当初は匿名報道のテレビが「統一教会」を厳しく報道し始めたワケ
7月8日、凶弾に倒れた安倍晋三元総理。逮捕された無職の山上徹也容疑者は
「母親が“宗教団体”にのめり込んで多額の寄付をしたことで家庭が崩壊。恨みがあった」
と供述している。
これは逮捕されて当日に供述した内容だ。しかしテレビは”特定の宗教団体”という表現を数日間続けた。
「テレビや新聞などが教団名を報じなかったため、ネット上などでは統一教会だけでなく、複数の宗教名が挙がっていました。そんな中、『現代ビジネス』などネットニュースが早々に”統一教会”と断定して報じました。
これによりネットやSNSでは炎上することになり、当時から安倍氏と統一教会のつながりを示すようなメッセージ動画などが拡散されましたね」(ワイドショー関係者)
当初、テレビが『世界平和統一家庭連合』、いわゆる“統一教会”という名前を出さなかった理由はどこにあるのか。テレビ局の報道局スタッフが言う。
「情報の裏取りはほぼ出来ていましたが、警察や統一教会が発表しないかぎり、万が一のことを考えて実名を出すことは控えていました。
しかし統一教会サイドが11日に突如、会見をすると言いだして取材案内が来た。どんな発言をするのか未知数だっために生中継の“体”を取りながら数分間ディレイにして放送したんです。最悪スタジオに下りればヤバい発言は放送に乗りませんから…」
まさに“臨戦態勢”で臨んでいたテレビ局。統一教会は会見で、山上容疑者本人は信者ではないが、母親は現在も信者であると認め、月に1回のイベント参加をしていると話した。しかし‘09年以降はコンプライアンスを重視し、献金などのトラブルもないと主張した。
「テレビでは統一教会の主張だけを放送することは避けなければならないという見解でした。だからこそ、過去の高額な献金トラブル、さらに壺や印鑑を売りつけるなどの手法、合同結婚式などすべてを放送した上で、あの会見を放送しました。
視聴者からすると堰を切ったかのように急に統一教会の放送が多くなり、“なぜ?”と感じたかもしれません。ですが、霊感商法に対応されてきた弁護士さんなどに出演していただき、教団の主張だけでなく両論を発信することにしたのです」(同・テレビ局関係者)
12日からは安倍氏が、統一教会の関連団体へのメッセージ動画を放送したり、被害者を守ってきた弁護士の会見なども放送した。その弁護士らによると、今もまだ多くの献金トラブルがあり去年だけで3億円以上の被害があったという。さらに“聖本”と書かれた黒い本を1冊3000万円で信者に売りつけていることも明かした。
暴力により、命を奪うことは決して許されることではない。だが、その背景になにがあったかを報じることは、報道機関の「使命」のひとつであることを、テレビ局も再認識することになったのではないだろうか――。
- 写真:共同通信