「人前で自慰行為をやめられない」女性刺殺に至った被告少年の孤独 | FRIDAYデジタル

「人前で自慰行為をやめられない」女性刺殺に至った被告少年の孤独

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
2020年8月、女性客が刺殺された福岡市内の商業施設で現場付近を調べる警察官たち(写真:共同通信)

2020年8月に福岡市の商業施設で、面識のない女性を刺殺したとして、殺人罪などで起訴された住居不定の少年(17)に対する裁判員裁判が、福岡地裁(武林仁美裁判長)で開かれている。7月12日の公判では少年に対する心理鑑定を行った大学教授が証人出廷。前編「『性的目的で犯行』と…21歳女性を刺殺した少年の『虐待経験』」に続き、少年の衝撃的な半生の詳細があきらかになった≫

少年が母親を強く求めながら、嫌悪感も抱いていた理由

教授は、鑑定により聞き取った情報について「本当に?と思うこともあったので、主に複数の情報源があるものを採用した」という。これによると、まず身体的虐待は主に兄からだった。

「父親は長男(兄)への暴力が中心だった。少年への暴力はさほどなかった。でも、兄が少年に暴力を振るっていた。殴る蹴る、エアガンで撃つ、首を絞めるなど」

ネグレクトは母親からだった。

「母の中で少年の存在が薄い。存在が無視された状態。児童相談所の記録には『母親の家事育児能力が欠如している』とある。『問題がある』という記載ではない。また小学校の担任の調書にも『母親は長女には関わるが、ほかの2人の兄弟には薄弱』とある。母親自身も、兄と少年の生育歴については記憶が曖昧で、覚えていない」

ネグレクトだけでなく、母親には「子の問題行動を助長するかかわり」が見られたという。

「兄や少年に対して、幼児期や小学校低学年の頃から、子の求めに応じるまま、タバコやエアガン、アダルト雑誌を買い与えていた。そういった事例はあまり聞いたことがない。子と関係性が結べないのでビギニング(ものを与えることなど)により思い通りにしようとしたのでは」

それだけではない。少年の育った家庭において、もっとも深刻なものは、性的な問題だった。「これほどの性的問題を抱えた家族を、私は知らない」と教授は断言する。

少年の家庭では、父親の所有するアダルトコンテンツを少年が目にすることのできる環境にあり、また両親の性交を少年が目撃したこともあるという。さらには「兄が母親に性的な行為をしていた」こともあった。

「兄が母親の胸を舐める、母にマスターベーションの手伝いをさせるなどしていた。児童相談所はそれを理由に兄を一時保護している。また少年が8歳から10歳の頃まで、兄が少年に自分のペニスを舐めさせるといった行為があった。母は少年にディープキスをして『ヨーロッパやアメリカでは普通にするんだよ』と言っていた」

母親は「うちは性にオープンな家庭」だと、かつて精神科医に説明していたという。また少年が精神科に入院している際に、アダルト雑誌を差し入れようとして見つかったこともあった。兄は調書に「母親が弟の性的興味を助長した。母と関わっているとおかしくなってしまう」と語っている。

少年には“人前での強迫的な自慰行為がやめられない”という特徴も見られ、かつて施設でも“施設内で人目を憚らず自慰行為をしている”と報告があったそうだ。彼が自慰行為を始めたのは、小学校低学年の頃。「子の性的行動としては極めて早熟」であると教授は証言している。

母親に見られたのは性的な問題行動だけではない。日頃から少年に「死ねばいい」「お前なんかいらん」「死ね」といった言葉を浴びせていたのだという。教授はこれが心理的虐待にあたると説明した。少年はかつて施設で自殺未遂を図ったことがあるが“母に言われたことが蘇り、首を括ろうとした”と言っていたという。

「犯行に至る心理的状態を検討するにあたり、母親との関係は非常に重要。母親は早くから少年の養育を拒否していた。少年は母親を強く求めながら、一方で強く拒否し、嫌悪感を抱いている。少年には共感性や罪悪感の欠如といった特徴が見られる」

少年院で行われている保護犬訓練通じた矯正教育。劣悪な家庭環境で育った人には心を開けないという子もいて、基本的にありのままを受け入れ、裏切ることのない動物と触れ合うことで、心を開くこともあるという(イメージ映像、記事内の少年とは関係ありません)

少年が抱いた「これまで以上の絶望感」

教授は少年に対しては「医療少年院での治療的養育が必要」であると述べた。それは「刑事処分が相当だ」とした家庭裁判所の決定とは異なる見解だ。虐待により共感性や罪悪感の欠如が見られるが、適切な対応により改善する可能性が高いと教授は述べる。

「やるべきことをやっていなかった。特に、少年の性の問題については全く扱われていない。早ければ早いほどいい。人に裏切られ、人を信じることをできていない。信じられる感覚を持ってもらうことは、長くかかるが可能だろう」

10歳の頃から家族と離れていた少年は、事件直前に少年院の仮退院を控え、母親から身元引き受けを拒否された。これにより絶望感や無力感、不安を抱いていたとして、教授は次のように分析していた。

「私に対しても少年は『これまで以上の絶望感だった』と言っていた。家庭における歪んだ養育関係から、防衛、逃避の手段として、女性に性的なものを含む親密な関係を求めた。劣等感が強く、拒絶されることを恐れて、回避するための手段として凶器を用意した。脅して抵抗を抑えることができれば、被害者も親密な関係を求めてくると勘違いしていたのではないか。しかし、予想外の抵抗、拒絶に遭い、混乱状態に陥り、激しい怒りとして体現し、被害者を殺害するに至った」

性的行為と孤独感との結びつきについても「15歳、中学3年生の子がひとりぼっちになることは、とんでもない苦痛。現実逃避として性的行為が生じるのはままあること。児童養護施設にも『親のことを考えたりすると、不安や嫌な気持ちになって、どうしても自慰行為をしてしまう』という子が結構いる」と、子供の虐待問題に長年かかわってきた立場から証言した。

15日の公判で、検察側は「残虐性の高い犯行。刑事処分を科すのが相当」と懲役10~15年の不定期刑を求刑し、弁護側は「家庭内の虐待によるトラウマが問題行動に影響している」として、医療少年院への送致を求めた。そして、少年により突然命を奪われた女性の母親は「ずっと苦しみ続けている。許せません。一生刑務所に入れてください」と極刑を求めている。

不適切な養育の末、わずか10歳で児童自立支援施設に入所し、ようやく少年院を仮退院することになった少年の身元引き受けを拒否した彼の母親は、いま少年に対して、また女性に対して何を思うか。そして少年は、女性の母親の訴えをどう受け止めたか。

判決は25日に言い渡される。

当時15歳の少年が女性を殺害してから、今年7月の初公判で起訴事実を認めるまでの経過(写真:共同通信)
  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。6月1日に「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館)が新たに出版された

Photo Gallery3

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事