前代未聞の「破産」宣言 大混乱のスリランカでいま起きていること
現地ルポ 怒れる国民は暴徒と化し、大統領公邸に侵入、 首相私邸は放火され、国会議員はリンチに
スリランカは1948年のイギリスからの独立以来、最悪の経済危機に直面している。7月5日にはウィクラマシンハ首相が破産宣告を行った。7月9日には数千人のデモ隊が大統領公邸になだれ込んで占拠し、首相の自宅は焼き討ちされた。私は6月19日、混迷を極めるスリランカに入った。
今までは成田空港から直行便で最大の都市コロンボに飛べたのだが、燃料不足からインドのチェンナイ空港で給油しなければならないということが、スリランカの窮状を物語っていた。
コロンボの中心地にあるラジャパクサ大統領公邸の周囲では、国内の各地から集まった抗議を行う人々が溢(あふ)れており、公邸を警備する治安部隊と睨(にら)み合いが続いている。デモ隊は大統領と首相に対して「直ちに辞任しろ」と抗議する。
「食料、燃料、医療品などすべてのものが不足し、価格が高騰しており国民が瀕死の状態です。こんな酷い状況にしたのはラジャパクサ大統領の責任です」
そう話す若者は70日以上も抗議活動をしている。バスの運行も停止しているため地方から徒歩でやってくる者も多い。
現職の国会議員で僧侶のアタラリイエ・ラサナ・テロ氏は語る。
「ラジャパクサ大統領が就任してから、自分の身内を内閣、州知事、そして国有企業に入れました。腐敗した大統領、その仲間が私腹を肥やし続けたのです。国民にとって無用のインフラ整備に莫大な資金を投入して、今の経済危機を生み出しました」
ラジャパクサ大統領の地元である南部ハンバントタでは中国から融資を受けて、港、国際空港などのインフラ開発を進めた。だが、中国に借金の返済ができなくなり、港は中国企業に99年間にわたりリースされることが決まった。
スリランカ国営の石油会社は多額の債務を抱えており、燃料の輸入ができない状況だ。国内のすべてのガソリンスタンドではガソリン、軽油の入荷の目処(めど)が立たず開店休業の状態。ガソリンスタンドでは給油を待つ3㎞以上に及ぶ長蛇の列があちこちで見られる。ガソリンスタンドの店主に話を聞く。
「燃料の次の入荷の見通しが立たない状況が3ヵ月も続いていて、肉体的にも精神的にもうんざりしています。燃料が入荷しても一人10ℓしか販売できません。放火されることを恐れて兵士に警備をお願いしています」
5月に取材をしたウクライナでも燃料不足だったが、スリランカの深刻さはその比ではない。
「もうここで2日間も給油を待っています。仕事もできず、車内で寝泊まりしています」
三輪タクシーのドライバーは疲労困憊の表情で語った。場所によっては5日間待ってもガソリンが手に入らないということもあり、暑い車内で年配者が熱中症で亡くなる事故が相次ぎ、順番待ちで揉(も)めるドライバー同士の乱闘騒ぎも起きている。ガソリンだけではなくガス燃料も無くなり、調理ができずに休業を余儀なくされるレストランも続出し、一般家庭では薪を使って煮炊きをしている状態だ。
スリランカ東部、アンパーラ県は米や野菜、紅茶の栽培が盛んだが、農家も経済危機の煽(あお)りを受けている。
「化学肥料が手に入らず、かつては1エーカーでトウモロコシが3000㎏収穫できましたが今は500㎏も収穫できません。この状況が続けば我々は餓死します」
トウモロコシ、胡椒を生産する農家は悲痛な声をあげている。稲作農家も同様に肥料不足から稲の成長が半分以下で、今年は米の収穫が絶望的だという。
コロナ禍による観光業の打撃と海外への出稼ぎ労働者からの送金が減ったところに追い討ちをかけるように、ロシアのウクライナ侵攻が物価上昇に拍車をかけた。現在、身の危険を感じて海外に逃亡していると言われている大統領、首相は辞任を表明している。経済危機と食料不足、医療品不足から人道危機の恐れもある。国民の受難はこれからも続く。
『FRIDAY』2022年7月29日・8月5日号より
- 撮影・文:横田 徹(NSBT Japan)
報道カメラマン