ウクライナ戦争で浮き彫りとなった「世界的穀物不足」の行方 | FRIDAYデジタル

ウクライナ戦争で浮き彫りとなった「世界的穀物不足」の行方

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先進国では、人間が食べる穀物以外にも、牛や豚などの家畜の餌もトウモロコシなどの穀物が多く輸入されている

ウクライナ戦争でにわかに食糧問題に注目が集まっている。

輸出の停滞や作付けができない、といった原因で穀物価格が上昇。結果、経済基盤がぜい弱な貧困国が食糧を購入できず、深刻な飢餓問題に直面しているというものだ。ロシア、ウクライナは7月22日に穀物輸出再開の合意文書に調印したものの、その翌日23日にはウクライナ南部の貿易拠点であるオデーサ港をロシア軍が攻撃。再び輸出再開は不透明になっている。

とはいえ、飢餓に直面しているのは貧しい国で、あくまでも“対岸の火事”というのが我々日本人の一般的な認識だろう。価格は上昇するにせよ、食糧が手に入らないということは日本では考えられないからだ。実際、米国農務省で公表しているデータを見る限り世界の穀物の需給はバランスが取れている。しかし、我々が「前提」としているデータに異を唱えるのが立命館大環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授だ。

「米国農務省が提示している消費量というのは、人間が食べる分だけじゃなくて、家畜の飼料やバイオ燃料として消費される分も含まれており、主食など人の食用として消費されるものは全体の43%程度です。問題は全体の約36%を占める家畜や養殖魚のえさとなる分。経済的に貧しかった国々が豊かになっていくにつれて肉を大量に消費するようになってきている。結果、家畜の飼料になる穀物の量がドンドン増えてきている。つまり人間の食べる分が牛や豚にドンドンとられているという事なのです」

家畜は穀物の消費という点では非常に効率が悪い。たとえば牛の場合、牛肉1kgの生産に必要な穀物の量はとうもろこし換算で11kg、同じく豚肉では7kg、鶏肉では4kg。これまで穀物中心の食生活だった人たちが牛肉や豚肉を食べだすと、むしろ穀物の消費が急増していくというわけだ。

「みんなで肉を食べることを止め、牛や豚の生産農家をつぶしてでもみんなで穀物を食べましょう、という事ができればいいですが、そうはならないのが現実です。なぜか?牛や豚の生産、流通などで経済が成り立っているという点を抜かしても、人間は一度おいしいものを食べたらもうマズいものは食べられないからです」(高橋特任教授)

一方、経済的に急成長を遂げた中国の穀物輸入は急激に伸びている。大豆の輸入量は2010年には5000万トンだったものが現在は1億トンを超え、小麦、トウモロコシに至っては2010年にはそれぞれ100万トン程度だった輸入量が、2021年には小麦が1000万トン、トウモロコシが2800万トンと十~数十倍という異常な伸びとなっている。大豆、トウモロコシは多くが飼料用で、本来食用の小麦も飼料として転用できることを見越して輸入されている。中国が消費するこの膨大な輸入穀物は、主に牛や豚の腹の中に消えている。もちろん家畜が猛烈に消費する穀物を増産できればいいのだが、今の技術でそれは不可能だ。

「第一次世界大戦前の1906年にドイツで空中窒素固定法というものが発明されました。それまで不可能だった空気中にふんだんにある窒素をアンモニアとして取り出すことに成功したのです。これによって肥料の三大要素である窒素、リン酸、カリウムのうち窒素を無尽蔵に作ることができるようになり、食糧の生産が飛躍的に伸びました。しかし、それ以降画期的な食糧の増産方法は見つかっておらず、もう地球上での生産能力には限界が来ており100億人分の食糧しか作れません。一方、世界の人口は80億人になろうとしており、すでに約8億人が飢餓に瀕している。にもかかわらず、年に1億人ずつ増えているのです。単純計算でも20年後には食糧の絶対量が不足するのですが、家畜は人以上に増えドンドン食糧を食べてしまいます。あと10年もしないうちに深刻な食糧危機が世界を襲い、お金のない国から国民が餓死していくことになると思います」(同前)

ウクライナは世界有数の穀倉地帯だが、戦火によって生産も輸出も停滞しつつある

10年後には訪れるであろう食糧危機でも、今のウクライナ戦争と同じように日本はやはり“対岸の火事”として済ませられるのであろうか?

「米は余っているからなんとかなる、と思っている人がけっこういるんですね。でも、それはパンや麺類を食べている人がたくさんいるからで、なんらかの理由で穀物が輸入できなくなれば米はまったく足りません。日本の食糧自給率は37%しかないのですから」(同前)

主な先進国の食糧自給率を見ると、カナダ266%、アメリカ132%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%、イタリア60%となっており日本は群を抜いて低い。日本は食糧安全保障がまったく機能していないのである。そして、ここにきて起こったのがウクライナでの戦争である。ウクライナは小麦が世界5位、トウモロコシは世界4位の輸出国だが、ウクライナ経済省によれば、ロシア侵攻前に比べ、小麦、トウモロコシとも月間ベースで輸出量が1/4に落ち込んだという。ウクライナだけが舞台の戦争で、これだけの穀物がまるまる世界の市場から消えてしまったのだ。もし、戦争が世界規模になっていれば、日本はたちまち世界の食糧争奪戦に巻き込まれ餓死者が出たハズだ。さらに日本には特有の大きなリスクがある。

「私が一番心配しているのは近いうちに必ず来るであろう南海トラフの巨大地震です。南海トラフ地震の場合、太平洋沿いの工業地帯、名古屋、大阪だけでなく首都圏も壊滅的な被害を受ける可能性が十分あります。工業地帯や人口密集地が軒並み被災するという点で、東日本大震災とは比べ物にならない被害となるのです。港湾や高速道路などのインフラがズタズタになってしまえば、そもそも人口が密集している都市部の人々へ食糧を運ぶことができなくなります」

また、東日本大震災の被災地は、基幹部品・素材の工場の集積地だったため、直接被害を受けなかった地域においても、これら部材を原材料として使っていた企業の生産に支障がでた。

「部品が手に入らず、工場も破壊され、港湾施設も使えないとなれば、もう日本は製品を海外に売ってお金を稼ぐことができない。みるみる貧しい国に転落してしまうでしょう。その時、値段が高騰している穀物を買う事ができるのか?私ひとりの杞憂であれば良いのですが、環境史・土地開発史・災害史に基づく災害リスクマネジメントをやってきた私にはそうは思えないのです」(同前)

日本の農業従事者は全人口の1パーセント程度の130万人で、しかもそのうち90万人は65歳以上。そして、あちこちに耕作放棄の水田や農地が広がっている。ウクライナ戦争をきっかけに日本は食糧安全保障に目覚める必要があるのではないだろうか。

  • 写真PIXTA 時事通信社

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