サザン名曲『涙のキッス』に見る「ラブ&エロの両面戦略」 | FRIDAYデジタル

サザン名曲『涙のキッス』に見る「ラブ&エロの両面戦略」

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あの人も歌っていた…!

ちょうど30年前のヒット曲をたどる連載、今回は1992年7月18日発売の大ヒット曲、サザンオールスターズ『涙のキッス』を取り上げます。

手元にある『1968-1997 オリコンチャート・ブック』(以下、売上枚数の出典は同書)によれば、売上枚数は153.5万枚。この曲の2年前の7月に発売され、この曲と同じく、小林武史が編曲に加わっているバラード『真夏の果実』の売上枚数が53.3万枚なので、約3倍も売れたことになります。

言わば、国民的大ヒット。その結果、実はこの方も、よくカラオケで歌っているとのこと。

――カラオケの十八番を聞かれると「私たちの世代はやっぱりサザン(オールスターズ)。よく歌うのは『涙のキッス』」と明かした後「涙のキッスもう一度 誰よりも愛してる」と、サビの一部をアカペラで披露(日刊スポーツ/2020年9月11日)

91年の桑田佳祐(産経ビジュアル)

今から2年前の9月10日、当時、自民党総裁選に出馬表明していた岸田文雄・現首相(当時:政調会長)によるライブ配信「#生キッシーが全て答えます」での発言。「聞く力」だけでなく「歌う力」も備わっていたということになります。

それにしても岸田氏を「キッシー」と呼ばせようという目論見があったんですね。まったく流行っていない現状は、まさに「涙のキッシー」。

さて、この連載で取り上げた他の曲同様、この『涙のキッス』にも、強力なタイアップが付いていました。この年の7~9月クールに放送されたTBS系ドラマ『ずっとあなたが好きだった』。

<――佐野史郎が演じたマザコンでオタクという冬彦の変態キャラクターが注目され、“冬彦現象”とも呼ばれるブームを巻き起こした恋愛ドラマ。(中略)狂おしいまでの妻への愛情表現として夫・冬彦が真夜中に下唇を出してウーウー唸って妻を困惑させたり、回転木馬に乗ったりと数々の奇行が最大の話題になった>

TBSチャンネルの公式サイトにある説明文もどうかしています。でも、それくらいどうかしていたせいか、どうかしているような盛り上がりを示し、最終回は視聴率34.1%という、今から考えれば、これもどうかしている大記録を叩き出しました。

ちなみに、『ずっとあなたが好きだった』、盛り上がるきっかけとなったのは、マザコンキャラの冬彦の母親を演じる野際陽子のアドリブだったといいます。プロデューサー・貴島誠一郎氏はこう語ります。

――「ケガをして血を流した冬彦さんの指を『なめてもいいかしら』とアドリブでペロリとやられた。あれがドラマが大ヒットするきっかけになった」(日刊スポーツ/2017年6月16日)

つまり「涙のキッス」と「指へのキッス」によって、『ずっとあなたが好きだった』が、ずっと語り継がれるドラマになったのです。

ラブとエロの両面戦略とは?

さて、タイトルにある『涙のキッス』と同日発売のシングルとは何か。答えは――『シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA』。

こちらも『ずっとあなたが好きだった』の挿入歌だったのですが、売上枚数は95.6万枚と『涙のキッス』に差を付けられました(それでも約100万枚という大ヒットなのですが)。

では、なぜ『涙のキッス』と『シュラバ★ラ★バンバ』が同日に発売されたのでしょう。

実は、翌93年7月21日にも、2枚のシングルをサザンは同日発売します。『エロティカ・セブン』と『素敵なバーディー(NO NO BIRDY)』。

また、さらに2年後の95年、これは同日ではないのですが、『マンピーのG★SPOT』を5月22日、『あなただけを~Summer Heartbreak~』が7月17日という、かなり近いタイミングでシングルを連発するのです。

『シュラバ★ラ★バンバ』と『エロティカ・セブン』『マンピーのG★SPOT』の3曲に共通するものとは何か。それは――エロです。

タイトルからしてエロな『エロティカ・セブン』『マンピーのG★SPOT』に加えて、『シュラバ★ラ★バンバ』も「♪修羅場穴場女子浮遊」「♪愛乃場裸場男子燃ゆ」と、なかなかにエロティック(この3曲を「エロス3部作」とくくることもあるようです)。

ここで私が思うのは、この時期のサザンによる「ラブとエロの両面戦略」です。つまり、とろけるようなラブソングと、あきれるようなエロソングという両面を同時に見せることで、「ラブだけ」「エロだけ」に偏ることによるイメージの陳腐化を防ぐ戦略があったのではということです。

「ラブとエロの両面戦略」のターゲットはおそらく、私のような初期からのサザンファン。

初期の破天荒なサザンを愛する者として、『涙のキッス』などを聴いて「あぁ、分かりやすくなっちゃったなぁ」という感覚は、当時、正直ありました。それでも『シュラバ★ラ★バンバ』を聴いて「あ、でも桑田は変わってないわ」と思い直す。

そんな両面戦略、周到なバランス感覚によって、平成における国民的「メガ・サザン」が形作られたと、私は考えるのです(その詳細は拙著新刊『桑田佳祐論』/新潮新書を参照ください)。

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最後に、「ラブとエロの両面戦略」にまつわる売上枚数を見ておきましょう。

●1992年7月18日発売
・ラブ系『涙のキッス』:153.5万枚
・エロ系『シュラバ★ラ★バンバ』:95.6万枚

●1993年7月21日発売
・ラブ系『素敵なバーディー』:49.9万枚
・エロ系『エロティカ・セブン』:172.7万枚

●1995年5~7月発売
・ラブ系『あなただけを』:111.8万枚
・エロ系『マンピーのG★SPOT』:50.0万枚

以上をまとめると、「ラブ系」総計:315万枚、「エロ系」総計:318万枚――ほとんど同じ売上枚数! 完璧な両面戦略かつ、周到なバランス感覚! やはり、サザンは只者ではないのです。

  • スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、6月17日『桑田佳祐論』(新潮新書)が発売される。

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