最新研究でわかった!「ネット炎上」の”正体”とはなにか | FRIDAYデジタル

最新研究でわかった!「ネット炎上」の”正体”とはなにか

深層レポート 企業幹部が不適切発言、バイトテロ、有名人の不祥事、そんな時……SNSなどに書き込んでいるのはいったいどんな人物なのか?

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炎上参加者はごく少数

コンビニ店員がアイスケースに寝そべった写真をSNSに投稿した「バイトテロ事件」(’13年)、タレント・ベッキーの「ゲス不倫騒動」(’16年)、芸人・渡部建の「多目的トイレ不倫」(’20年)、そして今年4月の𠮷野家役員による「生娘シャブ漬け発言」……。

スマホの登場やソーシャルメディアの発達により、「ネット炎上」は年々増加している。研究機関の調査によると、’21年に起きた炎上件数は実に1766件。単純計算で、1日に4~5件もの炎上が起きていることになる。

今年4月、𠮷野家の常務取締役が「女の子を生娘のうちに牛丼中毒にする」と発言。河村泰貴社長が5月に謝罪した
今年4月、𠮷野家の常務取締役が「女の子を生娘のうちに牛丼中毒にする」と発言。河村泰貴社長が5月に謝罪した

現代社会を生きる人なら誰もが日々大小さまざまなネット炎上を目にしているわけだが、こんな素朴な疑問を持ったことはないだろうか。炎上しているのは知っているが、自分の周りでネットに盛んに書き込みをしているという人は見たことがない。炎上に参加しているのは、いったいどんな人たちなのか、と。

「SNSについては、社会心理学や工学、経済学、マーケティング系など、世界中でさまざまな分野の研究者が分析を行っています。アメリカの権威ある経済誌に論文が掲載されることもかなり増えてきましたし、もちろん、日本でも各分野の人が研究に携わっています」

そう語るのは、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授。日本で初めて実証的なデータを用いて炎上の「正体」を明らかにした、「炎上研究」の第一人者である。

どれくらいの人が炎上に参加しているのか――。この問いに答えるべく、山口氏は、’14年に約2万人、’16年に約4万人、総勢約6万人にアンケート調査を実施した。その結果、衝撃的な事実が明らかになった。

「過去全期間を通して一度でも書き込んだことのある人はネットユーザーの1.1%にとどまり、これをさらに過去1年間、つまり『現役の炎上参加者』に絞ると、その割合はわずか0.5%でした」(山口氏・以下同)

それを示すのが、下の図①だ。図②・③では、その炎上参加者0.5%の内訳をさらに詳しく分析している。

年間に11件以上の炎上に書き込みをしている人は炎上参加者の10%。0.5%のうちの10%なので、全体の0.05%だ。一方、炎上1件あたりに書き込んだ回数は、51回以上の人が3%。全体の0.015%である。

「ここで重要なのは、1件あたりの書き込み回数3回以下の『ライトな参加者』よりも51回以上の『ヘビーな参加者』のほうが、書き込んでいる回数の合計は多いということです。つまり、炎上に参加している人がそもそも少数であり、そのうちのさらにごくわずかな人が炎上の主役になっているということです」

誰が炎上させているのか

どれくらいの人が炎上に参加しているのかは明らかになった。では続いて、誰が参加しているのかを見ていこう。

下の図④は、炎上に参加していない人と、炎上に参加している人の肩書を比較したものだ。炎上に参加していない人、つまり社会の大多数の人のうち、「主任・係長クラス以上」の人はわずか18%しかいない。一方、炎上に参加している人のなかでは、なんと31%が「主任・係長クラス以上」となっている。

「計算すると、だいたい『主任・係長クラス以上』の0.86%の人が炎上に参加していることになります。120人に一人という割合です。みなさんの周りにいる上司を思い浮かべたとき、一人くらいはやたら攻撃的で、しょっちゅう人を非難している人がいるのではないでしょうか。そういう人がリアルでもネットでも暴れていると考えられます」

肩書だけでなく、年収も関係している。図⑤は、炎上参加者と参加していない人別に、世帯年収の平均値を見たものである。炎上参加者の世帯年収は平均670万円であるのに対し、炎上に参加していない人は590万円。つまり、炎上参加者のほうが「裕福な人」が多いのだ。

「独身で教養が低く、ヒマを持て余しているネットのヘビーユーザーが、一日中パソコンの前で書き込んでいる……。炎上参加者にそんなイメージを持っていた人も多いかもしれません。しかし実際には、社会的地位がある程度高く、少し裕福な人のほうが炎上に書き込みやすい。炎上はどこか遠いところの人ではなく、身近にいるような『ちょっと面倒くさい上司』が起こしているのです」

「誰が炎上させているのか」まではわかった。それでは、彼らは「なぜ」書き込みをするのか。

山口氏は、’13年にコンビニ店員が店内のアイスケースに寝そべって炎上した事件をはじめ、東京五輪のエンブレムデザインに盗作疑惑が浮上した「佐野研二郎パクリ事件」(’15年)、「ベッキー不倫騒動」など5つの「炎上事件」を横断的に調査し、炎上参加者の動機を明らかにしている。

「『アイスケース炎上事件』において書き込んだ理由で最も多かったのは、『許せなかった』が51%、『失望したから』が19%。つまり、合計70%の人が正義感から炎上に参加していることがわかりました。その一方で、『自分も参加すべきだと感じたから』という便乗型は9%、『楽しいから』『ストレス解消になるから』という炎上を楽しんでいる人も22%しかいませんでした。この傾向は、他の炎上事件でも同様に見られました。また、こういった正義感型の人は、炎上1件あたりの書き込み件数が増加する傾向にあることもわかっています」

炎上を起こさないためには

この結果に、前述した「主任・係長クラス以上」「世帯年収が高い」などの属性をかけ合わせると、炎上の構造が見えてくるという。

「こういった属性の人は、政治やジェンダーなどさまざまな問題に対し、ある程度知識が豊富で、確固たる信念を持っている場合が多い。そして、情報への感度も高い。そういう人が、自分と考え方の違う人に対し批判を浴びせる。それが、炎上の『正体』と言えます」

SNSが発達した現代は、誰もが簡単に炎上に参加できる世の中であるとも言える。炎上を起こさないためには、何が必要なのか。ITジャーナリストの三上洋氏が言う。

「当たり前のことですが、書き込む前にひと呼吸置くというのが重要だと思います。『許せない』と感じることがあっても、冷静になれば事実と違うとわかるケースも多々ありますからね。また、インターネット上に匿名は存在しないということを認識するのも大切です。プロバイダ責任制限法が改正されたことにより、情報開示請求が簡単にできるようになった。侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ改正刑法が施行されるなど、炎上に関する罰則も強化されてきています。安易に書き込めば、自分自身も大変な目にあうかもしれないことをわかっておくべきでしょう」

究極的に言えば、他者を思いやって冷静に物事を見れば炎上は起きないということだ。炎上の「正体」を知り、ソーシャルメディアとの付き合い方を今一度考えてみてはいかがだろうか。

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『FRIDAY』2022年7月29日・8月5日号より

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