日本代表正FW争いに終止符⁉鄭大世が惚れこむ正統派ストライカー
ドイツ、韓国と世界をリーグを渡り歩いた名FWが明かす、日本代表の得点力不足解決のキーマンとは

川崎フロンターレなどで活躍し、“人間ブルドーザー”の異名を取ったパワー系フォワード(以下FW)を覚えているだろうか。
J2、FC町田ゼルビアに所属する元北朝鮮代表FW、鄭大世(チョンテセ・38)。`06年のプロデビュー以来、クラブや代表で通算170得点以上を叩き出してきた稀代のゴールハンターである。歯に衣着せぬ物言いでメディアにも引っ張りダコだった鄭大世が今回語るのは「森保ジャパン」の正FW論争についてだ。
6月の国際親善試合4連戦では、パラグアイとガーナにそれぞれ4-1で勝利したが、W杯優勝候補のブラジルには0-1、格下のチュニジアには0-3で完敗。いずれも枠内シュートは「0本」だった。日本には何が足りないのかーー。その問いに、鄭大世が切り込む。
センターFWは鹿島のエース一択!

現在、日本代表には絶対的エースが存在しない。実際に4連戦でもFW登録の4選手全員が出場ピッチに立った。しかし鄭大世は「選択肢は1つしかない!」と断言する。
「まず大前提として話しておきたいことがあります。この得点力不足、FW不足というのは、どの国も共通の悩みなんです。FWってプレッシャー、ハンパないんすよ!(笑) 1試合でも0点だと仕事してないって言われる。常に“得点力不足”の議論は終わらないんです。だからこそ、僕にこういうインタビューオファーが来るっていうのもあるんですが(笑)。
話が逸れましたが、今回の4連戦を見たうえで感じたのは、ゴールを取りたいなら鹿島アントラーズの上田綺世(23)しかいないでしょう」
上田といえば今季J1で10ゴールを決め得点ランキング首位に立つ。最近ではベルギー1部のセルクル・ブルージュへ移籍の移籍が報じられたばかりだ。しかし、6月の国際親善試合で出場したのはガーナ戦のみ。森保一監督(53)が考えるFWの序列は高くはない。それでも鄭大世は「上田綺世の一択」と強調した。
「東京五輪で日本は3位決定戦のメキシコ戦に敗れてメダルを逃しましたが、上田はその試合で批判を受けていた記憶があります。A代表デビューした‘19年の『コパ・アメリカ』でもチャンスを外しまくって“戦犯”と言われました。
でも僕の感想は全く逆です。上田の動きを見て『コイツはすごい』と思ったんです。全ての動きがゴールを狙っている。一言で言うと、ゴールの匂いがするんです。海外リーグを見てください。得点王になった選手は、むしろゴールを外しているほうが多いんです。たとえば下位のチームで、1試合に1回しかチャンスがなかったとしたら、なかなか得点を決められない。これは確率論で、チャンスが多ければ多いほど、ゴール数は増えます。
日本ではよく“決定機を決めきる力が必要”って言われますが、それは全くの間違いですよ。決めきるんじゃなくて、どれだけチャンスを作るかです。そういう意味では上田のゴールへの嗅覚は優れています」
プロが惚れる、唯一無二の技術

日本代表のトップといえば大迫勇也(32)の名が思い浮かぶ。他にも古橋亨梧(27)、浅野拓磨(27)、前田大然(24)など海外でプレーする選手ばかり。そういう選手と比べて、上田のどういう部分が優れているのか。
「オブザボールの動きが抜群ですよね。動き出しのタイミングやコース取りは、僕でも予想できない。本当はめちゃくちゃ難しいことをやってるのに、上田がやると簡単に見えちゃうんですよ。なんで世間的には『ただシュートを外すヤツ』みたいなイメージになってしまうわけです。だってドリブルして切り込んで、シュートまで打つほうが派手に映りますからね。
唯一の弱点は足元。ボールをしっかりとキープできるようになれば、もっと幅が広がるでしょう。まぁ僕としてはそういう不器用なところが可愛く見えたりしますが(笑)」
森保監督の戦術にも合うと太鼓判を押す。
「日本代表の得点シーンで多いのが、伊東純也(29)や三笘薫(25)がサイドの深いところからセンタリングをあげるパターン。上田選手はゴール前のどんなに狭いスペースでも、ディフェンダーの裏を狙っています。ペナルティーエリア中での判断も落ち着いてできている。こういう選手がいると、サイド攻撃が機能しやすい。
あと、試合後のインタビューでよく『何も考えてない』と言ってますが、実際に頭で考えて動くタイプじゃなくて本能で動くタイプだと思います。でも、そういう選手のほうが大舞台ではプレッシャーに潰されないもんなんです。メンタル面を見ても、日本代表の得点力不足を解消してくれるのは、上田選手しかいないと思います」
6月21日、定例会見で森保監督は「彼(三笘)が戦術なんだ」と語ったことがニュースになった。鄭大世は、三笘についてはどう考えているのか。
「三笘選手の使い方は、僕はいいと思っています。近距離スナイパーですよ。ブラジル戦では彼のドリブルも止められていましたが、それ以外のチームでは、ほぼ通用していましたよね。基本的には彼のことは止められないんじゃないかな。僕がどう評価していいかわからないレベルにあります。正直、歴代の日本代表選手の中でも1番じゃないですか?
ただ、本人の中にはジレンマがあると思います。スタメンで出るためにはどうすればいいかという自分なりの課題があるのでしょう。でも途中から出るほうが活躍できてしまう。メディアに向けては『自分の役割を果たすため』と言っていますが、絶対に心の中ではそうじゃない。なんなら90分間、あのドリブルを続ける姿が見てみたいです」
日本代表のW杯の展望
カタールW杯のグループリーグで、日本代表はドイツ、コスタリカ、スペインと対戦する。強豪ぞろいの組み合わせだが、鄭大世の予想を聞いてみた。
「日本はグループリーグ突破も厳しいって言われていますが、意外といけるんじゃないかなって僕は見ています。そもそもこの前のパラグアイを相手に4点獲ったのは素直にすごいと思いましたし、同組のドイツもスペインも今はかつての強さはありません。
さらに、この2国は組織力で勝負してきます。強引に1対1を仕掛けて来るのではなく、あくまで“美しく崩す”ことを目指している。一人一人の能力ではなく、組織で対抗してくるなら、日本がそこまで大きく崩されることはないと思います。ただ、ドイツもスペインも絶対に隙は見せてこないので、先制されるかどうかで、グループリーグ突破が決まる気がしますね。点がなかなか入らない展開になるんじゃないでしょうか」
一方、あまり注目されていないコスタリカこそ、要注意だと予想する。
「一番やりにくい相手じゃないですか? 組織的な戦い方はもちろんですが、フィジカルなどにモノを言わせて強引に突破することが許されているチームだと思うので、それに日本がうまく対応できるかだと思います。全体的にグループリーグ突破の可能性は低いにしても、悲観的になることはないと見ています」
日本代表は7月に韓国、中国、香港との「EAFF E-1 サッカー選手権」に臨む。さらに9月の欧州遠征ではFIFAランキング3位のフランス代表との試合も予定されているという。W杯本番まで5ヵ月を切った中、森保監督はFW論争にどういう答えを導くのだろうか。

取材:金明昱(キム・ミョンウ)写真:結束武郎