存政党に反発して出てきた人たちです。演説もうまくて「子どもたちが自信を持てないのはなぜだ!」と問題提起して、裏にある既得権益層を糾弾している。ただし、最後は愛国心を駆り立てて、排外主義的になっていくので、リベラルの私は危機感を抱いてしまう。

鮫島 面白いですね。私が推しているれいわ新選組は、立憲民主党や国民民主党など民主党の流れを汲むリベラル既存政党が陥ったエリート主義に対抗しています。つまり左派ポピュリズムですね。ポピュリズムというと悪いイメージがあるのですが、本来は大衆の声をくみとるという意味では悪い意味とは限らないんです。学者や官僚らエリートが、大衆が一致団結するのを恐れて悪いイメージを植え付けたんですよ。

対して参政党は、自民党のエリート主義に対抗して生まれた右派ポピュリズムと言えるでしょう。そのポジションはこれまで維新の会が担っていたのですが、大阪で政権を握り既得権層に組み込まれ、ポピュリズムからエリート主義だと目されるようになっている。それに反発する勢力が参政党ということでしょう。世界的にもエリート主義に嫌気がさしてポピュリズムが台頭していますが、日本でもそれが鮮明になってきています。エリートに比べて大衆に圧倒的な票があるわけですから、経済的にシュリンクする時勢にポピュリズム政党が台頭するのは民主主義の宿命でもあります。

望月 なるほど。それは今回の参議院選にどのように影響するのでしょうか。

鮫島 私はれいわが掲げる「消費税廃止」が争点になっていると思います。左派ポピュリズムのれいわが「消費税廃止」を訴えて争点化させることで、立憲民主党のエリート主義に楔を打つ可能性がある。もし、民主党政権時代に消費税導入を言い出した菅直人元首相の側近である福山哲郎前幹事長や、実際に自公との三党合意で消費税増税に踏み切った野田佳彦元首相の子飼いである蓮舫さんが落選するようなことがあれば、今後、野党再編の大きなうねりとなることでしょう。

望月 怖い!! 一寸先はどうなるか、まったく読めないですよね。確かに、鮫島さんの解説は客観中立報道からは絶対に出てこない視点です。

※7月5日14時配信予定「対談第2回」では、有名政治家の素顔や報道の舞台裏を紹介します。

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さめじま・ひろし 71年生まれ。京都大学法学部卒業後に朝日新聞へ入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、与謝野馨などを担当。21年に退社し「SAMEJIMA TIMES」を創刊し連日無料で公開。「YouTube」でも政治解説動画を積極発信している

もちづき・いそこ 75年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後に東京・中日新聞へ入社。経済部、社会部などで活躍。官房長官会見での鋭い質問は話題となった。著書に『新聞記者』『武器輸出と日本企業』(ともに角川新書)など。

  • 撮影濱﨑慎治

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