裁判長に「後悔するぞ」…工藤会総裁「弁護士全員解雇」戦慄の背景
特定危険指定暴力団・工藤会(福岡県北九州市)にかかわる公判で、衝撃の事実が判明した。
市民を襲撃したとして4件の事件で殺人罪などに問われている同会総裁・野村悟被告(75)とナンバー2で会長の田上不美夫被告(66)が、弁護士全員を解雇したことがわかったのだ。解任されたのは両被告の弁護人計約10人。21年8月に福岡地裁は「首謀者として関与した」と認定し、野村被告に死刑を、田上被告には無期懲役を言い渡している。
「野村被告は、死刑判決を不服としてすぐに福岡高裁へ控訴します。控訴審の日程は未定ですが、野村被告側が控訴趣意書を提出する期限が今年7月下旬に迫っていました」(全国紙司法担当記者)
「ヒドいなぁ、足立さん!」

工藤会トップの公判は、ものものしい雰囲気だった。昨年8月に福岡地裁101号法定で下された判決では、両被告の言動が物議をかもす。主文を告げられた野村被告は、証言台近くの長イスから立ち上がると足立勉裁判長を睨みつけ、こう威嚇したのだ。
「公正な裁判をお願いしていたんだけどねぇ。こんな裁判あるんか……。アンタ、生涯このことを後悔するぞ!」
ナンバー2の田上被告は、退廷直後にこう言い放つ。
「ヒドいなぁ、アンタ……。足立さん!」
工藤会トップの発言は重い。同会は地元で特別な存在だからだ。「恐れられている」と、北九州市に住む住民が語る。
「工藤会がらみの傷害事件が起き、被害を受けた関係者に事情を聞いたことがあります。すると彼は私の肩をポンポンと叩き、こう言いました。『オマエのためや。何も知らないほうがイイ。オマエの親も兄弟も地元におるやろ。下手に詮索するとヤバいことになる』と。
問題が起きれば一般人に手を出すこともありました。昔のことですが、北九州市内のバーが、『暴力団お断り』の張り紙を玄関に貼っていたことがあるんです。しばらくすると、そのバーは銃器でメチャクチャに破壊されるような目にあいます。工藤会の倉庫には対戦車用のロケットランチャーなど、自衛隊も驚くような武器が保管されているといわれる」
裁判長を威嚇し、今度は弁護士を全員解任。背景には、何があったのだろうか。暴力団事情に詳しい、フリージャーナリストの鈴木智彦氏が語る。
「工藤会側がクビにしたのか、弁護士側から辞めたいと申し出たのか定かではありません。ただ両者に、なんらかの対立があったと思われます。野村被告と面会した暴力団関係者によると、当人は一審は無罪になると確信していたようです。弁護団も無罪を勝ち取れると伝えていたかもしれない。だが、結果は死刑判決だった。弁護団に不信感を持ったとしても理解できます。
弁護団にも不満はあったはず。法廷での両被告の威嚇ともとれる不規則発言も、弁護士としては頭が痛かったでしょう。裁判官の心証が相当悪くなりますから。野村被告は週刊誌に自身の主張を手記として連載していましたが、これも困惑していたと思います。あれだけ堅気に暴力を振るい殺害までしておいて、世論が工藤会の味方をするはずがない。警察を挑発するような記事を出せば、火に油を注ぐだけですから」
弁護士の解雇で、さらに混迷を深めることになった工藤会の公判。控訴審の日程も、再調整される見込みだ。
写真:時事通信社