父親から性的虐待…家出少女が体を売って体験した「壮絶な現実」 | FRIDAYデジタル

父親から性的虐待…家出少女が体を売って体験した「壮絶な現実」

ノンフィクション作家・石井光太が家を無くした若者「ヤング・ホームレス」の実態に迫る!

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
国会議事堂を眺める未來(画像は本人提供)

夜の街で身体を売りながら漂流する10代の少女たち。

本来、社会には公的機関や民間団体が用意する様々な「居場所」が存在する。児童養護施設、自立援助ホーム、シェルター……。

だが、漂流する少女たちにとって、それらの空間は安心して身を寄せられる場にはなっていない。だからこそ、売春によって自らの体をえぐるようにしながら、漂流生活をつづける。

なぜ彼女たちにとって、社会が用意するセーフティーネットは、その役割を果たさないのだろうか。

シリーズ「ヤング・ホームレス」では、これまで多くの漂流少女を紹介してきた。今回は、一人の少女の体験と肉声から、社会資源がセーフティーネットとして機能しない現実を見ていきたい。

希咲未來(22)が実家から家出をしたのは、中学2年生の時だった。

実家は、立派な一軒家だった。両親は共働きだったが、実家が資産家だったため、収入以上に経済的な余裕があったようだ。

家庭を覆う父親への恐怖

長女の未來は、幼い頃からピアノ、新体操、学習塾、公文などを習わせてもらっており、周辺の家からは豊かで明るい家族と見られていたという。

そんな家庭の表面とは裏腹に、家庭内には暗くよどんだ空気が満ちていた。父親は遊び人であった上に、家で妻や子供たちにしょっちゅう暴力をふるっていたのである。何か少しでも気に入らないことがあれば、口より先に手が出るタイプだったようだ。

母親も未來も彼に対する恐怖心の中で息をひそめるように生きていた。家族の誰かが父親に殴られても、止めれば自分がとばっちりを食らうために見て見ぬふりをする。家族はお互いのことに無関心だった。

未來がリストカットをはじめたのは小学6年からだった。学校のクラスメイトからいじめられたことで、家庭にも学校にも居場所を見いだせなくなったのである。

カッターを手に取り、手首を切るとツーと赤い鮮血が流れる。彼女はこの時の気持ちを次のように述べる。

「リスカをしたのは、私の体の中にある父の血を出したかったからです。血を見ていたら、私の中から父の血が薄れていくようで心地良かった。父のことが憎くて憎くて仕方がなかったから……。それで癖になって手首だけじゃなく、肩も足も、体中をカッターで切るようになりました」

父親の虐待は身体的なものだけにとどまらなかった。中学1年になると、性的虐待がはじまったのである。

買春客とのやりとり(画像は本人提供)

最初は、酔った父親がいきなり未來の部屋に入ってきたのが切っ掛けだった。それから、父親は味を占めたように頻繁に部屋にやってきては、未來の幼い体をもてあそんだ。

未來にとって実の父からの性的虐待は耐え難いものだった。だが、母親はそれに気づいていなかったし、真実を知らされたところで助けはしなかっただろう。

何をしても無駄だ。未來は感情を殺して性的虐待に耐えるしかなかった。

家出をはじめたのは、それから間もなくしてからだった。最初の家出は、学校の先生にリストカットが見つかり、親を呼び出された日だった。帰宅した後、父親から激しく殴りつけられた。

彼女の中で何かが切れた。外は大雨だったが、彼女はパジャマのままベランダから外へ飛び降り、はだしで町をさまよった。この時は警察に補導されて家に戻されたが、またもや暴力を受ける。

――家出するからには、捕まって連れ戻されないようにしなければならない。

そう考えるようになり、未來は再び家出を決行した。

「父から逃げるには……」

だが、中学生の少女が一人で生きていくのは困難だ。初めは公園のベンチやビルの非常階段で夜を過ごしたが、眠れるわけがないし、食べ物にも困った。そこで彼女は新宿の歓楽街へ移り、売春をするようになる。

家出少女が売春をするのは、収入を得る術が限られていることがあるが、それ以外にも心理的な理由がある。特に性的虐待や性犯罪の経験がある少女は、それによって自分の体がけがれたと考える。だから自暴自棄になって余計に自らをけがそうとしたり、似たような傷つき体験を重ねることで、過去の体験は大したことではなかったのだと思い込もうとしたりするのだ。

未來は言う。

「最初に家出をした頃は、施設の存在とかほとんど知りませんでした。父から逃げるには家出しかない。警察に捕まったら家に連れ戻されるから、絶対に逃げ切るしかないんだって思っていました。

たまに大人から『どうしたいの?』って訊かれることがありました。助けてほしいなら助けるよって。でも、あの時はどうしたいのかなんてわからないんです。先のことなんて考えられない。今を生きるために、家出をつづけ、命をつなぐために体を売っているだけなんです」

当時の彼女は、巣の中で親から殺されかけ、無我夢中でサバンナに逃げ出した子ウサギのような存在だ。弱肉強食のサバンナではその日を生き延びるのに精いっぱいで、その先のことなど想像もつかないのだ。

家出の期間が長くなるにつれ、売春のノウハウも身につくようになっていった。SNSで特定の隠語で呼びかければ何十件と見知らぬ男から連絡が来たし、売春に利用されるマッチングアプリに登録すれば数百件ものメッセージが届いた。慣れてくると、男が声をかけてくる通りもわかった。1回の売春につき、2万円が相場だった(現在は1万円)。

そんな日々をくり返していた15歳の日、未來は警察に捕まってしまう。児童相談所の判断で、彼女は親のいる実家ではなく、児童自立支援施設へ送られることになる。

児童自立支援施設では一時の平安を得た未來(画像は本人提供)

児童自立支援施設とは、かつての感化院、教護院だ。家庭や素行に問題のある男女が集められ、集団生活を送る施設だ。

児童自立支援施設は緑に囲まれた広い敷地の中に、学校、寮、プール、グラウンド、畑などが併設されている。少年院のように鍵のかかった施設に閉じ込められるようなことはなく、比較的自由に生活することが許される。寮では寮長夫婦が子供たちと一緒に暮らし、親代わりになる。いわば、人里離れたところで、寮長夫婦によって「育て直し」が行われるのだ。

未來は語る。

「児自立(児童自立支援施設)って、思っていたより自由で、職員の人たちも優しく接してくれた。こんな幸せな場所があるんだって驚きでした。自分を肯定できる体験をたくさんできたのが大きかったですね。

たとえば、私はリスカの傷があったから運動とか避けてたんです。けど、児自立にはリスカの子なんてたくさんいるから気にならない。それで、大会の日に外食できるって理由で水泳部に入部したんです。

がんばって練習したら泳げるようになり、大会で入賞しました。この時、生まれて初めて、一つのことを努力してやりきった経験をしました。他にも漢字検定を取ったり、レストランでバイトをしたり、すごく充実した日々を過ごせました」

隔離された施設の中には、同じような境遇の子供たちがたくさんいたので劣等感を抱くことがなかったし、職員はそんな子供たちの心の傷をしっかり理解した上で向き合っていた。傷だらけの子ウサギにとっては、保護区のような空間だったにちがいない。

退所して向かった先は……

だが、そうした幸せな日々は1年半ほどで幕を閉じる。突如として施設からの退所を告げられたのである。

児童自立支援施設は中学生以下の子供が主な対象である上に、平均入所期間は一年半ほどだ。おそらくそうしたことを踏まえ、児童相談所との話し合いの中で退所が決まったのだろう。行政の仕組みの限界だといえる。

未來は児童自立支援施設を出された後、アルバイトをしていたレストランの寮で暮らすことになった。わずかな荷物を抱えて寮に入った時、それまで禁じられていた携帯電話を持たされた。

寮の中で携帯電話を開くと、アドレス帳には児童相談所と児童自立支援施設の電話番号しか記録されていなかった。未來の胸に嘔吐しそうなほどの孤独感がこみ上げてきた。初めて居場所だと思えた施設を出された自分には、何一つつながりがないのだ。

誰かとつながりたい。自分をわかってくれる人たちと一緒にいたい。そんな思いが膨らみ、気がついたら寮を駆け出していた。向かった先は、夜の街だった。

彼女は当時の心境を語る。

「歓楽街で私が会おうとしていたのは、かつての知り合い――バーのボーイとかスカウトとかホストといった人たちです。彼らに会えば、またすぐに体を売る生活に逆戻りすることになるってわかっていました。

でも、それ以上にレストランの寮で一人で生きていくことの方が怖かった。誰も私のことを理解してくれない中で、過去を全部隠して細々と生活していくことの不安が大きかったんです。

だから、悪い人でも誰でもいいから、私のことを受け入れてくれる人たちとつながっていたかった。あの時の私には、そういう人たちがいる場所は、歓楽街以外に思いつかなかったんです」

児童自立支援施設という保護区から出された時、彼女は浦島太郎のように独りぼっちである現実を突きつけられたのだろう。

立派な大人は、レストランでがんばって働いて、そこでちゃんとした人脈を築けばいいと言うだろう。だが、家庭では暴力にさらされ、学校ではいじめに遭い、家出中は自分を利用する大人としか出会ってこなかった彼女が、その力に乏しいのはやむを得ない。彼女は夜の街での生き方しか知らないのだ。

未來は言う。

「あの時の私にとって警察も児相も公的機関はすべて〝怖い人たち〟でした。すごく厳しいエリートがたくさんいて、私が一言発すれば、頭ごなしに怒られるようなイメージ。だから、そこに助けを求めるとか考えられなかった。怒らずに受け入れてくれる歓楽街の方が安心できたんです」

そうして夜の街にもどった彼女を待っていたのは、想像を絶する過酷な現実だった。それについては、後編【家出少女が誓った「凌辱した父親への復讐」】で詳しく述べたい。

後編【家出少女が誓った「凌辱した父親への復讐」

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

  • 写真希咲未來さん提供

Photo Gallery3

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事