門外不出の「幻の忍術書」発見…忍者に学ぶ逆境の中で生き抜く知恵 | FRIDAYデジタル

門外不出の「幻の忍術書」発見…忍者に学ぶ逆境の中で生き抜く知恵

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いまだに謎が多い「忍者」の実態…

今年6月、忍者の里・滋賀県甲賀市甲南町で、これまで幻とされていた忍術書が見つかった。

“幻の忍術書”。今回見つかったのは、「軍法間林清陽(かんりんせいよう)」という忍術書で、上中下巻あるうちの中巻。忍術書の研究家・福島嵩仁さんによって発見されたのだ。これが“幻”と言われるのは、

「これまで忍術書と呼ばれるものは30点ほど発見されていて、その中でも1676年に編纂された忍術書『万川集海(ばんせんしゅうかい)』は全22巻、別巻1巻からなる忍術の百科事典ともいえるもの。 

その中に『間林清陽』のことが書かれているんです。なので、『間林清陽』という忍術書があることは研究者の間では知られていました。でも、どうしても見つからなかったんです」

というのは、国際忍者研究センター副センター長の山田雄司氏。

国際忍者研究センターが設立され、国際忍者学会も開かれるなど世界的にも注目されている「忍者」。写真は、日本外国特派員協会で行われた「NINJA NIPPON PROJECT」の記者発表の模様(写真:アフロ)

忍術書は、その忍術書を伝える家の者以外だれにも見せてはいけないとされていたため、『間林清陽』も存在することは知られていたが、内容はまったく知られていなかったという。いったいどのようなことが書かれていたのだろう。

「これまで発見された忍術書は、江戸時代という平和な時代になってからまとめられたものが多かったので、武器の作り方、敵地への侵入方法、敵との戦い方などはほとんど書かれていないんです。『間林清陽』には、それらのことが書かれていて、それが非常に珍しい」 

杖の中に刃物を仕込んだ隠し武器もその一つ。 

「これまでそういう武器があることは知られていましたが、旅人が自衛のために持っていたのではないかとも思われていた。それが『間林清陽』に書かれていることで、忍者が隠し武器として持っていたことがわかりました。これも大きな発見です」

戦い方も、これまでのイメージをくつがえすものだった。忍者といえば、一人でこっそり行動するイメージがあるが、

「多くの場合は、複数で行動するんです。真っ暗ななか忍び込むときは、手を取り合ったり、お互いに合言葉を言い合う。敵に見つかったときは、2~3人が固まって、相手の右側に切りかかるなどと書いてある。そのようなことは、『間林清陽』を読むことで初めて知りました」 

団体行動する忍者……なんだかちょっと想像しにくい。 

発見された『間林清陽』。オリジナルを書き写した写本であると考えられている。全48ページで、写真のページには仕込み杖の作り方が書かれている

ドラマに出てくるような「忍術」は本当にあったのか…

“すいとんの術”や“木の葉隠れの術”みたいなことは?

「犬を吠えさせないために、片方の手のひらに『鬼』と書いて犬に見せ、『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』と呪文を唱えながら、もう片方の手での九字の印を切るという方法が紹介されていました」

それで犬は吠えなくなる?

「吠えます(笑)。『用間加條伝目口義(ようけんかじょうでんもくくぎ)』という忍術書には、いろいろな薬草から作った薬を使えば、姿を消すことができると書いてありますし、ほかの忍術書には水の上を歩く方法とか、水に潜って歩く方法も書かれています。でも、実際にやってみた人によれば、薬で消えることはできないし、水の中を歩くのも、水圧の関係でむずかしいらしいです」 

実際に使えないものが、なぜ忍術書には書かれているのか? 本人は消えていると思っていて、実は相手から見えていたら、命が危ないではないか。 

「でも、私たちが本当のやり方を知らないだけで、もしかしたら本当は消えるのかもしれないし、水の上を歩けるのかもしれない。あるいは、忍者希望者の適性をみるために適当なことを書いて、『こんなことを信じるようでは忍者は務まらない』と判断したのかもしれない。 

忍術書に書かれていることが、どこまで本当に忍術として使われていたのかわからないんです。まるで『私たち忍者がやっていたのは、どこまで本当でしょうか』とクイズを出されているような感じです」

それでも山田氏が忍術書に惹かれるのは、

「当時のいろいろな知恵が凝縮されているからです。そのような書物はほかにはありません。忍術書を読めば、当時の科学的な水準を知ることもできるんです」 

戦国時代の忍者は、各地の大名に召し抱えられて、敵国へ侵入して情報を収集し、ときには放火や夜討ちなどもした。

道なき道を走り、目的地にたどり着くためには方位を知るために天文学も必要となるし、気象や薬草についても知らなければならない。忍術書には火器や水器などの道具の作り方、扱い方とともに、医学、薬学、食物、天体、気象、火薬など、多方面にわたって書かれている。

現代でも一流のスパイは何か国語も操るなど豊富な知識をもつことが不可欠のようだが、忍者は強靭な肉体とともに、信じられないくらいの量の知識をもっていたのだ。しかも現代のように豊富に書物があるわけではない時代に。ものすごい知識階級だったわけだ。 

「忍者の家に生まれたら、幼少のころから本を与えられ、肉体的な鍛錬も行われていたのだと考えられます」

エジプトで有名だという「忍者」愛好家アブデル・クアデル・アフメドさん。日ごろの訓練や活動の様子が、自分で作った武器とともにロイター通信を通じて世界に配信された(写真:アフロ)

忍者は社交家だった!?

しかも、忍者は交際術や対話術にも長けていたと言う。

「忍者というと、天井裏に潜んで会話を盗み聞きするようなイメージがありますが、実際は、その土地の人と仲良くなって情報を聞き出すことが多かったのです。 

そのためには、相手が好きな話をして、相手を喜ばせる、気持ちよくさせることが大事なんですね。将棋が好きな人には将棋の話、釣りが好きな人には釣りの話。そうすると、相手は仲間だと思い、大事なことも話してくれるようになるわけです」

多趣味で社交上手。忍者は陰に潜んで仕事をするのではないのか。

「もちろん、陰に潜んだこともあります。『忍』という文字が表しているように、忍者にとっていちばん大切なことは耐え忍ぶこと。目的を果たすためには、ときには何日も陰にひそみ、空腹に耐え、実行の機会をうかがわなくてはなりません。名前を残すことも、誇らしげに語ることもないけれど、自分の仕事を完遂させる。それが忍者です」

物価高に猛暑に豪雨、そしてコロナ……まるで忍者のように“忍”を強いられている現在の日本。私たちに足りないのは、忍者のような強靭な肉体か、はたまた今を生き抜く知恵なのか。忍者だったら、忍びながら、次の手を冷静に考えるのだろうか。

山田雄司 三重大学人文学部教授。国際忍者研究センター副センタ―長。2016年に日本科学未来館で開催された「The NINJA」展を監修した。著書に『忍者の歴史』(KADOKAWA)、『怨霊・怪異・伊勢神宮』(思文閣出版)、『忍者文芸研究読本』(編著・笠間書院)など。

  • 取材・文中川いづみ

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