斜面に太陽光パネルがびっしり!”日本一日照時間が長い町”を歩く
「そりゃあ不気味だよ。あんなに大きなパネルが山の中でギラギラ光ってるんだから」
自宅の裏山を見上げながら初老の男性は、そう溜息をついた。山梨県北杜市――。八ケ岳や南アルプスを代表する甲斐駒ケ岳などに囲まれた自然豊かなこの地を、私とカメラマンが訪ねたのは6月上旬のことだ。日本一日照時間が長いとされる同市は、太陽光発電施設の“聖地”の一つとしても知られている。
「今年の夏と冬は電力需給が非常に厳しくなる」
首相官邸で開かれた電力需給に関する検討会合の後、松野博一官房長官が、7月1日から家庭や企業に節電を要請したのは6月7日のこと。政府の節電要請は実に7年ぶりのことである。
既に全国では猛暑日が続き、政府は6月27日に初の「電力逼迫注意報」を出した。関東では6月の観測史上で最も高い気温が続き、政府は引き続き節電を広く呼び掛けている。
その政府の説明によれば、7月以降の電力需給は午後5時から午後8時頃に厳しい状況になると見られ、日中については、太陽光発電の導入が拡大している影響で、需給は緩和しているという。
昨年12月、資源エネルギー庁がまとめた資料によると、日本の太陽光発電容量は、中国、アメリカに次いで世界第3位。それだけ日本で太陽光発電が広まっているといえる。そして現在もなお、日本各地でメガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電施設の建設が進んでいるのだ。
だが、こうした太陽光発電が全国各地で野放図に広まる状況を、手放しで喜べないだろう。
太陽光発電を巡っては、豪雨による崩落事故や、景観・環境破壊、土壌汚染や使用済み太陽光パネルの不法投棄など、全国各地でさまざまな問題が後を絶たないからだ。問題は、それだけではない。
都内で太陽光事業に携わる経営者はこう話す。
「太陽光発電事業は、用地選定から土地の確保、発電設備の売買まで、怪しい業者やブローカーが入り込みやすい世界です。発電所の事業者がペーパーカンパニーだったことが後にわかり、何かあったときに連絡が取れないケースや、急に業者が倒産し、発電所を放置したままにするケース。いつの間にか発電所が転売されて外国資本になってしまうことさえある。投資的な側面があるため、太陽光事業を騙った詐欺話も多いのです」

こうした問題が山積する今も、東京都の小池百合子知事が、新築住宅に太陽光発電のパネルの設置を義務付ける条例改正案の制定を検討していることが取り沙汰されており、ますます太陽光発電を巡る議論は高まっている。
全国で太陽光発電の建設ラッシュが始まったのは、12年に政府が再生可能エネルギーの普及を目指して導入した電力の固定買い取り制度(FIT)がスタートしてからだ。山梨県もまた、長い日照時間に加え、年間降水日数が日本で二番目に少ないという太陽光発電にとっての好条件が揃っているため、県内各所に発電所が乱立し、今や全国有数の太陽光発電集積地となった。
「日本一日照時間が長い」とされる山梨県北杜市を訪れた私が最初に目を奪われたのは、中央自動車道長坂インターを降りてからすぐの県道・北杜八ヶ岳公園線だ。道路の両脇にズラリと並ぶ黒い太陽光パネルは、強い反射光を放っており、運転中のドライバーの視線を釘付けにしていた。実は、この発電所の事業者は、地元の企業や個人ではなく、東京都目黒区に本社を置く、パチンコ関係の企業だ。
「発電施設の多くが県外の業者ですよ。ああやって大きな発電所を作っても、この辺りの住民の電気代が安くなるわけでもないからねえ」
そう話すのは、市内で農業を営む男性だ。彼の言う通り、市内各地で、県外の事業者が持っている太陽光発電を目にした。
例えば、広大な田畑が広がる北杜市高根町では、巨大墓地を取り囲むように、太陽光パネルが敷き詰められていた。金網に囲われた施設には、防犯カメラが設置され、物々しい雰囲気を醸し出している。フェンスに取り付けられた看板を確認すると、この事業者は福井県の会社であることが記されていたーー。
(後編に続く)


取材・文:甚野博則(ノンフィクションライター)撮影:郡山総一郎