伝説の総合格闘家が明かす「ネイビーシールズ」のハンパない訓練
米海軍特殊部隊「ネイビーシールズ」に格闘技術の指導を行っている総合格闘家・エンセン井上氏が、「実戦」を想定し尽くした彼らの衝撃の訓練内容を明かす
「『ネイビーシールズ』では、実際の戦闘を想定した訓練が日々行われています。たとえば、車で移動中に後ろからいきなり敵に追突され、襲撃を受けたときにどう戦うか、とかね。訓練であっても本当に車で追突させて、リアルなシチュエーションを作り出す。他にも、夜間の戦闘を想定して、真っ暗闇のなかで訓練をしたりもします。『ネイビーシールズ』の訓練は、とにかくハンパじゃないですよ」
そう語るのは、総合格闘家のエンセン井上氏(55)。初代『修斗』ヘビー級チャンピオンとして知られる格闘技界の大物だ。
日系アメリカ人4世でハワイ出身のエンセン氏は、ラケットボールの選手として27歳のときに来日した。しかし、腕試しのつもりで修斗の試合に出場したところ、デビューから4戦全勝して自身の才能に気づき、格闘家としての人生を歩み始めた。
「ハワイ時代からストリートではしょっちゅう戦っていたからね。若いときは、トラブルがあると喧嘩で解決するのが当たり前だった。技術はもちろんだけど、ストリートで培った気構えも総合格闘技に活きたと思うよ。俺はいつも、殺すか殺されるかという気持ちで戦いに臨んできたからね」
プライベートでは’00年にレスリング元日本代表の山本美憂氏と結婚(’04年に離婚)。義弟の山本KID徳郁氏に総合格闘技の指導をしたことでも知られる。
現在も、元力士のスダリオ剛などさまざまな格闘家に指導を行っているが、エンセン氏の教えを受けているのは格闘家だけではない。実は米海軍特殊部隊『ネイビーシールズ』にも、格闘技の講師として招かれているのだ。
「7年ほど前に、サンディエゴのジムで総合格闘技のセミナーを開いたんです。そのジムのオーナーがたまたま『ネイビーシールズ』の関係者で、『エンセン、訓練にゲストとして参加してくれないか』と持ちかけられたのがきっかけでした」
『ネイビーシールズ』といえば、’11年のビン・ラディン暗殺作戦などで知られる、アメリカ軍の”超”精鋭部隊である。サンディエゴにある海軍基地に招かれたエンセン氏は、そんなエリート軍人を相手にスパーリングを行い、次々にナイフや銃を奪ってみせた。その格闘技術にシールズのメンバーは感銘を受け、以来、正式に講師のオファーをされるようになったという。
「毎年講師として訓練に参加させてもらっていて、合計で10回はアメリカに行っています。毎回、航空機はファーストクラスだし、現地での宿泊も超高級ホテルを用意してくれる。すごいよね。訓練の後には、握手をする手に『ネイビーシールズ』のコインを挟んでわたされたこともあります。彼らにとって最大級の敬意と賛辞を示すときにわたすコインです」
講師として招かれているエンセン氏だが、同時に『ネイビーシールズ』のメンバーからも多くを学んでいると語る。
「彼らが想定しているのは、格闘技の試合ではなく、実際の戦争です。敵と組み合いになってこちらが良いポジションを取ったとしても、相手が銃を撃ってきたら終わりなわけです。だから俺も、どうやって銃を抜かせないようにするかなど、考えながら指導をさせてもらっています。俺のストリートでの経験が活きることもあるし、彼らにいろいろ質問をしていくなかで技術を思いつくこともある」
今年も6月中旬に『ネイビーシールズ』からオファーを受けたというエンセン氏。早ければ8月にも渡米し、講師として指導をする予定だ。
- 写真:加藤慶