保管に1000万?東急が一般販売した電車の買い手が決まらない! | FRIDAYデジタル

保管に1000万?東急が一般販売した電車の買い手が決まらない!

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販売された8530号の現役時代。東急電鉄8500系は1975年から導入され、今年度中にはすべて“引退”するという
販売された8530号の現役時代。東急電鉄8500系は1975年から導入され、今年度中にはすべて“引退”するという

電車、売ります。時折見かける鉄道車両の一般販売。古くは営団地下鉄が1991年に引退した丸ノ内線の300形車両6両を一般販売し、そのうち1両を三越日本橋店に展示販売したことで大きな話題となった。筆者の近所でも30年ほど前、京浜東北線で使われていた103系車両が1両飾られていたことがあった。

1両176万円 それ以外にかかる必要経費が莫大だった…

昨年10月に車両の一般販売を初めて行ったのが東急電鉄だ。販売したのは1975年に導入され、田園都市線などで用いられた8500系車両計4両。しかし、応募締め切りから半年以上が経過しても譲渡先が決まっていないのだという。一体、何が起こっているのか。

受付は昨年10月1日に始まり、「8622編成」の8522号・8622号は10月20日付、「8630編成」の8530号・8630号は11月20日付の申し込みで締め切った。東急によれば総応募件数は23件。個人の応募は少なく、大部分は建設業や医療関係の法人からの注文だった。6倍近い申し込みがあり、先着順で対応しているにもかかわらず譲渡先が決まらないのは、鉄道車両の保存が非常に困難だからである。

今回販売する車両は1両あたり176万円で、これだけ見るとコンパクトカーと同程度の価格に見えるが、自動車のように気軽に買えるものではない。その他にトレーラーやクレーンなどの輸送費用、レール・枕木・屋根の設置などの整備費用が必要となり、少なくとも1000万円以上かかる計算だ。これは応募者の負担になる。

また古い鉄道車両特有のアスベストの問題がある。8500系車両ではアンダーシールと呼ばれる防音・防錆塗料にアスベストが含まれており、法律で譲渡が規制されていることから除去作業が必要になる。具体的な費用は非公表とのことだが、これも相当な額になるだろう。

物理的に輸送、設置ができないケースもある。8500系車両は1両あたり長さ20メートル、幅2.8メートル、重量約30トンにもなる。これを運ぶ大型トレーラーが希望する設置場所に乗り入れられるか、またこれを吊り上げる大型クレーンが作業できる環境かなど制約も多く、また地盤が軟弱だと30トンもの重量物を設置できないなど、お金だけでは解決できない問題もある。

もうひとつのハードルが購入後のメンテナンス費用だ。これまで一般に譲渡された鉄道車両には、適切な管理やメンテナンスがなされず、時間の経過とともに荒廃してしまったものも少なくない。いくら手元を離れたとはいえ自社の車両が朽ちているのはイメージが悪いし、崩壊して被害が発生したらややこしい話になる。

8500系車両の車体はステンレス製であり、鋼鉄製の車両とは異なり錆による腐食はないが、雨漏りによる内装材劣化等が生じる可能性があると東急は説明する。そのため定期的なメンテナンスの実施や、風雨を避けられる屋根の設置または屋内での保管が理想としている。

「適切に保存していただくことが可能と判断できる方へ販売」

そのため東急は募集時に「購入に当たり様々な制約があることから、弊社内で審査の上、車両を適切に保存していただくことが可能と判断できる方への販売とさせていただきます」との案内を付け加えており、購入希望者に対して上記の条件を満たしているか審査を行っている。つまり、この審査が長引いているため譲渡先が決まらないのである。

申し込みは先着順だが、審査が通らなかった場合は次点の希望者に権利が移り再度、協議を行う流れだ。ただ既に23件の全ての希望者との協議を済ませた上で、数件について実現に向けて具体的な協議を継続しているというから、実際には多くの協議が同時並行で進みつつ、様々な条件をすり合わせているのだろう。

やはりネックとなっているのは、輸送・設置に関する費用と、アスベスト除去費用の負担だそうだ。初めての一般販売で想定外の事態や苦労はあったかという問いに対して東急は「保管場所等の条件によって費用に幅があるため目安となる総費用額を事前にアナウンスすることが出来ず、協議の初期段階において概算総額で断念される相手先が多かった」と反省の弁を述べている。

東急からすれば、ここまで苦労するのであれば一般販売はもうこりごり、なのかもしれないが、今回得たノウハウを活かして、引退車両の終の棲家を探す取り組みを継続してほしいものだ。

  • 取材・文枝久保達也(鉄道ジャーナリスト)

    埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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